会計に関する用語で「経理」と「計理」があります。どちらも「けいり」と読みますが、正しい言葉はどっちなのかが分かりにくいです。
同じ意味の語なのか、それとも異なった意味の語として使い分ける必要があるのか疑問に思う人も多いと思われます。
そこで本記事では、「経理」と「計理」の違いについて詳しく解説しました。
経理と計理の意味
まず「経理」とは 「会計・給与に関する事務。また、それを処理すること」という意味です。
「経理」の「経」という字は字訓が「へる」で、本来は横糸の「緯」と対を成す「縦糸」のことです。
そこから派生して「筋道を立てて取り計らう」という意味になり、現在では「経営・経費」などのように用いられています。
対して、「計理」とは一言で言うと「会計」と同じ意味です。「会計」とは、金銭の収支や財産の変動、損益の発生などを計算し、報告する行為のことです。
「計理」の「計」は字訓が「はかる」で、特に「まとめて数える」という意味を持っています。「計算・計量」などのように用いられているのがこの意味です。
また、両者に共通する「理」という字は、本来は「筋目・筋道」のことであり、「筋道に従って整える」という意味があります。
「整理・修理」などのように用いるのがこれで、人名で「おさむ」と読むのも同じ意味です。
よって、両者の意味は次のように定義することができます。
「経理」=筋道を立てて整えること。「計理」=まとめて数えて整えること。
経理と計理の由来
「経理」と「計理」について中国の古典を見ると、漢和辞典などでは、「経理」の用例が多く挙げられています。
例えば、前漢時代の歴史書である『史記』には、次のように記述されています。
「皇帝明徳ニシテ宇内ヲ経理ス」
出典:司馬遷『史記』
また、『学研国語大辞典』に見られる次のような用例もこのような漢籍に基づく使われ方です。
道徳は人生を経理するに必要だらうけれど、人生の真味を味はふ助にはならぬ。
出典:二葉亭四迷『平凡』
この「経理」という語が後に経済用語として「経営管理」に用いられ、「財産や会計、給料の管理処理」を意味する語となりました。
「経理課・経理規定」「陸軍経理学校・〇〇経理学院」「特別経理会社」などの「経理」がまさにこの意味としての用例です。
その他、一般用語としての次のような使い方も経済学の用語に基づくものです。
「経理に明るい人・管理に関する経理を明確にする・一般会計と区分して経理する」
一方で、「計理」に関しては中国の古典にはその用例が見当たりません。
『大言海』や『大日本国語辞典』などを確認してみても、掲げてあるのは「経理」だけです。「計理」を掲げているものは一つとしてありません。
よって、「計理」の方は「経理」よりも後に作られた造語であるという事が分かります。※「造語」とは、既存の語を組み合わせるなどして作られた新しい意味の言葉のことです。
経理と計理の違い
以上の事から考えますと、両者の違いは「経理」が古くからある「古語」、「計理」が比較的新しく作られた「造語」であると言えます。
「経理」は、紀元前から使われているかなり古くからある語です。対して、「計理」の方は比較的近年になってから作られた造語です。
「計理」は1927年の「計理士法」が始まりで、1927年~1967年まで「計理士」と呼ばれる国家資格として使われていました。
「計理士法」の制定に当たり、「経理士」ではなく「計理士」が使われた理由は、「会社の経理全般に関係するものではない」という考え方に基づいています。
それはつまり、「会計に関する検査・調査・代行に関係するだけである」という考えで、「経理」の「経」を同音の「計」に改め、新たに「計理」という語を造ったわけです。
この場合の造語法は、「労資」という語が「労使」になったのと似ています。
元々、すでに「労資」という言葉はすでにありましたが、資本家の「資」では世の中の実情に合わなくなってきたということで「労使」という語を造った例があります。
こうして「計理」という語が造られると、例えば次のような用例も生まれるようになりました。
第四条第一項 貸借対照表勘定及び損益勘定を設けて計理するものとする。
第二条第一項 この会計の計理は、(中略)財産の増減及び異動の事実に基づいて行う。
出典:郵政事業特別会計法 1949・5・28 法109
また、「〇〇経理学院」などの名称以外に「〇〇計理学院」などの名称も見られるようになりました。このような経緯もあり、「経理」の他に「計理」という語も定着したわけです。
どちらを使うべきか?
両者の使い分けですが、現在においては原則として「計理」ではなく「経理」を使うという選択をとれば問題ありません。
なぜなら、「計理」が使われるようになった「計理士法」そのものが1967年で廃止されるようになったためです。
1948年の「公認会計士法」の制定により、計理士の職務は公認会計士が扱うようになりました。そうした流れで、計理士制度そのものも1967年の3月31日限りで廃止されることととなりました。
また、旧来の「経理」という語と、計理士の形ではなく用いられる「計理」という語については、「法令用語改正要領」で「統一して用いる」と中に例示されています。
これはつまり、「経理に統一して用いる」という意味です。その点で、「計理」という語は法令用語としてしか用いられなくなる語ということになります。
したがって、原則として「計理」ではなく「経理」を用いるという結論になるわけです。
ただし、「計理士法」そのものは廃止されても、学校名としては「○○計理学院」などの名称は残っています。また、久しく親しまれてきた「計理士」という名称も俗称(正式ではない呼び名)としては残っています。
そのため、完全には排除できない語が「計理」なのです。
なお、メディアにおける『新聞用語集』では次のように記述されています。
つまり、原則として「経理」を使うが、「計理士」についてはそのまま用いるということです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「経理」=筋道を立てて整えること。「計理」=まとめて数えて整えること。
「違い」=「経理」が古くからある「古語」、「計理」が後から作られた「造語」。
「使い分け」=原則として「経理」を用いる。「計理」は「〇〇計理学院」「計理士」など例外的なケースのみ。
「経理」と「計理」は、どちらも使われているという現状があります。ただ、「計理」という語は法令用語としては使われなくなった語です。そのため、一部の例外を除いて「経理」を用いるのが正しいということになります。