『自立と市場』は、教科書・現代の国語に収録されている作品です。ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる部分も多いです。
そこで今回は、『自立と市場』のあらすじや要約、語句の意味などを含め簡単に解説しました。
『自立と市場』のあらすじ
本文は、内容により4つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①障害の当事者研究の第一人者で東京大学准教授の熊谷さんは、生後すぐに脳性まひとなり、今も車椅子の生活だ。彼の母親は熊谷さんの教育に情熱を注いだが、彼は十八歳で家を出て「自立した」と感じた。彼は母親という太いが切れたら終わる一本の命綱に頼っていた生活から、緩いつながりで形成された支援の市場の網の目に頼る生活に変わったのである。
②宮澤賢治の童話「なめとこ山の熊」では、猟師である小十郎が、強欲な荒物屋の商人にしか毛皮を売る方法がなかった。小十郎の生活は、商人に依存してしまっていたのである。この話の一番の問題は、小十郎に選択肢がないこと、つまり市場がないことで商人に利用されてしまったという点にある。
③市場経済の本質は、特定の誰かと強い依存関係に陥ることなく、数多くの緩いつながりに支えられた生活を送ることである。自立とは、依存先が十分に確保されて、特定の何かや誰かに依存している気がしない状態である。たくさんのものに支えられている状態が自立なのだ。
④それでも、依存先がお金しかないという時点で市場は絶対視すべき存在ではない。お金で手に入れられないものもたくさんあるし、震災で市場の物流がストップすることもある。市場に依存しきってしまうことも、脆弱な基盤の上に立った自立と言わざるをえない。そのことを十分認識したうえで、市場との付き合い方を考えていかなくてはならない。
『自立と市場』の要約&本文解説
熊谷さんは母親に依存する生活から脱却し、多くの支援の市場の網の目に支えられる生活へと変わった。「なめとこ山の熊」では、小十郎が市場という選択肢がないために、商人に依存せざるを得ない生活を送った。市場の本質は、特定の何かに依存することなく数多くの緩いつながりに支えられた生活であり、自立とはたくさんのものに支えられている状態だ。だが、市場だけに依存することも脆弱な基盤の上に立つ自立なのである。(196文字)
私たちは「自立」という言葉を聞くと「誰の助けも借りずに、自分一人の力だけで生きていくこと」だと考えがちです。ところが、筆者はそうではないのだと主張します。
筆者は、「自立」とは「たくさんのものに支えられている状態」なのだと述べています。つまり、いざというときに頼れる人や頼れる何かがたくさんある状態が本来の「自立」の意味ということです。
これを分かりやすくするために、本文中では障害を負った熊谷さんの話と、宮沢賢治の童話の話が紹介されています。
生まれつき障害を負った熊谷さんは、母親に依存した生活をしていたため、このままだと親が死ねば自分も死ぬということに気付きます。
また、猟師である小十郎は、命がけでとってきた熊の毛皮を売る相手が、店の商人しかいなかったことで、とんでもない安さで毛皮を買ってもらうしかありませんでした。
このように、特定の誰かに頼った生活をすると、いざという時に自分では何もできなくなってしまいます。
そのため、筆者は「数多くの緩いつながりに支えられた生活」が市場経済の本質であり、依存先が十分に確保されており、特定の誰かや何かだけに頼っていない状態が「自立」なのだと述べています。
最終的に筆者は、市場に依存しきってしまうこともまた、脆弱な基盤の上に立った自立だと述べています。なぜなら、市場というのは依存先がお金しかないからです。
世の中には、お金では手に入れられないものもありますし、そもそも物流が止まってしまえば、お金があったとしても何の使い道もありません。したがって、市場に頼り切ることも、もろくて弱い基盤の上に立っているようなものだということです。
この事も十分認識したうえで、私たちは市場との付き合い方を考えていかなければならないと結論付けています。
『自立と市場』の意味調べノート
【健常者(けんじょうしゃ)】⇒心身に病気や障害のない者。障害者に対する言葉。
【支援(しえん)】⇒力を貸して助けること。
【依存(いぞん)】⇒他に頼って存在、または生活すること。
【対極(たいきょく)】⇒正反対であること。
【脱却(だっきゃく)】⇒よくない状態から抜け出すこと。
【要請(ようせい)】⇒必要だとして、強く願い求めること。
【豪気】⇒強く勇ましい気性。
【惨め(みじめ)】⇒かわいそうで見るにしのびないさま。
【不条理(ふじょうり)】⇒道理に合わないこと。
【憤る(いきどおる)】⇒激しく腹を立てる。
【うそぶく】⇒声高に豪語する。偉そうに大きなことを言う。
【吟味(ぎんみ)】⇒念入りに検討すること。
【強欲(ごうよく)】⇒非常に欲が深いこと。
【よかれあしかれ】⇒良くも悪くも。
【しがらみ】⇒束縛を受けるもの。
【市場経済(しじょうけいざい)】⇒売りたい人と買いたい人が自由にものを売買できる社会のこと。
【本質(ほんしつ)】⇒物事の根本的な性質や要素。そのものの本来の姿。
【絶対視(ぜったいし)】⇒絶対的なものと考えること。
【自己目的(じこもくてき)】⇒目標達成のための手段そのものが目的になってしまうこと。
【換算(かんさん)】⇒ある物事の価値を、数値に直して表すこと。
【物流(ぶつりゅう)】⇒物や商品の流れ。物的流通の略。
【善意(ぜんい)】⇒他人のためを思う親切心。好意。
【脆弱(ぜいじゃく)】⇒もろくて弱いこと。
【基盤(きばん)】⇒物事を成立させるための基礎となるもの。土台。
『自立と市場』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①親にイゾンした生活。
②危機をダッキャクする。
③協力をヨウセイする。
④何でもお金にカンサンする。
⑤シンサイによる被害。
まとめ
以上、今回は『自立と市場』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。