事 こと 使い分け 違い 形式名詞 具体例

こと」という言葉を使う場合、二つの書き方が存在します。

「珍しいが起こる。」「そんなことはない。」

前者は漢字、後者はひらがなでの表記です。この二つの違いはどこにあるのでしょうか。

今回は、「事」と「こと」の違いについて具体例を交え分かりやすく解説しました。

「事」の意味

 

まずは、「事」の意味からです。「」には「普通名詞」としての意味があります。

「普通名詞」とは、犬・車・りんご・海などのように普通の一般的な名称のことを表します。(対義語は「固有名詞」)

言い換えると、「普通名詞」=「本来の言葉の意味として使われている名詞」ということです。

今回の「事」だと、本来は「事件」や「出来事」などの意味として使われていることが当てはまります。

【例】⇒「大変なが起こる。」

上の例文は「事」が使われていますが、「事」自体は本来の意味である「事件」「出来事」などの意味として使われているということです。

また、「普通名詞」は、文法だと単独で主語になることができ、前に修飾語を必要としないのが特徴です。

先ほどの例文だと、「大変な」という部分を除いて「事が起こる。」という文だけでも内容としては成立します。なぜなら、「事」自体が主語だからです。

このように、「事」には前の修飾語を省いても単独で意味が通じるという特徴があるのです。

「こと」の意味

 

続いて、「こと」の意味です。「こと」には、「形式名詞」としての意味があります。

形式名詞」とは「それ自身では実質的な意味を持たず、常に連体修飾語を受けて名詞としての機能を果たす語」のことを指します。

【例】⇒「これから出かけるところだ」の「ところ」。

   ⇒「海に行くときは車で行く」の「とき」など。

これと同様に、「こと」にも「形式名詞」としての役割があります。例えば、以下のような使い方です。

【例】⇒「そんなことはないです。」「思ったことを言いなさい。」

「形式名詞」には、必ず前に修飾語が付くという特徴があります。

上記の例文だと、「そんな」や「思った」などの修飾語が前に付くということです。

もし仮に修飾語を除いてしまうと、文としての意味が通じなくなってしまいます。

なぜかと言いますと、形式名詞は実質的な意味を持たず、漠然とした内容しか表していないからです。

そのため、形式名詞の「こと」を使う場合は、「こと」単体で主語になるようなことはできません。

「事」と「こと」の違い

事 こと 使い分け 違い

以上の解説から考えますと、「事」と「こと」の違いは次のように定義できます。

」=普通名詞。単独で主語になれて、前に修飾語がいらない。

こと」=形式名詞。単独で主語になれず、前に修飾語が必ず付く。

「事」を使う場合は、前に修飾語がなくても意味が通じます。一方で、「こと」の場合は必ず前に修飾語が付くのが特徴です。

簡単に判別する方法としては、【「こと」に「事件」を当てはめて意味が変わるかどうか?】というものがあります。

例えば、「大変なが起こる」という文があったとして、「大変な事件が起こる」に置き換えたとしましょう。

この場合、元の文と後の文の基本的な意味が変わらないので「普通名詞」だということが分かります。

対して、「そんなことはない」という文に対して同様に「事件」を当てはめてみるとします。

「そんなことはない」⇒「そんな事件はない」

この場合は、元々の文の意味から大きくかけ離れているので、上記の「こと」は「形式名詞」と判断できるわけです。

必ずしもこの判別方法が適用できるわけではありませんが、一つの目安として使うのがよいでしょう。

一番良いのは漢字本来の意味から覚えていく方法です。

「事」という漢字は、元々「事件」や「出来事」の「事」を由来とする字でした。したがって、単独でもある程度具体的なイメージを持つことができる言葉となります。

ところが、「こと」という言葉は実体や内容がはっきりしていません。そのため、「こと」の方は具体的なイメージではなく、抽象的なイメージを表すような時に使うのです。

公用文での表記・使い分け

 

「事」と「こと」については、「公用文」でも使い分けがされています。

公用文に関しましては、内閣訓令において以下のような原則を定めています。

次のような語句を()の中に示した例のように用いるときは、原則として仮名で書く。

ある(その点に問題がある。)

いる(ここに関係者がいる。)

こと(許可しないことがある。)

できる(だれでも利用ができる。)

とおり(次のとおりである。)

とき(事故のときは連絡する。)

ところ(現在のところ差し支えない。)

とも(説明するとともに意見を聞く。)

ない(欠点がない。)

なる(合計すると1万円になる。)

ほか(そのほか…,特別の場合を除くほか…)

もの(正しいものと認める。)

ゆえ(一部の反対のゆえにはかどらない。)

わけ(賛成するわけにはいかない。)

~以下略~

出典:「公用文における漢字使用等について」内閣訓令第1号)

上記三文目の箇所に、「許可しないことがある。」のように用いる時には、原則として仮名(こと)で書く。と表記されています。

すなわち、「公用文」についても私文書と同様に、形式名詞の場合はひらがなで書くことが推奨されているということです。

ただし、これはあくまで国が推奨しているという話であり、必ずしも厳格に使い分けが徹底されているわけではありません。

最近では、普通名詞でも漢字ではなくひらがなで書く傾向も見られます。特に「こと・もの・ところ」などについては、その傾向が強いようです。

これは世の中の流れとして、漢字ではなく、なるべく分かりやすいひらがなを書くことの方が好まれているからだと思われます。

いずれにせよ、「普通名詞は漢字」「形式名詞は仮名」という決まりができたのは戦後のことです。そのため、昔の小説(特に戦前)などでは、形式名詞にも関わらず作品の中で漢字で書かれている場合もあります。

使い方・例文

 

最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。

【事の使い方】

  1. もし相手に知られたら、である。
  2. まずは、の推移を見守ることにしよう。
  3. なきを得る」とは、よく言ったものだ。
  4. 争いを生むだけなので、喧嘩はよしてくれ。
  5. 勉学だけでなく、遊びをすることも時には重要だ。

【ことの使い方】

  1. 仕事は前もって準備することが重要である。
  2. 今回の問題については、うまいこと処理してください。
  3. 手ぶらで仕事現場に来る奴など、聞いたことがない。
  4. あんなことになって、本当に申し訳なかったです。
  5. 私の本音を言うならば、勝手なことをするなと言いたい。

まとめ

 

以上、本記事のまとめとなります。

」=普通名詞。単独で主語になれて、前に修飾語がいらない。

こと」=形式名詞。単独で主語になれず、前に修飾語が必ず付く。

公用文での使い方」⇒「形式名詞」の場合はひらがなで書くことを推奨。

「事」は具体的なイメージの言葉、「こと」は抽象的なイメージの言葉と覚えておきましょう。