遅れてきた「私」は、教科書・現代の国語で学習する文章です。そのため、定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、遅れてきた「私」のあらすじや200字要約、意味調べなどを解説しました。
遅れてきた「私」のあらすじ
本文は、五つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①私たちが生まれてきたときにはすでに、「社会」が存在していた。私たちは皆、自分に先立って存在する社会の中に生み出され、その社会に組み込まれて、社会の構成員になる。社会は個人の後から現れるのではない。逆に、個人は常に社会の中に産み込まれる。私の存在は、社会の存在に対していつも遅れて、社会の中で与えられるのだ。
②赤ん坊は、生まれてすぐに周囲の人間たち、すでに社会を生きている人間たちによって、息子や娘、子どもとして扱われ、親族関係上の位置や名前を与えられ、”社会の中の個人”として扱われる。自分自身を社会の中の誰かとして自覚する以前に、周りにいる人々によって、”社会の中の個人”にさせられるのだ。幼少期の子どもは一人称として、「ぼく」や「私」という言葉以前に「〇〇ちゃん」といった他者から名指される二人称的な言葉を使う。それは、人が社会の中で見いだすのが、「自分にとっての自分」である以前に、「人から呼ばれる自分」であるからだ。「私」とは、常に、そしてすでに「他の人々の中の誰か」であり、「他の人々にとっての誰か」なのである。
③私が私を見いだす、”つながり”とは、私が自らの存在を見いだすそうした状況のことだ。こうした繋がりの相手は、必ずしも人間でなくてもよい。犬や猫などのペット、野生の生き物、山や川のような環境、神や精霊などでもよい。そのようなさまざまな空間的つながりの中で、人は「自分」を見いだし、つながりの中の「誰か」になる。同じ時間の中で、ある空間や場を共有する人やモノとのつながりを、同じ時を共有するという意味で「共時性」や「共時態」と呼ぶ。
④だが、人が自分を「誰か」として見いだすつながりは、共時的なつながりだけではない。ご先祖様や祖先などの死者は、一方では現在に存在する共時的存在として現れるが、他方では過去に存在するものとしても考えられる。私たちが経験する「死者たちの作った世界」は共時的な現在だが、その世界を通じて私たちが無数の死者たちとのつながりを、多くの場合は特に意識することなく生きている。そうしたつながりを、歴史や時間の流れを通じての関係という意味で「通時性」や「通時態」という言葉で言い表すこともある。
⑤「私」という存在は、さまざまな他者や事物との共時的、通時的なつながりの中の「結び目」のようなものとして存在している。それは、「私」という存在が「社会の中」に存在しているということだ。私は社会の中に、常に社会から遅れて現れる。私も、私の日々の生活も、社会の中で生じる社会的な出来事なのだ。
遅れてきた「私」の要約&本文解説
本文では、「私」の存在がどのように生まれ、社会と結びついていくのかが論じられています。
一般的には、個人が先に存在し、その後に社会と関わると考えがちです。しかし、実際には「私」は常に社会の中に生まれ、社会に組み込まれることで「個人」となると考えられます。
このことは、生まれたばかりの赤ん坊の例からも分かります。赤ん坊は自分を「私」として認識する前に、周囲の人々から「〇〇ちゃん」などと名指しされ、社会的な存在として扱われます。
つまり、「私」は最初から「他者にとっての誰か」として存在するのです。これは、自己認識が社会的な関係性の中で形成されることを示しています。
さらに、人が自分を見いだす「つながり」は、人間関係に限らず、ペットや自然、宗教的な存在なども含みます。そして、そのつながりには「共時性」と「通時性」という二つの視点があります。
「共時性」とは、同じ時間を共有する存在との関係を指し、「通時性」とは、歴史や時間の流れを通じたつながりを意味します。
例えば、家族や友人との関係は共時的なつながりであり、祖先や歴史的背景との関係は通時的なつながりです。過去の出来事や死者とのつながりも、私たちの生きる社会の一部として影響を与えています。
このように、「私」は単独で存在するものではなく、常に社会の中で形成され、共時的・通時的なつながりの中で自己を見いだす存在です。したがって、「私」は社会の後に生じる「遅れてきた存在」だと言えるのです。
遅れてきた「私」の意味調べノート
【慣習(かんしゅう)】⇒長い間受け継がれ、社会で当たり前とされる行動や考え方。
【即する(そくする)】⇒状況や条件にぴったりと合うようにする。
【自覚(じかく)】⇒自分の考えや立場、状態などをはっきりと認識すること。
【属性(ぞくせい)】⇒そのものが持つ特徴や性質。
【丁寧(ていねい)】⇒言動が礼儀正しく、注意深いこと。
【応対(おうたい)】⇒人に対して受け答えをすること。
【精霊(せいれい)】⇒自然や人の魂と結びつく神秘的な存在。
【狩猟採集(しゅりょうさいしゅう)】⇒動物を狩り、植物を採集して生活すること。
【共時的(きょうじてき)】⇒同じ時間内で起こる物事に注目すること。
【典型(てんけい)】⇒代表的な例や特徴をよく表したもの。
【継承(けいしょう)】⇒文化や財産などを受け継ぐこと。
【総称(そうしょう)】⇒いくつかのものをまとめて呼ぶこと。
【隔たり(へだたり)】⇒物理的または心理的な距離。
【通時的(つうじてき)】⇒時間の流れに沿って変化や発展をとらえること。
遅れてきた「私」のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①話のコウセイが重要だ。
②テイネイに対応する。
③セイレイを信じる。
④文化をケイショウする。
⑤獲物のカクトクが難しい。
「共時的なつながり」とはどのようなものか?次の選択肢から選びなさい。
(ア)時間や場所を超えたつながり
(イ)同じ時間を共有する存在との関係
(ウ)過去の人々との関係
(エ)自然環境との関係
次のうち、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)個人が存在し、その後に社会が形成されることで、自己の認識が生まれる。
(イ)「私」は生まれながらに独立した存在であり、社会との関わりによって影響を受けることはない。
(ウ)「私」は先に存在する社会の中で、他者との関係を通じて形成される。
(エ)「共時的なつながり」とは過去の人々との関係を指し、「通時的なつながり」とは現代の人々との関係を指す。
まとめ
今回は、遅れてきた「私」について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。