「本当の自分」幻想は、教科書「現代の国語」で学ぶ評論です。ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、「本当の自分」幻想のあらすじや要約、テスト問題などを含めわかりやすく解説しました。
「本当の自分」幻想のあらすじ
本文は大きく分けて、5つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとの要旨を簡単に紹介していきます。
①インターネットの普及により、私は現実の人の姿とネットの中の姿が必ずしも合致しないということに気づいた。人にはいろいろな顔があるが、それが可視化されたインパクトは決して小さくなかった。
②前提となるのは、「本当の自分/ウソの自分」というモデルである。だが、どっちが「本当」の姿なのかと決めようとしていること自体が、不毛に思えてきた。結局、どっちも「本当」なのではないか。「個人」が持っているいろいろな顔があからさまになったとき、それをネガティブに詮索する傾向は、現在でも必ずしもなくなったとは言えない。
③コミュニケーションは、他者との共同作業である。会話の内容や口調、気分など、すべては相互作用の中で決定されてゆく。その中のどれかの自分を、恣意的に「本当の姿」だと決められてしまうことに、私たちは抵抗を感じる。私たちは、他人から本質を規定されて自分を矮小化されることが不安なのだ。
④人間は相手次第で様々な自分になるため、決して唯一無二の分割不可能な「個人」ではない。複数の分割可能な「分人」であると考えられる。「本当の自分」は一つだけで、あとは表面的に使い分けられたキャラや仮面等にすぎないという考え方は間違っている。理由は三つあり、一つ目はすべての人間関係がキャラや仮面どうしの化かし合いなら、それは他者も自分も不当におとしめる錯覚であり、誰とも「本当の自分」でコミュニケーションを図ることができなくなるからだ。二つ目は、分人は相手との相互作用の中で生じ、変化するが、それをいちいち仮面をつけ替えたとか、仮面が変容したとか説明するのは無理がある点だ。三つ目は、分人には実体があるが「本当の自分」には実体がなく、対人関係の中だけで自分のすべての可能性を発揮することはできない点だ。
⑤分人はすべて、「本当の自分」である。人間は対人関係ごとのいくつかの分人によって構成されている。分人の構成比率によって決定される個性も唯一不変のものではなく、他者の存在なしには生じないものである。
「本当の自分」幻想の要約解説
筆者の主張を一言で言うなら、「分人は、すべて本当の自分である」ということになります。「分人」とは本文中だと「対人関係ごとの様々な自分のこと」だと定義されています。つまり、対人関係ごとに現れる様々な自分はすべて本当の自分だということです。
私たちは、友人や両親、同僚、恋人など、人によって様々な顔を使い分けています。そのため、本当の自分は一つだけであり、その他は表面的に使い分けられたキャラや仮面なのだと考えがちです。
しかし、筆者はそれは間違いなのだと主張します。筆者は、分人というのは、あくまで相手との関係の中で生じ、日々変化し続けていくものであると考えています。そのため、本当の自分には実体がなく、それは幻想にすぎないのだと主張します。
全体を通して筆者が主張したい内容は、第四段落と第五段落に集約されていると言えます。具体的には、分人はすべて「本当の自分」であり、人間は対人関係ごとのいくつかの分人によって構成されており、分人の構成比率により決定される個性も不変のものではなく、他者の存在なしには生じないものであるという箇所です。
「分人はすべて本当の自分であり、唯一無二の本当の自分などというものは存在しない」という筆者の主張を読み取ることがポイントとなります。
「本当の自分」幻想の意味調べノート
【饒舌(じょうぜつ)】⇒口数が多いこと。やたらにしゃべること。
