『南の貧困/北の貧困』は、高校現代文の教科書に出てくる評論文です。そのため、定期テストなどにも出題されています。
ただ、実際に読み進めると難しい言い回しが多いため筆者の主張などが分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、本作のあらすじや要約、テスト対策などをわかりやすく解説しました。
南の貧困/北の貧困のあらすじ
貧困な層の定義として、一日当たりの生活費が一ドルという水準や、年間所得が二七五ドル以下というカテゴリーがある。貧困のこのようなコンセプトは、現実の構造を的確に認識する用具として、適切な定義の仕方と言えるだろうか?
中国南部の少数部族の人たちは平均年収が4800円ほどだが、長生きなことで知られ、悩みもなく高栄養価の食べ物を食べている。アメリカの先住民の中にもそれぞれ違った形の豊かな日々があったが、彼らが住み、自由に移動していた自然の空間から切り離されて共同体を解体された時に、彼らは不幸となり、貧困になった。
貧困は、金銭を持たないことにあるのではなく、金銭を必要とする生活の形式の中で、金銭を持たないということにある。貨幣からの疎外の以前に、貨幣への疎外がある。この二重の疎外が、貧困の概念である。
「南の貧困」や南の「開発」を語る多くの言説は、原理的には誤っているし、長期的には不幸を増大するような開発主義的な政策を基礎づけてしまうことになるだろう。貨幣を初めから必要としない世界の「貧困」を語るのは、意味のない尺度なのである。
二重の疎外であるというコンセプトは「北の貧困」にもそのままあてはまる。現代の情報消費社会のシステムは、人間に何が必要かということに対応するシステムではなく、「マーケット(市場)」として存在する「需要」にしか相関することがない。必要に対応することはシステムにとって原理的に関知するところではないという落差の中に、「北の貧困」は構成されている。
現在の「豊かな国々」において、この貧困の相当部分は、種々の政策的「手当て」を通して救済されている。原理上の矛盾に対応する「福祉」という補完システムによる手当は、第二次的な「手当て」であり、「救済」である。
この構造は、「福祉」という領域を傷つけられやすいものとしている。「福祉」というコンセプトが、それ本来の目的性においてではなく、システムの矛盾を補欠するものとして、消極的な定義しか受けていないのである。
南の貧困/北の貧困の要約&本文解説
- 貧困のコンセプトは、「二重の疎外」であることを述べる。
- 南の貧困と北の貧困について、それぞれの特徴を述べる。
- 現代の社会システムの欠落を補完する「福祉」について述べる。
筆者は、「二重の疎外」とは「貨幣からの疎外の以前に、貨幣への疎外があること」だと述べています。
「貨幣からの疎外」とは、単に「金銭を持たないこと」です。貨幣社会にすら入らない中国の少数部族の生活が例として挙げられています。
「から」という語を付けることにより、「人間が貨幣から疎外されている(のけものにされる)」というニュアンスになります。
一方で、「貨幣への疎外」とは「金銭を必要とする生活の形式の中へ組み込まれること」です。アメリカの先住民が、自然の空間から切り離され、共同体を解体されたときに貧困になったことが例として挙げられています。
「への」という語を付けることにより、「人間が貨幣を除外する(のけものにする)」というニュアンスになります。
この二つの疎外が、貧困の概念であり定義であると筆者は述べているということです。つまり、筆者が繰り返し述べている「貧困」とは「金銭を持たないこと以前に、金銭を必要とする生活の形式の中へ組み込まれることでの貧困」という意味になります。
南の貧困/北の貧困の語句・漢字一覧
【カテゴリー】⇒同じような性質のものが含まれる範囲。範疇(はんちゅう)。
【コンセプト】⇒概念。捉え方。
【長寿(ちょうじゅ)】⇒寿命の長いこと。
【温暖(おんだん)】⇒気温がほどよくあたたかで、過ごしやすい気候であること。
【汚染(おせん)】⇒細菌・有毒物質・放射性物質などによって、よごされること。
【鍛える(きたえる)】⇒心身を強固にする。
【喫煙(きつえん)】⇒タバコを吸うこと。
【先住民(せんじゅうみん)】⇒現在住んでいる人々に先だって住んでいる人々。
【共同体(きょうどうたい)】⇒生活や経済活動を共にする個人や複数の団体の集まり。
【解体(かいたい)】⇒一つにまとまったものをばらばらにすること。
【媒介(ばいかい)】⇒双方の間に立ってとりもつこと。なかだち。
【尺度(しゃくど)】⇒ものさし。判断の基準となるもの。
