『枯野抄(かれのしょう)』は、芥川龍之介による小説文です。有名な作品なため、高校国語・現代文の教科書などにも取り上げられています。
ただ、本文中には意味の分かりにくい言葉も多く出てきます。そこで今回は、『枯野抄』に出てくる重要語句や漢字の読み方などを、段落ごとに簡単にまとめました。
冒頭:花屋日記の言葉一覧
【丈艸(じょうそう)】⇒内藤丈草(ないとうじょうそう)のこと。江戸時代の俳人。
【去来(きょらい)】⇒向井去来(むかいきょらい)のこと。江戸時代の俳人。内藤丈草と共に、蕉門十哲(しょうもんじってつ)の一人。
【召す(めす)】⇒「招く・呼び寄せる」の尊敬語。
【案じ入る(あんじいる)】⇒深く考え込む。
【呑舟(どんしゅう)】⇒大原呑舟(おおはらどんしゅう)のこと。大坂(阪)の俳人、槐本之道の門人。
【おのおの】⇒それぞれ。
【咏じる(えいじる)】⇒「詠ずる」に同じ。詩歌を声に出してよむ。
【枯野(かれの)】⇒草木の枯れはてた野。冬枯れの野原。
第一段落の言葉一覧
【元禄七年(げんろくしちねん)】⇒1694年のこと。
【朝焼け(あさやけ)】⇒日の出の頃に東の空が赤く染まって見えること。
【時雨(しぐれ)】⇒晩秋から初冬にかけて降る雨で、降ったりやんだりするにわか雨をいう。
【商人(あきんど)】⇒商いを仕事とする人。しょうにん。
【瓦屋根(かわらやね)】⇒瓦葺き(かわらぶき)の屋根。
【幸(さいわい)】⇒幸運にも。ここでは副詞としての意味。
【梢(こずえ)】⇒木の幹や枝の先。木の先端。
【葱(ねぶか)】⇒水葱(みずあおい)の別名。水田や沼などに自生している。
【屑(くず)】⇒物のかけらや切れ端など。
【往来(おうらい)】⇒行ったり来たりすること。行き来。
【丸頭巾(まるずきん)】⇒上部を丸く作った頭巾。僧・老人などがかぶった。
【革足袋(かわたび)】⇒なめし革で作った足袋。
【凩(こがらし)】⇒木枯らし。《木を吹き枯らすものの意》秋の末から冬の初めにかけて吹く、強く冷たい風。
【うっそり】⇒心を奪われてぼうっとしているさま。
【暖簾(のれん)】⇒軒先や店の出入り口にかけておく布。
【人形芝居(にんぎょうしばい)】⇒人形劇。
【三味線(しゃみせん)】⇒日本の弦楽器の一種。
【擬宝珠(ぎぼうしゅ)】⇒橋の柱の頂部にかぶせる丸くて先のとがったネギの花の形をした飾り。
第二段落の言葉一覧
【御堂前南久太郎町(みどうまえみなみきゅうたろうまち)】⇒大阪府大阪市中央区船場(せんば)にある久太郎町通のこと。
【花屋仁左衞門(はなやにざえもん)】⇒宿屋の名称。
【裏座敷(うらざしき)】⇒家の表立たないところにあり、内々のことに使用する座敷。「座敷」とは「畳を敷きつめた部屋」を指す。
【俳諧(はいかい)】⇒俳句・連句および俳文などの総称。
【大宗匠(だいそうしょう)】⇒大師匠。「宗匠」とは和歌・俳諧・茶道・花道などの師匠を指す。
【仰ぐ(あおぐ)】⇒尊敬する。敬う。
【芭蕉庵松尾桃青(ばしょうあんまつおとうせい)】⇒松尾芭蕉のこと。
【門下(もんか)】⇒師の門に入り、教えを受けること。門弟。
【介抱(かいほう)】⇒病人などの世話をすること。看護。
【一期(いちご)】⇒一生涯。一生。
【埋火(うずみび)】⇒灰の中にうめた炭火。火種を長持ちさせたり火力を調節したりするために用いる。
【時刻(じこく)】⇒とき。その瞬間。
【凡そ(およそ)】⇒およそ。
