「耳を澄ます」という慣用句をご存知でしょうか?小説や俳句などにおいてよく登場し、「耳を澄ませる」などとも言います。
ただ、似たような慣用句で「耳を傾ける」「耳をそばだてる」などがあるので、違いが気になる人も多いと思われます。そこで本記事では、「耳を澄ます」の使い方や短文、類義語などを詳しく解説しました。
耳を澄ますの意味・読み方
最初に、この慣用句を辞書で引いてみます。
【耳を澄ます(みみをすます)】
⇒聞こうとして注意を集中する。注意して聞く。耳をそばだてる。耳をそばめる。耳を立てる。
出典:精選版 日本国語大辞典
「耳を澄ます」は「みみをすます」と読みます。意味は「聞こうとして注意を集中する・注意して聞く」といった行為を表したものです。
簡単な短文を紹介すると、次のようになります。
つまり、「虫の鳴き声を聞こうと注意を集中した結果、その声が聞こえた」という意味です。
私たちの生活では、通常であればなかなか聞き取ることのできない音というのが存在します。これは、自分の意識が他にいっていたり周囲の雑音の影響であったり、あるいはそもそも音自体が小さかったりなど様々な要因が考えられます。
そのような時に、「余計な意識は捨てて、声や音自体に集中する」という意味で「耳を澄ます」を用いるわけです。
「耳を澄ませる」との違い
「耳を澄ます」と似た表現で「耳を澄ませる」があります。両者の主な違いは、文法的なものとなります。
「澄ます」⇒動詞「澄む」を他動詞にした形。
「澄ませる」⇒動詞「澄む」のマ行五段活用の未然形「澄ま」に使役の「せる」が付いた形。
「澄ます」は、動詞「澄む」を他動詞にしたものです。他動詞なので自動詞である「澄む」とは異なり、「~を」などのように前に目的語をとる形となります。
一方で、「澄ませる」も同じく他動詞なのですが、こちらは「使役」である「せる」が付いているのがポイントです。「使役」とは「ある行為を他人に行わせること」を表す文法的な表現です。
そのため、「澄ませる」の方は自分ではなく他人の耳を澄ませるような時に使うのが適しています。ただ、一般に「注意して聞く行為」というのは、自らが行う時にするものです。
他人に対して注意して聞かせる行為というのは、そうあるものではありません。したがって、「耳を澄ませる」よりは「耳を澄ます」の方が自然で、なおかつよく使われている表現だと言えます。
耳を澄ますの類義語
「耳を澄ます」は、次のような類義語で言い換えることができます。
- 耳を立てる
- 耳をそばめる
- 耳をそばだてる
- 聞き耳を立てる
- 注意深く聞く
- 熱心に聞く
- 耳を傾ける
- 耳をダンボにする
- 耳を澄まして聞く
いずれも何かの物事を「注意して聞くこと」を表したものとなります。この中でも、「耳を傾ける」は普段の文章でもよく使われる慣用句です。
「耳を傾ける」とは「注意して聞く・熱心にじっと聞く」などの意味を表します。「耳を澄ます」と似たような意味ですが、「耳を澄ます」の場合は、静かにしないと聞こえないような小さな音や声を聞くような際に使われます。
対して、「耳を傾ける」は相手の声や音というよりはその内容を熱心に聞くような際に使われます。分かりやすい例で比較しますと、次の通りです。
「先生の話に耳を澄ます。」⇒「先生の(聞こえにくい)話を注意して聞く。」
「先生の話に耳を傾ける。」⇒「先生の話(の内容)を熱心に聞く」
なお、「耳を立てる」「耳をそばめる」「耳をそばだてる」は「耳を澄ます」とほぼ同じ意味です。したがって、この三つに関しては「耳を澄ます」の同義語と定義しても問題ありません。
耳を澄ますの対義語
「耳を澄ます」の対義語は以下の通りです。
- 聞き忘れる
- 聞き漏らす
- 聞き落とす
- 聞き逃す
- 聞き損なう
- 見過ごす
- 見落とす
対義語の場合は、相手の声を聞き逃したり聞き漏らしたりする内容を表したものとなります。他には、そもそも聞こうとすらしないという意味で、「聞く耳を持たない」なども反対語だと言えます。
耳を澄ますの英語訳
「耳を澄ます」は、英語だと次のように言います。
①「listen carefully」(注意深く聞く)
②「strain one’s ears」(耳をそばだてる・耳を澄ます)
①は「注意深く聞く」という意味です。「carefully」は「注意深く・用心して」などを表す副詞なので、このような意味となります。
また、②の「strain」には「(ぴんと)張る・引っ張る・みはる・すます」などの意味があります。ここでは、「すます」という訳を当てはまるのが適しています。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
He listened carefully to the birdsong.(彼は小鳥のさえずりを注意深く聞いた。)
My brother strained his ears to hear the president.(兄は社長の話を聞こうと耳をすませた。)
耳を澄ますの使い方・例文
最後に、「耳を澄ます」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 森の中に入って耳を澄ますと、野鳥の鳴き声が聞こえてくるものだ。
- 隣のテーブルから話し声が聞こえてきたので、思わず耳を澄ました。
- 壁が薄いアパートなので、耳を澄ますと隣人の話し声が聞こえてくる。
- どこからか鳴き声が聞こえるので、耳を澄ますと小さな子犬であった。
- 田舎に行ってふと耳を澄ますと、虫や動物の鳴き声が聞こえてくる。
- 背後から物音が聞こえてくるので耳を澄ましたが、何も聞こえなかった。
- 政治家は、国民一人一人の小さな声にも耳を澄ます必要があるだろう。
「耳を澄ます」はわずかに聞こえてくる音に対して神経を耳に集中させる行為を表します。したがって、その対象としては注意しないと聞き取れないものであることが多いです。例えば、虫や野鳥の鳴き声、隣人からの話し声といったものです。
また、最後の例文のように音や声ではなく、「意見・考え」といった対象に使われることもあります。この場合は、実際に物音が聞こえてくるというわけではなく、「意見を聞く」という一種の比喩表現と考えればよいでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「耳を澄ます」=聞こうとして注意を集中する・注意して聞く。
「類義語」=「耳を立てる・耳をそばめる・耳をそばだてる・熱心に聞く・耳を傾ける」など。
「対義語」=「聞き忘れる・聞き漏ら・す聞き落とす・聞き逃す・聞き損なう・聞く耳を持たない」など。
「英語訳」=「listen carefully」「strain one’s ears」
「耳を澄ます」は、日常的にも使われている慣用句です。意味を覚えたからには、ぜひ正しい場面で使って頂ければと思います。