会社を辞めさせたり、相手との関係を絶ったりすることを「首を切る」と言います。あるいは、「首を斬る」と表記したりもします。
ただ、この慣用句の由来が気になるという人も多いと思われます。そこで本記事では、「首をきる」の意味や語源、類語表現などを含め解説しました。
首を切るの意味・読み方
最初に、この言葉を辞書で引いてみます。
【首を切る(くびをきる)】
①免職・解雇する。
②打ち首にする。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「首を切る」には、二つ意味があります。一つ目は、「免職する・解雇する」という意味です。
この場合は簡単に言うと「仕事をやめさせること」を表します。民間企業の社員や公務員などを何らかの理由により辞めさせるような時に使います。
そして二つ目は「打ち首にする」という意味です。「打ち首」とは「罪人の首を切る刑罰」のことで、「斬首(ざんしゅ)」とも言います。
斬首は、はるか昔から現代まで世界中で行われてきた刑で、日本でも武士や庶民に対する懲罰として行われてきました。
現在の日本ではほとんど使われることはありませんが、当時を題材とした映画や小説、時代劇などでは使われることもあります。
首を切るの語源・由来
「首を斬る」の由来については諸説ありますが、「実際に人の首を切ることが転じたもの」という説がまずあります。
首というのは、人間に体にとって非常に重要な役割を占めています。首には脊髄や静脈、呼吸経路などがあるため、これらを切られてしまえば人は生きていられなくなります。
一方で、仕事を解雇されることも同じく収入がなくなることなので、その人の生活つまりは命に関わってくるほど重要な問題です。この事から、仕事を辞めさせることの比喩として「首を切る」が使われるようになったのではと言われています。
そしてもう一つは、「歌舞伎の人形浄瑠璃で人形の首が外されたことから」という説があります。
歌舞伎では、演目が変わるごとに新しい人形を作るのではなく、人形の頭(首)を交換することで使い回していました。この交換する首のことを「切首(きりくび)」と呼んでいました。
「切首」は胴体から切り離されたものなので、演目の役目を終えた部分です。この事から、「縁を切る」「関係がなくなる」「解雇する」などの意味に派生していったと言われています。
以上、二つの由来を紹介しましたが、実際の所この慣用句がいつどこで広まったのかははっきりとしていません。ただ、江戸時代頃には「首を切る」「首にする」などの表現がすでに登場しています。
したがって、少なくとも江戸時代から明治時代までの間には誕生していた表現だと考えられます。
首を切ると首を斬るの違い
「首を切る」は、場合によっては「首を斬る」と表記することもあります。
「切る」は「刃物などで傷つける・切断する」「区切りをつける」「続いている人との関係をなくす」などの意味です。一方で、「斬る」は「刀できる」「刀できり殺す」などの意味です。
つまり、「切る」は物理的・精神的の両方の意味が強調されるのに対し、「斬る」は物理的な意味のみが強調されるということです。
まれに、「世相を斬る」などのように物理的な意味以外でも「斬る」を使うこともありますが、基本的には「斬る」は刀を用いるような際に使われます。
よって、言葉本来の意味から考えるなら、「首を斬る」と表記した場合、「打ち首にする」という意味の方でしか使えないことになります。対して、「首を切る」の方は両方の意味で使えることになります。
以上のような理由もあり、現在では「首を切る」と表記するのが一般的です。
首を切るの類義語
「首を切る」の「類義語」は以下の通りです。
- 解雇する
- 免職する
- 首にする
- やめさせる
- 追い出す
- 捨てる
- 任を解く
- リストラする
- お払い箱にする
- 暇を出す
この中でも「解雇する・免職する・首にする」は、「首を切る」とほぼ同じ意味です。三者に関しては、「首を切る」の同義語と定義しても構いません。
他には、「お払い箱にする」なども近い表現です。「お払い箱にする」は「不要になった人やものを捨てること」を表した表現です。人ではなく物に対しても使う点が「首を切る」と若干異なります。
最後の「暇を出す」は、小説文などでよく使われる表現です。使用人などをやめさせたり妻と離縁したりする意味を持つ表現ですが、「休暇を与える」という意味もある点が「首を切る」と異なります。
なお、「首を切る」の対義語としては「雇う・雇用する・採用する」などが挙げられます。こちらは企業が社員を雇入れるような際に使われる言葉です。
首を切るの英語訳
「首を切る」は、英語だと次のように言います。
「fire」(首にする・お払い箱にする)
「dismiss」(解雇する・解任する)
「let go」(辞めさせる・首にする)
「fire」は、本来「火を放つ・発砲する」などの動詞ですが、「仕事を首にする」という意味も持っています。主に受け身の形で使われ、「be fired(首にされた)」などのように用います。
「dismiss」も「仕事をやめさせる」という意味を持つ動詞です。ただ、「fire」よりも改まった場で使われる表現となります。
「let go」は「つかんでいるものを手放す」というのが元々の意味です。転じて「首にする」という意味でも使うことができます。「let go」は主に日常会話の中で使われる表現となります。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
I was fired from work yesterday.(私は昨日仕事を首になりました。)
She was dismissed because he was stealing money.(彼女はお金を盗んでいたので解雇された。)
I let him go last month.(私は彼を先月に辞めさせた。)
その他、物理的に「首を切る」という意味であれば、「behead」を使います。「behead」は「(刑罰として)首を切る」という意味の動詞です。
首を切るの使い方・例文
最後に、「首を切る」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 何度言っても彼は会社の就業規則を守らないので、仕方なく首を切ることにした。
- 彼女は仕事はできないが一生懸命働いているので、首を切ることは考えていない。
- あいつはこのところ仕事をサボってばかりいるね。首を切られるのも時間の問題だよ。
- 彼は最近仕事でミスばかりをしているので、首を切られるかもしれないと恐れている。
- ライバル会社に不正に情報を流出させたということで、その従業員は首を切られた。
- 江戸時代では、犯罪を犯した武士への刑罰として首を切るようなことがよくあった。
「首を切る」は主にビジネスシーンにおいて使われます。ビジネスにおいて「従業員を解雇する」といった場面で用いるのが一般的です。
実際に使う際には、文章というよりは日常会話の中で使うことの方が多いです。逆に、「解雇」や「免職」などは改まった文章の中で使われます。状況に応じてこれらの言葉を使い分けるようにして下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「首を切る」=①免職する・解雇する。②打ち首にする。
「語源・由来」=①実際に人の首を切ることから。②歌舞伎の人形浄瑠璃で人形の首が外されたことから。
「類義語」=「解雇する・免職する・首にする・リストラする・お払い箱にする・暇を出す」など。
「英語訳」=「fire」「dismiss」「let go」「behead」
「首を切る」という表現は、普段から何気なく目にしています。これを機にぜひ正しい使い方をして頂ければと思います。