【申の中刻(さるのちゅうこく)】⇒午後4時頃のこと。申の刻とは「午後三時から午後五時の間」を指す。
【隔て(へだて)】⇒仕切り。
【襖(ふすま)】⇒木で骨組みを作り、その両面に紙または布を張った建具。和室の仕切りに使う建具の一つ。
【だだつ広い(だだっぴろい)】⇒やたらに広い。必要以上に広い。
【枕頭(ちんとう)】⇒まくらもと。
【炷(た)きさした】⇒たきかけた。たいてまだ間もない。「たく」は「香をたく」のたく、「さす」は「読みさし」などと同じで、動作が途中であることを添える意味を持つ接尾語。
【香(こう)】⇒お香のこと。たきもの。
【堰く(せく)】⇒流れなどをさえぎって止める。せきとめる。ここでは、庭先と室内の間に障子があり、冬の寒さをさえぎり止めているという意味
【寂然(じゃくねん)】⇒ひっそりとして静かなさま。寂しいさま。
【先(まづ)】⇒まず。
【木節(もくせつ)】⇒望月木節(もちづきぼくせつ)のこと。松尾芭蕉の門人で医師として末期の芭蕉の主治医を兼ねた。
【夜具(やぐ)】⇒夜、寝るときに用いる布団・毛布などの総称。寝具。
【間遠い(まどおい)】⇒連続している物事の時間的な間隔が大きいさま。
【守る(もる)】⇒見まもる。番をする。
【眉(まゆ)をひそめる】⇒心配なことがあったり、不快を感じたりして顔をしかめる。
【称名(しょうみょう)】⇒仏の名を声に出して唱えること。「南無阿弥陀仏」などと唱えること。
【老僕(ろうぼく)】⇒年とった使用人のこと。下男(げなん)。
【治郎兵衛(じろべい)】⇒郷里伊賀上野から連れ立ってきた昔なじみの松尾家家附きの老下男。
【大兵肥満(だいひょうひまん)】⇒大きなからだで太っていること。また、そのような人。「大兵」は大きくたくましいからだ、「肥満」はからだが肥え太っていることを表す。
【晋子(しんし)】⇒俳号の名称。
【其角(きかく)】⇒宝井其角(たからいきかく)のこと。蕉門十哲の一人で、父の紹介で蕉門に入り、第一の高弟となった。
【紬(つむぎ)】⇒紬糸(つむぎいと)で織った平織りの絹織物。
【角通し(かくどおし)】⇒江戸小紋の柄のひとつ。
【懐(ふところ)】⇒衣服を着たときの、胸のあたりの内側の部分。
【鷹揚(おうよう)】⇒ゆったりとしているさま。おっとりとして上品なさま。
【憲法小紋(けんぽうこもん)】⇒憲法染の小紋。吉岡憲法の創始した黒褐色に小紋を染め出したもの。
【そば立てる(そばだてる)】⇒一方の端を高くする。
【ものごし】⇒人に接するときの、言葉遣いや身のこなし。
【凛々しい(りりしい) 】⇒きりりとしまっている。勇ましい。
【容態(ようだい)】⇒病気のぐあい。病状。
【法師(ほうし)】⇒ 仏法によく通じ、人々を導く師となる者。僧。
【菩提樹(ぼだいじゅ)】⇒クワ科のテンジクボダイジュの別名。釈迦がその下で悟りを開いたとされ、原産地インドでは無憂樹 (むゆうじゅ)・娑羅双樹 (さらそうじゅ)とともに三大聖木とされる。
【珠数(じゅず)】⇒数珠(じゅず)。仏・菩薩を礼拝するときに手に掛ける仏具で、小さい玉をつないだ輪。
【端然(たんぜん)】⇒正しく整ったさま。きちんとしているさま。
【乙州(おとくに)】⇒川井乙州(かわいおとくに)のこと。蕉門の俳人で、芭蕉晩年の上方滞在時に親交が深く、経済面で芭蕉の生活を支えた。
【啜る(すする)】⇒垂れた涙や鼻汁を息とともに吸い込む。
【容子(ようす)】⇒様子。
【古法衣(ふるごろも)】⇒古い法衣(ほうえ)。法衣とは僧の着用する古い衣服を指す。