【辛辣(しんらつ)】⇒非常に手厳しいこと。
【端々(はしばし)】⇒あちこちの部分。ちょっとした部分。
【語り口(かたりくち)】⇒語る時の口調や態度。
【普及(ふきゅう)】⇒広く行き渡ること。
【合致(がっち)】⇒一致すること。ぴったり合うこと。
【可視化(かしか)】⇒目に見えるようにすること。分かりやすくすること。
【インパクト】⇒衝撃。影響。
【推察(すいさつ)】⇒他人の心の中や物事の事情などを、想像して考えること。
【ノリ】⇒場に合わせること。ここでは、ネット上での雰囲気や流れを指す。
【不毛(ふもう)】⇒何の進歩も成果も得られないこと。
【真情(しんじょう)】⇒うそ偽りのない気持ち。
【真贋(しんがん)】⇒本物と偽物。ここでは、どちらが本物でどちらが偽物であるかということ。
【あからさま】⇒ありのままで、包み隠さないさま。
【二重人格(にじゅうじんかく)】⇒一人の人間の中に二つの全く異なる人格が交代して現れること。ここでは、人が状況に応じて意図的に別人のように振る舞うことを表す。
【ネガティブ】⇒否定的なさま。消極的なさま。
【詮索(せんさく)】⇒細かいところまで調べ求めること。
【違和感(いわかん)】⇒しっくりこない感覚。
【極マレに(ごくまれに)】⇒きわめて珍しいさま。「極」とは、程度が並外れたものであることを強調する副詞、「マレ(まれ・稀)」とは、めったになくて珍しいさまを表す。
【談義(だんぎ)】⇒話し合うこと。
【本質(ほんしつ)】⇒そのものの本来の姿や性質。
【規定(きてい)】⇒物事をある一定の形に定めること。
【相互作用(そうごさよう)】⇒互いに働きかけ、影響を及ぼすこと。
【恣意的(しいてき)】⇒思うままに自分勝手に考えるさま。論理的な必然性がないさま。
【矮小化(わいしょうか)】⇒小さくすること。小さいものと捉えること。
【肯定(こうてい)】⇒同意すること。認めること。
【後(うし)ろめたい】⇒自分の行為に罪悪感があり、気がとがめるさま。
【唯一無二(ゆいいつむに)】⇒ただそれ一つだけしかなく、二つとないもの。
【接頭辞(せっとうじ)】⇒語の前に付けて意味を添えたり、調子を整えたりする語。
【首尾一貫(しゅびいっかん)】⇒始めから終わりまで、考え方や方針などが変わらないこと。
【矛盾(むじゅん)】⇒二つの物事のつじつまが合わなくなること。
【序列(じょれつ)】⇒一定の基準に従って並べられた順序のこと。
【化かし合い(ばかしあい)】⇒悪賢い者同士が互いにだまし合うこと。
【不当(ふとう)】⇒正当・適当でないこと。道理に合わないこと。
【おとしめる】⇒劣ったものとして扱う。
【錯覚(さっかく)】⇒思い違い。勘違い。
【主体的(しゅたいてき)】⇒自分の意志や判断によって行動するさま。
【硬直的(こうちょくてき)】⇒ここでは、考え方や態度が変わらないさまを表す。
【喜怒哀楽(きどあいらく)】⇒様々な人間感情。喜び・怒り・悲しみ・楽しみの四つの情のこと。
【変容(へんよう)】⇒姿や形が変わること。
【幻想(げんそう)】⇒現実にないことを、あるかのように心に思い描いたもの。空想。
【級友(きゅうゆう)】⇒同じ学級の友達。
【囚われる(とらわれる)】⇒固定した考え方や価値観などに拘束される。
【プレッシャー】⇒精神的な圧迫。重圧感。
【四六時中(しろくじちゅう)】⇒一日中。二十四時間中。
【そそのかされる】⇒その気になるように促される。
「本当の自分」幻想のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①論文をヒヒョウする。
②ネットがフキュウする。
③権力にテイコウする。
④彼は動物にクワしい。
⑤実力をハッキする。
まとめ
以上、今回は「本当の自分」幻想について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。