「かくせいき」を漢字で書く場合、「拡声器」と「拡声機」の2つがあります。つまり、最後の部分を「機」にするのか?それとも「器」にするのか?という問題です。
両者ともよく使われているイメージですが、どちらを使えばよいのでしょうか?本記事では、「拡声器」と「拡声機」の違いについて詳しく解説しました。
拡声器と拡声機の違い
まず、分かりやすいように両者の漢字を比較していきます。
「器」という字は、「単純な構造・原理で動きのほとんどない物」という意味があります。「器」は元々「容器」や「道具」といった意味があり、「食器」「土器」などの熟語として使われていました。
ここから派生して、現在では「消火器」や「電熱器」のような単純な原理によって変化を起こすものにも用いられています。
一方で、「機」という字は「精密な構造を持ち、複雑な原理で動く物」という意味があります。これは「機械」「機材」などの熟語がある事からも分かるかと思われます。
つまり、「機」の方は細かい細工を施して動くようにしたもの、例えば「洗濯機」や「テレビ受信機」などのような何段階かの手順を組み合わせたものに使うということです。
以上の事を踏まえますと、「拡声器」はメガホンのような単純な構造で声や音を大きくするものと定義することができます。
一方で、「拡声機」の方はマイクやアンプ、スピーカーなどを備えた複雑な構造で声や音を大きくするものと定義することができます。
簡単に言えば、「単純な構造なのか?複雑な構造なのか?」といったことです。「拡声器」は単純な構造・原理のものに使います。対して、「拡声機」の方は複雑な構造原理のものに使います。
拡声器と拡声機の使い分け
しかしながら、実際問題として現在はメガホンのような単純な構造・原理のものに対して「かくせいき」を用いることは少ないです。
メガホンにトランジスタ・アンプを付けたものも、「かくせいき」ではなく「トランジスタ・メガホン」などと呼ばれています。
私たちの日常生活を見ても、野球場でメガホンを持って応援している人に対して、「あの人は拡声器を持って応援している」などと言う人はいないでしょう。
ではなぜ「拡声器」という表記があるのかと言いますと、学術用語集にこの用語が載っていたためです。
『学術用語集・電気工学編』(昭和32.11・学術審議会学術用語分科会)によると、部品名としてラウドスピーカーに「拡声器」という名称が与えられています。
この名称に従い、国語辞典の多くも「拡声器」という名称を載せています。
【拡声器(かくせいき)】
⇒音声を拡大する装置。メガホンやラウドスピーカーなど。→スピーカー
出典:デジタル大辞泉(小学館)
そのため、「拡声器」という名称は一般には使われないものの、その表記が存在するということです。
一般に「かくせいき」と称するのはマイクやアンプ、スピーカーを備えた複雑な構造の放送装置です。そして、これについては電機メーカー側も「拡声機」という表記を同じように用いています。
したがって、どちらが優先的に使われているか?と問われれば「拡声機」という結論になります。
なお、「拡声機」という表記は多くの辞書には載っていません。いずれの辞書においても「拡声器」という表記が優先的に載せられています。
ただ、これは先述したように学術用語集の表記に沿ったものなので、実際に使うかどうかは別問題です。現在においては、「拡声器」を使う機会はかなり少ないと考えて下さい。
その他の「器」と「機」は?
「かくせいき」と同じように「器」と「機」を使い分けるケースは他にもあります。例えば、「けいさんき」や「ふんむき」などです。
「計算器」というのは、そろばんや計算尺のように単純な構造のものを指します。対して、「計算機」というのは歯車式、リレー式、電子式などのように複雑な構造のものを指します。
つまり、自動的ではなく手動的な操作で計算をする装置を「計算器」と言い、逆に自動的かつ機械的に計算をする装置のことを「計算機」と言うということです。
また、「ふんむき」も園芸用の小型のものを「噴霧器」と言います。この場合は、液体を霧状にしてふき出させて散布する器具のことを意味します。一言で言えば、「スプレー」のことです。
対して、農業用の農薬散布機械などの機械は「噴霧機」と言います。これは文字通り機械によって大量に液体を噴射するような時に使うものです。
なお、「でんわき」に関しては通常「電話機」と表記します。ただし、「電話機」の一部としての「そうわき」「じゅわき」となった場合は、「送話器」「受話器」と表記します。
その理由は、「電話機」が音声を交換して離れた場所と通話する「機械」を表すのに対し、「送話器」や「受話器」は送信時・受信時における音声再生の「装置」を表すためです。
他には、次のような言葉にも「器」と「機」が用いられています。
このように比較すると、世の中には数多くの「器」と「機」が使い分けられているという事実に気づくのではないでしょうか。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「拡声器」=メガホンのような単純な構造で声や音を大きくするもの。
「拡声機」=マイクやアンプ、スピーカーなどを備えた複雑な構造で声や音を大きくするもの。
「違い」⇒前者は「単純な原理・構造で動きほとんどないもの」、後者は「精密な構造、複雑な原理で動くもの」。
「使い分け」⇒原則として「拡声機」を使う。「拡声器」を使うケースは少ない。
「その他の用例」⇒「計算器-計算機」「噴霧器-噴霧機」「電話機-送話器・受話器」
私たちが一般に使う際には「拡声機」の方を使います。「拡声器」も使えないことはありませんが、「拡声器」を使う時は「メガホン」などの具体的な対象自体を指して使うことが多いです。