『フェアな競争』は、高校教科書・現代の国語で学ぶ評論です。ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくい部分もあります。
そこで今回は、『フェアな競争』のあらすじや段落分け、意味調べ、テスト対策などを含め解説しました。
『フェアな競争』のあらすじ
本文は大きく分けて、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①社会的共通資本には、自然資源、社会的インフラ、制度資本の三種類がある。これらの社会的共通資本は、専門家によってクールかつリアルな専門的知見に基づいて管理運営されなければならないため、そこに政治イデオロギーと市場経済は関与してはならない。これは制度論の常識である。
②だが、この常識はもう通らない。この社会にあるものはすべて「誰かの私物」であっていい、この世にあるすべての有用な資源は「フェアな競争」によって争奪されるべきものだと考えるリバタリアンが増えてきたからである。リバタリアンは、自分たちの地位や名声や資産は、自分の個人的努力の成果だとし、自己努力の成果たる資源を貧者に再分配することを認めない。教育も受けたければ、その代価は自分で払うべきで、それがフェアネスというものだ、と言う。しかし、「フェアな競争」というのは、短期的には整合的に思えるが、長期的には集団の存続を土台から脅かすリスクを含んでいる。
③フェアな競争の落とし穴は、未来の人を含め、同時代の競争相手からだけでなく、競争に参加していない人、できない人たちからもパイを奪ってしまうところにある。これを制止するためには、「勝者以外の人間にも地球上の資源の正当な分配に与る権利がある」ということについての社会的合意が必要である。
④このような当たり前のことは、ロックやホッブズ、ルソーなどが三百年前にも語っていたことであり、人類は三百年かけてほとんど進歩しなかったということになる。完全な格差社会というのは、地域全域にわたって、長期に存立することはできない。共同体の未来の世代がどうなるのかについて何も考えない人たちは、今の日本では「リアリスト」と名乗っているが、「未来を勘定に入れる」習慣を持たない人たちを「リアリスト」と呼ぶことに同意することはできない。
『フェアな競争』の要約&本文解説
筆者はまず、第一段落で「社会的共通資本についての常識」について触れています。自然資源、社会的インフラ、制度資本、この3つの社会的共通資本の管理運営には、政治と市場は関わってはならないと述べています。
そして次の第二段落で、この常識は通らなくなってきていると述べています。リバタリアンと呼ばれる個人の自由を絶対的に重視する人たちが、有用な資源は「フェアな競争」によって奪われるべきだと主張しているためです。
第三段落では、「フェアな競争」に潜むリスクについて述べています。フェアな競争には、公共的な価値を顧みずに、同時代の競争相手だけでなく、未来の人を含め競争に参加していない人やできない人たちからも利益のパイを奪ってしまうという内容です。
最後の第四段落では、「共同体の未来を考える必要性」について述べています。未来のことを考えず、今の時代のことしか考えていない人達ばかりの社会、すなわち完全な格差社会というのは、長期的には人類は存立することはできません。
こういった未来の世代を何も考えない人たちを、単に「リアリスト」と呼ぶことに筆者は同意できないと結論付けています。
『フェアな競争』の意味調べノート
【立ちゆかない】⇒成り立っていかない。
【湖沼(こしょう)】⇒みずうみとぬま。陸地に囲まれたくぼ地にできる静止した水塊(すいかい)。
【私物化(しぶつか)】⇒公あるいは共同体に帰属するものを、自分個人の所有物であるかのように扱うこと。
【存立(そんりつ)】⇒存在し、成り立っていくこと。
【不可欠(ふかけつ)】⇒なくてはならないこと。
【専門的知見(せんもんてきちけん)】⇒専門家の見方による、より正しい認識や見解。
【イデオロギー】⇒政治や社会に対する考え方。
【関与(かんよ)】⇒ある物事に関係すること。
