会社や学校などに対して「沿革」という言葉がよく使われます。ただ、この「沿革」の意味を分かりにくいと感じる人は多いと思われます。
特に、似たような言葉の「経歴」や「年表」「歴史」との違いは気になるところです。そこで本記事では、「沿革」の意味や語源、類義語などを含めなるべく簡単に解説しました。
沿革の意味・読み方
まず最初に、「沿革」を辞書で引いてみます。
【沿革(えんかく)】
⇒物事の移り変わり。今日までの歴史。変遷。「町の―」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「沿革」は「えんかく」と読みます。意味は「物事の移り変わりや今日までの歴史」を表したものです。
この場合の「移り変わり」や「歴史」というのは、個人に使うわけではなく、企業や学校などの組織・団体に対して使われます。
例えば、企業のホームページをみると、その会社が歩んできた歴史がわかりやすく載せられています。
平成10年4月:株式会社○○設立
平成12年8月:東京に○○店をオープン
平成16年6月:社名を○○へ変更
平成18年5月:売上高1000億円を達成
平成20年12月:マザーズへ株式を上場
このように、組織や団体が今までどのような歴史を歩んできたか?という情報をまとめたものを「沿革」と呼ぶわけです。
「沿革」は、会社であれば従業員や顧客、株主など様々な関係者が閲覧するものです。就活生が参加する企業説明会などでも、必ずその会社の沿革が記されています。
そのため、組織の信頼性を判断したり、その団体の理念を知る上では非常に重要なものとなります。
沿革の語源・由来
「沿革」は、「沿」と「革」という二つの漢字から成る言葉です。
まず、「沿」という字は「沿岸」「沿線」などの熟語があるように、「沿(そ)う・従って進む」という意味があります。転じて、ここでは「形式や習慣に従う」という意味で使われています。
そして、「革」という字は「変革」「改革」などの熟語があるように「改める・新しくする」という意味があります。つまり、「今までの古い物事を改めて、新しくする」ということです。
よって、両者を合わせると、「沿革」の元々の意味は「今までの形式に従って、古いものから新しいものへ移り変わっていくこと」となります。この事から、「物事の移り変わり・歴史・変遷」などを表す言葉として使われるようになったわけです。
沿革の類義語
「沿革」と似た言葉は多いため、それぞれの違いを簡単に解説しておきます。
経歴との違い
「経歴」とは「今まで経験してきた仕事や学業、身分、地位などの事柄」を表したものです。一言で、「履歴」と言い換えられる場合もあります。
「沿革」は、会社や学校などの組織に対して使われるということでした。一方で、「経歴」は組織に使われるのではなく、個人に対して使われるという点が異なります。
例えば、よく使われる言葉として「職務経歴書」があります。これは「個人が今までどんな仕事をしてきたか?」という内容を詳しく記した書類のことです。個人に関する過去の情報をまとめたものなので、「沿革」ではなく「経歴」を用いることになります。
歴史との違い
「歴史」とは「社会が経てきた変遷・発展の経過。人生の移り変わり」などの意味です。
「歴史」は、一般に社会が経てきた変遷を表す際に使われますが、個人の人生に対しても使うことができます。一方で、「沿革」は個人の人生には使うことができません。例えば、「織田信長の歴史」とは言いますが、「織田信長の沿革」とは言いません。
また、「歴史」は社会全体の大まかな時間の流れを積み重ねたものを表しますが、「沿革」は一つ一つの出来事を断片的に記したものを表します。この点も、「歴史」と「沿革」の違いとなります。
年表との違い
「年表」とは「歴史上の事件などを年代順に追って記載した表」のことです。主な使い方としては、「日本史の年表」「年表形式」などが挙げられます。
「年表」は、日本史や世界史などの歴史的な事実を表す際に使われます。また、用例としては少ないですが、個人の歴史や会社の歴史に対して使うことも可能です。
一方で、「沿革」は会社などの組織に対して使われることがほとんどです。この点が「年表」と「沿革」の違いだと言えます。
変遷との違い
「変遷」とは「時の流れとともに移り変わること」という意味です。
「変遷」は「変化」の「変」という字があるように、「変わること」に焦点が当てられた言葉です。したがって、「食生活が変遷する」「言葉の意味が変遷する」などのように時代とともに物事が変わるような意味を表す際に使われます。
また、「変遷」と「沿革」は、文法的な使い方も若干異なります。例えば、「会社は時代とともに変遷する」とは言いますが、「会社は時代とともに沿革する」とは言いません。
「変遷する」⇒「正」 「沿革する」⇒「誤」
これは、「変遷」は「移り変わって来たという現象そのもの」を指すのに対し、「沿革」は「移り変わってきた内容そのもの」を指すからだと言えます。
概要との違い
「概要」とは「全体の要点をとりまとめたもの。あらまし」という意味です。
「概要」は「沿革」と同じく、会社に対して使われることがあります。例えば、「会社概要」という言葉です。
「会社概要」とは会社の名前や住所、従業員数、代表者氏名、資本金はいくらかなどの情報をまとめたものです。会社の全体像を大まかに説明しているので、「会社概要」と名付けられています。
「概要」と「沿革」の違いですが、「概要」には「沿革」のような移り変わりを表すような情報は記されていません。したがって、企業のホームページなどではまず「会社概要」を記して、次に「会社の沿革」を記すというのが一般的です。
沿革の対義語
「沿革」の明確な対義語と呼べるような言葉はありません。しいて挙げるならば、「未来」は反対語に近い意味を持っています。
「沿革」は企業が今まで歩んできた歴史、すなわち過去の経緯を表したものです。したがって、過去の反対語である「未来」が対義語になるという論理です。
沿革の英語訳
「沿革」は、英語だと次のように言います。
①「company history」(会社の歴史)
②「company background」(会社の背景)
①は直訳すると、「会社の歴史」という意味です。「history」だけでも「歴史」を表す単語として使えますが、頭に会社を意味する「company」を付けることで、端的に相手へ伝えることができます。
また、②は直訳すると「会社の背景」という意味です。「background」は「背景」以外にも「経歴」や「生い立ち」といった意味もあるため、「社歴」を意味する表現として使うことができます。
沿革の使い方・例文
最後に、「沿革」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 企業の沿革には、創立した年や上場した年などが詳しく記されている。
- 弊社の沿革は、以下に記載されていますのでぜひご覧になってください。
- 沿革を知ることで、その会社が今までどのような道を歩んできたかが分かる。
- 今回は創業100年という長い歴史を持つ○○株式会社の沿革をご紹介します。
- 早稲田大学の沿革を調べてから、ますます入学したい気持ちになりました。
- 幼稚園や学校の沿革は、保護者としてもある程度調べておいた方がいいだろう。
「沿革」は、例文のように企業や学校、大学などの歴史を表すような際に使われます。その他、用例としてはあまり多くありませんが、病院や自治体などに対して使われることもあります。
いずれも共通しているのは、「沿革」は個人に対しては使わないという点です。個人に対して使う場合は、前述したように「歴史」や「経歴」などを使うようにして下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「沿革」=物事の移り変わりや今日までの歴史。
「語源・由来」=今までの形式に従い、古いものから新しいものへ移り変わること。
「類義語」=「経歴・歴史・年表・変遷・概要」
「英語訳」=「company history」「company background」
「沿革」は社会人になれば必ず目にする言葉です。ビジネスシーンでも使われる機会が多いため、これを機に意味を覚えておくとよいでしょう。