【かきつくろう】⇒形よく整える。体裁よくする。
【無愛想(ぶあいそう)】⇒愛想のないこと。そっけなくつっけんどんなこと。
【頤(おとがい)】⇒下あご。
【僧形(そうぎょう)】⇒僧の姿。
【惟然坊(いねんぼう)】⇒広瀬惟然(ひろせいぜん)のこと。江戸時代の俳人で、松尾芭蕉に入門し、晩年の芭蕉に付き従った。
【浅黒い(あさぐろい)】⇒薄黒い。特に、皮膚の色が少し褐色を帯びている。
【剛愎(ごうふく)】⇒頑固で人に従わないこと。意地っ張りで気が強いこと。
【支考(しこう)】⇒各務支考(かがみしこう)のこと。江戸中期の俳人で、蕉門十哲の一人。
【唯(ただ)】⇒ただ。
【或は(あるいは)】⇒あるいは。
【床(とこ)】⇒布団などの寝具をととのえた場所。また、その布団。
【死別(しべつ)】⇒死に別れること。
【名残を惜しむ(なごりをおしむ)】⇒別れがつらく、惜しいと思う。
【儘(まま)】⇒まま。
【慟哭(どうこく)】⇒悲しみのあまり、声をあげて泣くこと。
【正秀(せいしゅう)】⇒水田正秀(みずたまさひで)のこと。江戸時代の俳人で藩士または町人であったといわれる。後年は医業についた。
【擾す(みだす)】⇒乱す。
第三段落の言葉一覧
【痰喘(たんせき)】⇒痰が詰まり、咳き込んだ状態。
【覚束ない(おぼつかない)】⇒はっきりしない。あやふやである。
【遺言(ゆいごん)】⇒死後に言い残すこと。
【昏睡(こんすい)】⇒意識が全くなくなって、目覚めさせることができない状態。
【うす痘痕(いも)】⇒うすいも。目立たない程度のかすかなあばた。いわゆる、「しみ」のこと。
【顴骨(かんこつ)】⇒頬骨(ほおぼね)。
【露(あらわ)】⇒むき出しであるさま。はっきりと見えるさま。
【皺(しわ】⇒しわ。皮膚の表面にできる細い筋。
【殊に(ことに)】⇒とりわけ。特に。
【傷しい(いたましい)】⇒目をそむけたくなるほど悲惨である。痛々しい。
【際限(さいげん)】⇒かぎり。はて。
【望む(のぞむ)】⇒はるかに隔てて見る。遠くを眺めやる。
【徒に(いたずらに)】⇒むだに。わけもなく。ただひたすら。
【とりとめのない】⇒取るに足らない。はっきりした目的のない。
【辞世(じせい)】⇒死に臨んで残す言葉・詩歌。
【茫々(ぼうぼう)】⇒広々としてはるかなさま。
【暮色(ぼしょく)】⇒夕暮れの薄暗い色合い。暮れかかったようす。
【一痕(いっこん)】⇒一つの跡・形跡。月の光りなどに用いる。
【漂う(ただよう)】⇒空中などに浮かんで揺れ動く。一カ所にとどまらずゆらゆら動いている。
第四段落の言葉一覧
【顧みる(かえりみる)】⇒振り返って見る。
【一椀(いちわん)】⇒一つのわん。
【羽根楊子(はねようじ)】⇒鳥の羽をつけた小さい楊枝(ようじ)。薬などをつけるのに用いる。
【おづおづ】⇒おそるおそる。こわごわ。恐れてためらいながら物事をするさま。
【専念(せんねん)】⇒一つのことに心を集中すること。そのことだけに熱心になること。
【素朴(そぼく) 】⇒人の性質・言動などが、素直で飾り気がないこと。
【山家育ち(やまがそだち)】⇒山里で育つこと。「山家」とは「山の中にいる家や山里の家」を指す。
【彼岸(ひがん)】⇒「あの世」のこと。三途の川を隔てて、こっち側の岸(この世)を「此岸(しがん)」、あっち側の岸(あの世)を「彼岸(ひがん)」と言う。「此」は「これ・こっち」、「彼」は「あれ・あっち」という意味。
【往生(おうじょう)】⇒死後、現世を去って極楽浄土に生まれること。
