「暇を出す」という慣用句をご存知でしょうか?
芥川龍之介の有名な小説、『羅生門』の中に登場する言葉でもあります。この「暇を出す」ですが、現在ではなかなか目にしない慣用句なのでイメージがわきにくいです。
そこで本記事では、「暇を出す」の意味や読み方、短文、類義語などを含め詳しく解説しました。
暇を出すの意味・読み方
最初に、この言葉を辞典で引いてみます。
【暇を出す(ひまをだす)】
①休暇を与える。暇をやる。「夏に一週間の―・す」
②使用人などをやめさせる。また、妻を離縁する。暇をやる。「怠けて―・される」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「暇を出す」は「ひまをだす」と読みます。
「暇」という字は「ひま」以外に「いとま」とも読めるので、「いとまををだす」と読む場合もあります。どちらでも読むことが可能ですが、一般的には「ひま」と読むことが多いです。
そして、「暇を出す」の意味ですが大きく分けて二つあります。一つは、「休暇を与える・休ませる」という意味です。
この場合の意味としては、単に「休みを与える」というわけではなく、半ば強制的に休ませるというニュアンスがあります。すなわち、一種の懲罰的な要素が含まれるということです。
上の例文であれば、何か仕事でミスをした人へ叱責する意味も込めて「休みを与えた」という意味になります。仕事を頑張った人へ休みを与えるようなバカンス的な要素あるいはポジティブな要素が含まれるものではありません。
そして二つ目は、「使用人などをやめさせる」という意味です。
「使用人」とは他人に雇われて働く人のことで、対義語は「主人」や「雇い主」などを指します。つまり、(主人や雇い主が)使用人をやめさせることを「暇を出す」と言うわけです。
簡単に言えば、「クビを宣告すること」が二つ目の意味ということになります。
なお、辞典の説明にもあるように、場合によっては「離縁する」という意味で使われることもあります。
「離縁」とは「夫婦の関係を断つこと」で、「妻を離縁する」「離縁状」などの使い方が主なものです。これと同様に、夫や妻との関係を断つ際に「暇を出す」が使われることもあります。
羅生門での使い方は?
「暇を出す」という言葉は、『羅生門』の中に登場します。以下、実際の引用箇所です。
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。
出典:『羅生門』芥川龍之介
ここでの「暇を出された」は「解雇された」という意味で使われています。つまり、「(主人から)使用人をやめさせられた」ということです。
『羅生門』の舞台となっているのは平安時代の京都です。平安時代と聞くと、何となく華やかなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、当時の京都は天災や飢饉、疫病などで世の中が大きく混乱していました。
そんな中、本作の主人公である下人は主人に雇われて生活をしていましたが、その仕事も世の中の不景気により失うことになってしまいます。その際に「おまえはもういらない」という意味で主人から仕事をやめさせられたことを「暇を出された」と表現しているわけです。
もし仮に、「休みを与える」という意味ならば、下人は主人の家に戻ることができたはずです。しかし、その後の展開だと、下人は「明日からの生活をどうしよう。」と悩みに悩みながらゆく当てもなくさまよう様子が描かれています。
したがって、ここでの「暇を出す」はやはり「仕事をやめさせられた」という意味になります。
暇を出すの類義語
「暇を出す」の類義語は以下の通りです。
- 解雇する
- 解除する
- 辞めさせる
- クビにする
- リストラする
- 首を切る
- 追い出す
- 引導を渡す
- 捨てる
- 路頭に迷わせる
表現は違えど、「(雇い主が)雇われている人を辞めさせる」という意味は共通しています。現代では、「リストラする」「クビにする」などは企業が労働者を辞めさせる際によく使われます。
その他、「離縁する」の類義語であれば、「絶縁する」「絶交する」「決別する」なども使うことが可能です。全く同じ意味の言葉(同義語)というのはありませんが、この中だと「辞めさせる」が意味としては近いです。
暇を出すの対義語
逆に、「暇を出す」の対義語としては次の言葉が挙げられます。
- 雇う
- 雇い入れる
- 雇用する
- 採用する
- 起用する
- 働かせる
- 仕事を課す
- 召しかかえる
- 取り立てる
「暇を出す」は「仕事をやめさせる」という意味を持つ言葉でした。したがって、反対語の場合は仕事に就かせたり労働者を雇い入れたりする意味を持つ言葉となります。この中では、「雇う」「働かせる」などは日常会話などでもよく使われる表現です。
暇を出すの英語訳
「暇を出す」は、英語だと次のように言います。
「fire」(クビにする・お払い箱にする)
「dismiss」(解雇する・解任する)
「let go」(辞めさせる・クビにする)
「fire」は、「辞めさせる」という意を持つもっとも一般的な単語です。フォーマルな場、カジュアルな場、どちらでも使うことができます。主に従業員に何らかの落ち度があった際に使われます。
「dismiss」は「fire」よりも改まった場で使われる表現です。そのため、正式な文章や改まった文章などで使うのに適しています。
最後の「let go」は「つかんでいるものを手放す」というのが原義で、そこから転じて「クビにする」という意味で使うことができます。
「let go」は文章というよりは、どちらかと言うと日常会話で使われる表現です。「解雇」という重い印象、きつい印象をやわらげるような目的で使われます。
それぞれの例文は、以下の通りです。
I was fired because I was late many times.(私は遅刻を何度も繰り返したのでクビにされた。)
The employee was dismissed because he was stealing money.(その社員はお金を盗んでいたので解雇された。)
We let her go last month.(私たちは彼女を先月に辞めさせました。)
暇を出すの使い方・例文
「暇を出す」は、例文だと次のように使います。
- 君には暇を出すことにしたので、もう少し冷静に自分を見つめ直しなさい。
- ここ数年赤字続きなので、従業員の何人かに暇を出すのも仕方ないだろう。
- 今月限りでお店を閉店することになったので、彼らには暇を出すことにした。
- あんなに頑張っていた君に暇を出すなんて、社長もひどいことをするんだね。
- 今回限りは彼を許すことにしたが、次同じミスをしたら暇を出すことにするよ。
- 彼は昨日急に暇を出されたらしい。さぞかし落ち込んでいるだろうね。
- 長年連れ添っていた妻にまさか暇を出すことになるとは思っていなかった。
「暇を出す」は古典や古語として使われることが多く、現代ではあまり多く使われる言葉ではありません。ただ、実際に使う際には例文のように「解雇する」という意味で使うことが多いです。「休みを与える」「離縁する」などの意味で使うことも可能ですが、これらの用例はそこまで多いものではありません。
また、「暇を出す」ではなく「暇をやる」という言い方をすることもあります。この場合も同じく、「解雇する・妻や使用人に対して関係を断ち切る」という意味で使われます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
【暇を出す】=①休暇を与える。休ませる。②使用人などをやめさせる。離縁する。
【羅生門での意味】=解雇する。仕事をやめさせる。
「類義語」=「解雇する・解除する・辞めさせる・クビにする・リストラする」など。
「対義語」=「雇う・雇用する・採用する・起用する・働かせる・仕事を課す」など。
「英語訳」=「fire」「dismiss」「let go」
「暇を出す」という慣用句は、一見するとバカンスのような休暇を与えられることだと勘違いしがちです。しかし、本来の意味はポジティブな意味ではなくネガティブな意味を持った言葉です。ぜひ正しい意味を理解した上で、使って頂ければと思います。