【近似的(きんじてき)】⇒ある状態や数量に似通っていること。近いこと。「近似的な尺度」で、ここでは「大体の値を測る尺度」という意味。
【一般論(いっぱんろん)】⇒特定の事柄を考慮せず、全体的に扱う理論。
【言説(げんせつ)】⇒言葉で説明すること。また、その説明。
【立脚(りっきゃく)】⇒立場やよりどころを定めること。
【的を失する(まとをしっする)】⇒肝心な点を捉えそこなうこと。
【過つ(あやまつ)】⇒思い違いをする。
【意図(いと)】⇒おもわく。もくろみ。
【資本主義(しほんしゅぎ)】⇒生産手段を所有する資本家階級が、労働者階級から労働力を商品として買い、それを使用して生産した剰余価値を利潤として手に入れる経済体制。
【開発(かいはつ)】⇒土地などの天然資源を活用して、農場・工場・住宅などをつくり、その地域の産業や交通を盛んにすること。
【システム 】⇒制度。仕組み。
【至高(しこう)】⇒この上なく立派で優れていること。
【GNP】⇒国民総生産。Gross National Productの略。一国において一定期間に生産された財・サービスの総額。経済指標として広く利用されてきたが、現在は多く国内総生産(GDP)を用いる。
【赤裸々(せきらら)】⇒包み隠さずあからさまであること。
【典型(てんけい)】⇒同類ないし同種のものの中で、それらの特性を端的に示しているもの。
【照準(しょうじゅん)】⇒ねらいを定めること。
【充足(じゅうそく)】⇒十分に満たすこと。満ちたりること。
【羨望(せんぼう)】⇒うらやむこと。
【顕示(けんじ)】⇒明らかに示すこと。
【客観性(きゃっかんせい)】⇒客観的であること。だれもがそうだと納得できる、そのものの性質。
【地平(ちへい)】⇒ある観点をとったとき、視野に入る範囲のこと。(比喩的に)物事を考えたり判断したりする際の、思考の及ぶ範囲。
【絶対性(ぜったいせい)】⇒絶対的であること。他に比較するものや対立するものがないこと。
【即する(そくする) 】⇒ぴったり適合する。
【依存(いぞん・いそん)】⇒他のものをたよりとして存在すること。
【切実(せつじつ)】⇒身近に深くかかわっているさま。
【生成(せいせい)】⇒新たにつくり出すこと。
【相関項(そうかんこう)】⇒お互いに関係し合っている項目。「相関」とは「お互いに関係し合うこと」という意味。
【端的(たんてき)】⇒明白なさま。
【福祉(ふくし)】⇒公的な配慮・サービスによって社会の成員が等しく受けることのできる充足や安心。
【欠落(けつらく)】⇒あるべきものが抜けていること。
【補充(ほじゅう)】⇒不足しているものを補うこと。
【論理的(ろんりてき)】⇒論理にかなっているさま。きちんと筋道を立てて考えるさま。
【パラメーター】⇒媒介変数。ここでは、必要という変数と需要という変数との関係を求める変数。
【欠如(けつじょ)】⇒欠けていること。足りないこと。
【矛盾(むじゅん)】⇒つじつまの合わないこと。
【俎上(そじょう)】⇒まな板の上。「議題の俎上に載せられる」で、ここでは「議題として取り上げられること」という意味。
【骨子(こっし)】⇒中心となる事柄。重要な部分。
南の貧困/北の貧困のテスト対策問題
次の下線部分の漢字を、送り仮名を含め答えなさい。
①肉体をキタエル。
②新参者をソガイする。
③シコウの存在としての神。
④次の大会にショウジュンを合わせる。
⑤センボウのまなざしで見る。
⑥彼は自己ケンジ欲が強い性格だ。
⑦タンテキに要点を述べる。
⑧ショウビョウ手当てを支給する。
⑨人間性がケツジョしている。
⑩計画のコッシを理解する。
「この二重の疎外が、貧困の概念である」とあるが、「二重の疎外」とは何か?次の空欄の文字数に当てはまる形で答えなさい。
〔 7文字 〕と〔 6文字 〕
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)貧困の概念は、金銭を持たないことにあるのではなく、金銭を必要とする生活の形式の中で金銭を持たないという二重の疎外である。
(イ)アメリカの先住民は、彼らが自由に住んでいた自然の空間から切り離され、共同体を解体された時に、不幸になり、貧困になった。
(ウ)現代における「南」の人々の大部分が貧困であることは事実だが、それは単にGNPが低いから貧困というわけではない。
(エ)現代の情報消費社会では、「福祉」というコンセプトがシステムの原理上の矛盾を補欠するものとして積極的な定義を受けている。
まとめ
以上、今回は『南の貧困/北の貧困』について解説しました。難しい評論文ですが、一つ一つの言葉の意味がわかれば内容も理解しやすくなります。ぜひテスト対策として見直して頂ければと思います。