【弥陀の慈悲(みだのじひ)】⇒阿弥陀仏が人々に楽しみを与え、あらゆる苦しみを取り去ること。
【信念(しんねん)】⇒宗教を信じる気持ち。信仰心。
【根を張る(ねをはる)】⇒深く広がって、動かしがたいものになる。ある感情などが定着する。
第五段落の言葉一覧
【刹那(せつな)】⇒きわめて短い時間。瞬間。
【万方(ばんぽう)】⇒あらゆる手段・方法。
【遭遇(そうぐう)】⇒不意に出あうこと。
【合図(あいず)】⇒身ぶりなどで知らせること。
【愈(いよいよ)】⇒いよいよ。
【咄嗟に(とっさに)】⇒その瞬間に。
【閃く(ひらめく)】⇒考えや思いが瞬間的に思い浮かぶ。
【弛緩(しかん)】⇒ゆるむこと。たるむこと。「緊張」の対義語。
【遂に(ついに)】⇒ついに。とうとう。しまいに。
【亦(また)】⇒また。
【争はれない(あらそわれない) 】⇒争えない。ある事実がはっきり現れていて、隠すことも否定することもできない。
【肯定(こうてい)】⇒そのとおりであると認めること。
【一同(いちどう)】⇒そこにいる人々全員。
【折から(おりから)】⇒ちょうどその時。
【側(わき)】⇒よそ。横。
【湯呑(ゆのみ)】⇒「湯呑み茶碗」の略。
【今は(いまわ)】⇒今際(いまわ)。臨終。最期。
【今生の別(こんじょうのわかれ)】⇒この世での別れ。「今生」とは「この世・現世」という意味。
【末期の水(まつごのみず)】⇒死に際に口にふくませる水。死に水。
【冷淡(れいたん)】⇒思いやりがないこと。同情や親切心を示さないこと。
【のみならず】⇒そればかりでなく。その上に。
【致死期(ちしご)】⇒知死期(ちしご)。人の死に際。臨終。
【面(おもて)】⇒顔。
【烈しい(はげしい)】⇒激しい。程度が度を過ぎてはなはだしい。ひどい。
【嫌悪(けんお)】⇒強い不快感を持つこと。
【恰も(あたかも)】⇒あたかも。まるで。
【毒物(どくぶつ)】⇒毒性のある物。
【生理的(せいりてき)】⇒からだの機能や組織に関するさま。
【作用(さよう)】⇒他のものに力を及ぼして影響を与えること。
【堪へ難い(たえがたい)】⇒堪えることができない。我慢できない。
【契機(けいき)】⇒きっかけ。
【反感(はんかん)】⇒反発の感情。反抗する気持ち。
【病躯(びょうく)】⇒病気にかかっているからだ。
【享楽家(きょうらくか)】⇒思いのままに快楽を味わうことを信条とする人。
【象徴(しょうちょう)】⇒形のないものを具体的な形のあるもので表すこと。
【威嚇(いかく)】⇒威力をもっておどすこと。
【兎に角(とにかく)】⇒とにかく。
【垂死(すいし)】⇒今にも死にそうであること。
【不快(ふかい)】⇒いやな気持ちになること。不愉快であること。
【一刷毛(ひとはけ)】⇒一度、刷毛(はけ)で塗ること。「刷毛」とは、木やプラスチックなどでできた柄の先端に多数の毛を取り付けた道具を指す。
【や否や(やいなや)】⇒~とすぐに。
【顔(かお)をしかめる】⇒不快などから表情をゆがめる。
【尤も(もっとも)】⇒もっとも。
【自責(じせき)】⇒自分で自分の過ちをとがめること。
【道徳(どうとく)】⇒人が善悪をわきまえて正しい行動をするために、守らなければならないもの。
【顧慮(こりょ)】⇒気にすること。ある事をしっかりと考えに入れて、心をくばること。
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