【駆動(くどう)】⇒駆り立てて動かすこと。
【政局(せいきょく)】⇒政治の動向や情勢。
【制度論(せいどろん)】⇒国や社会を統治・運営するために定められたきまりに関する論。
【過半(かはん)】⇒半分を超えていること。
【成員(せいいん)】⇒団体や共同体などを構成する人。
【争奪(そうだつ)】⇒争って奪い合うこと。自分のものにしようとして、互いに争うこと。
【無償(むしょう)】⇒代価を払わないでいいこと。
【虫のいい(むしのいい)】⇒自分の都合ばかりを考え、身勝手である。図々しい。
【アンフェア】⇒公平でないこと。
【特異(とくい)】⇒特別に他とちがっていること。
【発祥(はっしょう)】⇒物事が起こり現れること。
【必然(ひつぜん)】⇒必ずそうなること。
【エートス】⇒ある社会や集団、民族を支配する倫理的な心的態度。
【刻苦勉励(こっくべんれい)】⇒苦しさに耐えながら、仕事や勉学に励むこと。
【子弟(してい)】⇒年少者。
【受益者(じゅえきしゃ)】⇒あることから利益を受ける人。
【ロジック】⇒論理。
【理路(りろ)】⇒物事の道理。考えや話などの筋道。
【合理的(ごうりてき)】⇒道理や論理にかなっているさま。
【中産階級(ちゅうさんかいきゅう)】⇒有産階級と無産階級の中間に位置する層。自営農業者や中小商工業者、公務員などが当てはまる。ここでは、公立学校が作られなければ、子供に教育を受けさせられなかった層を含め、大多数の層の人々を指す。
【整合的(せいごうてき)】⇒ずれや矛盾がなく、ぴったり合っているさま。
【リスク】⇒危険の生じる可能性。危険度。
【アナウンス】⇒公表すること。広く告げ知らせること。
【保全(ほぜん)】⇒保護して安全であるようにすること。
【可動域(かどういき)】⇒動かすことのできる範囲。「個人の可動域」で、ここでは、「個人ができることの限度」を表している。
【高が知れる(たかがしれる)】⇒程度がわかる。大したことはない。
【後は野となれ山となれ(あとはのとなれやまとなれ)】⇒目先のことさえなんとか済めば、あとはどうなってもかまわない。
【廃水(はいすい)】⇒使用後、不純物・有害物質等で汚れたために捨てる水。
【禍根(かこん)】⇒災いの起こるもとや原因。
【コスト】⇒費用。
【利己的(りこてき)】⇒自分の利益だけを追求しようとするさま。
【軍配が上がる(ぐんばいがあがる)】⇒勝ちになる。
【ツケ回し(つけまわし)】⇒後で支払いをさせること。「つけ」とは、「その場で支払わないで、あとでまとめて支払うこと」を意味する。
【枯渇(こかつ)】⇒水がかれること。かわいて水分がなくなること。
【線引き(せんびき)】⇒物事の境界を決めて分けること。
【頭数(あたまかず)】⇒人の数。必要な人数。
【洗いざらい(あらいざらい)】⇒何から何まで。すっかり。
【リアリスト】⇒現実主義者。現実に即して物事を考え、また処理する人。
【勘定に入れる(かんじょうにいれる)】⇒考えることや予想することの対象にする。
『フェアな競争』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①砂漠の中にコショウを発見した。
②国がソンリツの危機を迎える。
③リロ整然とした考えを持つ。
④優秀な人格をケイセイする。
⑤海洋オセンの問題を研究する。
次の内、本文の内容を適切に表したものを選びなさい。
(ア)三種類の社会的共通資本は、私念や私欲が介在するため、政治イデオロギーと市場経済が関与することが望ましいとされる。
(イ)リバタリアンは、自己の地位や名声、資産などの個人的成果を、貧者に再分配することがフェアなことだと考えている。
(ウ)「フェアな競争」の落とし穴は、同時代の競争相手や競争に参加しているすべての人から利益の分け前であるパイを奪ってしまう点にある。
(エ)完全な格差社会というのは一部の地域や一定の期間だけであれば、存立することができるが、全体的、長期的には存立することはできない。
まとめ
以上、今回は『フェアな競争』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。