「国民国家」という言葉は、現代文や世界史などにおいて使われています。
過去の例だと、2018年センター試験の評論文に「国民国家」という言葉が登場しました。また、この言葉は難関大学の入試にもよく出てくるようです。
今回はこの「国民国家」について、具体例などを交えなるべく簡単に解説しました。
国民国家とは
まず、「国民国家」の意味を辞書で引くと次のように書かれています。
【国民国家(こくみんこっか)】
①歴史的、文化的に形成された、民族を基盤としてつくられた近代国家。
②国民を主体としてつくられた国家。市民社会を基盤としてつくられた国家。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
上記の説明だと分かりにくいため、簡単に説明します。
「国民国家」とは「国民という意識を持った国のこと」だと考えてください。
具体例を挙げましょう。私たちは現在、「日本国民」として生活しています。
もしも海外に行ったときに、「あなたはどこ出身ですか?」と聞かれたら、「私は日本人です」と答えます。
その理由は、「自分たちは日本国民である」という意識を全員が持っているからです。
この意識は日本以外の人たちも同じでしょう。例えば、韓国の人に同じ質問をしても、「私は韓国人です」と答えます。
また、フランスの人に聞いても「私はフランス人です」と答えるはずです。
しかし、このような当たり前の意識は、実は「近代」より前はありませんでした。
近代より前の人たちは、自分が日本人であるとかフランス人であるという「アイデンティティ」を持っていなかったのです。
では彼らはどのような意識を持っていたのでしょうか?以下は代表的なものです。
- 「私は〇〇村の一員だ」
- 「私は〇〇町の者だ」
- 「私は〇〇島の人間だ」
つまり、当時の人たちは「国家の一員」という意識ではなく、「村」や「町」、「島」などの一員という意識を持っていたわけです。
それもそのはずで、当時は「国家」という概念すらなかったのです。
近代以降になって初めて、領土や国境などを確定した結果、「国家」というものが誕生しました。
その結果、「私たちは〇〇国民の一員だ」という意識を持てるようになったのです。
したがって、「国民国家」という言葉は「近代以降に初めてできたもの」とも言うことができます。
国民国家の定義
「国民国家」の大まかな意味は理解できました。では、具体的に何を持って「国民国家」と定義できるのでしょうか?
それを知るには、ある程度の歴史を知っておく必要があります。
まず、「国民国家」という言葉は、ヨーロッパ諸国で最初に生まれました。当時は「絶対王政」と言い、王様が絶対的な権力を持っていました。
ところが、フランス革命により王政が崩壊し、国民主体の政治に切り替わります。それ以降、国の主役は王様ではなく、国民や民族であるという意識が浸透していったのです。
そして、彼らは「国民国家」のことを英語で「nation-state(ネイション・ステイト)」と名付けました。
「nation」は「国家・国民・民族・種族」、「state」は「国家・国」などの意味です。これらの英単語を現在の日本語にうまく訳したものが「国民国家」なのです。
よって、英語本来の意味から考えると
「国民国家」=「自分たちは〇〇国民(場合によっては民族や種族)だ」
と意識している国となります。
したがって、現在あるほとんどの国は「国民国家」ということになります。逆に言えば、単に「国家」と言った場合、「国民国家」を指すことになります。
ただし、場合によっては「国民国家」の定義があいまいになることもあります。例えば、アメリカなどの国です。
アメリカは「白人」や「黒人」「ユダヤ人」など色々な民族が合わさってできた多民族国家です。そのため、このような多民族国家は「国民国家」ではないと指摘する学者もいます。
一般的には、近代以降に一定の領土と民族集団を持っていて、統治権や統一された言語を持っていればそれは「国民国家」と呼んでいます。
要するに、「政治的に統一された近代国家」であれば、それは「国民国家」と定義してよいことになっているのです。
国民国家の問題点
「国民国家」には、大きく分けて3つの問題点があります。
1つ目は、「経済的な問題」です。
「国民国家」が成立する前は、他の国に容易に移動することができました。なぜなら、当時は「国境」や「領土」という概念がなかったからです。
そのため、自由に移動して経済活動をできるというメリットがあったのです。
一方で、現在はどうでしょうか?もしも勝手に船で他国に行けば、不法入国で逮捕されてしまいます。
当たり前のことですが、パスポートを申請して正式に入国しないと他国には行けないのです。もちろん、日本のお金では海外の商品を買うことはできません。
ちゃんと外国の通貨と交換しないと買い物すらできないのです。これは経済的には非常に不便なことだと言えます。
2つ目は、「言語の問題」です。
一見すると、1つの国で統一した言語を使うのは非常に効率的なので、良い面ばかりが注目されがちです。
しかし、「言語を統一する」ということは、裏を返せば「他の言語をなくすこと」とも言えます。
例えば、「オーストラリア」という国があります。
オーストラリアは現在は「英語」が公用語ですが、元々あそこの土地に住んでいたのは「アボリジニー」という先住民族でした。
彼らは昔から独自の言語を700ほども使っていたそうです。ところが、現在はその言語も200ほどに減ってしまいました。
つまり、一つの統一した言語を作るには、少数派の言語は切り捨てられてしまうということなのです。
これは歴史や伝統を重んじる観点から考えれば、大きな問題点と言えるでしょう。
3つ目は、「人種や民族の問題」です。
「国民国家」が成立したことにより、「国」という一つの単位が生まれました。
一方で、他国からは、「〇〇人」や「〇〇民族」というまとまった集団で見られることも当たり前になりました。
そのため、一種の偏見のような考え方をされる場合があるのです。
例えば、以下のような考えは代表的な偏見だと言えます。
- 「日本人」=みんなまじめで働き者。
- 「アメリカ人」=当然、肉が好き。
- 「イラク人」=全員イスラム教信者。
近代以前は、このような偏った考え自体が存在しませんでした。
もちろん、国境や領土を確定することで、人種や民族の統一が進んでいったという良い面もあります。
しかし、国境や領土を確定したからこそ、人種や民族に対する偏見が起こってしまったというのも事実なのです。
グローバル化が進んだ現在においては、「国民国家」という仕組みは当たり前のことですが、長い歴史という大きな観点で考えれば当然問題点もあるのです。
国民国家の使い方・例文
最後に、「国民国家」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- 西欧諸国は、国民国家の形成により繁栄してきた。
- 日本の国民国家の成立は、明治維新によって起こった。
- フランス革命により、国民国家という体制が生まれた。
- 先住民族と衝突して生まれたのが、国民国家である。
- 19世紀以降、国民国家同士で戦争がたびたび起こった。
- 近代化の中で、彼らは国民国家の一員になれなかった。
- 近代的な国民国家と民主主義により、科学技術は発展してきた。
「国民国家」は、現代文では「近代論」や「西洋史」をテーマとした評論文によく出てきます。その場合は、「近代」という時代背景と合わせて用いられるのが基本となります。
なお、「国民国家」という言葉は「ナショナリズム」と合わせて登場することが多いです。そのため、「ナショナリズム」の意味も理解しておけば、より一層理解が深まるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「国民国家」=「自分たちは〇〇国民だ」と意識している国。
「定義」=政治的に統一された近代国家。
「問題点」=「経済的な問題」「言語の問題」「人種や民族の問題」
「国民国家」という言葉の裏には、当時のヨーロッパ諸国の歴史が色濃く含まれています。文章を読む際は、そういった当時の時代背景も意識するのがよいでしょう。