軽く何度も繰り返して突くことを「つつく」と言います。
ただ、この場合に「つつく」の漢字表記が問題になってきます。つまり、「突く」と書くのかそれとも「突つく」と書くのかということです。
また、場合によっては平仮名で「つつく」と書くこともあります。本記事では、これらの疑問を解消するため、「つつく」の意味や語源、漢字表記などを解説しました。
「つつく」の辞書での表記
まず、「つつく」の意味を調べると次のように書かれています。
つつく【▽突く】
①何度も軽く突く。こつこつと小刻みに突く。また、そのようにして合図や注意をする。
②㋐なべ料理などを、繰り返しはしで挟んでは取って食べる。㋑鳥などが、嘴 (くちばし)で何度も突くようにして食べる。
③欠点などを、ことさら取り上げて問題にする。とがめる。ほじくる。
④そそのかす。けしかける。
⑤調べる。検討する。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
上記のように、「つつく」は辞書だと「突く」と表記されています。しかし、よく見ると「突く」の項目に「▽」とあります。
「▽」は、常用漢字表には含まれていない読み方の「表外読み」という意味の印です。「表外読み」の場合は、漢字ではなく平仮名で表記することが慣例となっています。
したがって、辞書の表記に従うならば、「つつく」はそのまま平仮名で書くということになります。
「つく」も「つつく」も同じ意味の漢字を当てようとすると「突」しかないので、漢字書きをすればどちらも「突く」になってしまいます。そのため、お互いの混乱を避けるためにも、「突く」は表外読みとしているのです。
同じような例として、「誘う」や「叩く」などが挙げられます。「誘う」は「さそう」とも「いざなう」とも読める言葉です。また、「叩く」は「たたく」とも「はたく」とも読める言葉です。
このような言葉も、混乱をさけるために、常用漢字に従ってどちらも平仮名で表記するのが望ましいということになります。
ただ、「つつく」に関しては例外的に「突つく」と表記されることもあります。そのあたりの理由や背景などを含め、詳しく説明していきたいと思います。
「つつく」か「突つく」か
「つつく」の語源は、「突き突く」が変化したものと記している辞典がほとんどです。
現在でも、漢字で「突つく」と表記するケースがあるのは、この語源に沿ったものだと思われます。その他、「突つく」以外だと「突突く」「つ突く」などと表記する場合もあります。
ただ、実際には平仮名で「つつく」と表記するケースが多いです。
国立国語研究所による用例カードを見ると、12の文学作品に「つつく」があり、その使用数は28例確認されています。
ところが、漢字を使ったものは次の3例のみで、他はすべて平仮名書きです。
白い羽の鶏が五六羽、がりがりと爪で土を搔つ掃いては嘴(くちばし)でそこを啄(つつ)いて
出典:長塚節『土』
私は鉛筆のしんで頬っぺたを突つきながら
出典:林芙美子『放浪記』
前者の『土』という作品には、「つつく」が7例登場しますが、「啄く」は鳥がくちばしでつつく場合に限り用いられ、他の用例はすべて平仮名です。
後者の『放浪記』という作品の場合は、「つっつく」と読む可能性も残されています。ただ、『日本国語大辞典』には次のような用例も確認されています。
所が毎日毎晩一つ鍋のものを突ついて進行してゐるうちに
出典:夏目漱石『満韓ところどころ』
この事から、「突つく」という表記も皆無ではないということが分かります。
しかし、「突つく」という表記は「突く」の活用語尾が示されていないので、常用漢字表の音訓欄の範囲には該当しないものです。
さらに、「突つく」は「つっつく」の表記と似ているため紛らわしいという事情もあります。
そのためか、現代語を中心に採録した国語辞典や表記辞典の類では、すべて表記として「つつく」という平仮名を掲げています。
以上の事から考えますと、「つつく」の表記は「突つく」よりも「つつく」の方が適切であるという結論が出せます。
「つっつく」の場合は?
「つつく」の俗語的な表現である「つっつく」は、「突っ突く」を標準表記とする辞典が多いです。国立国語研究所の用例カードを確認すると、「つっつく」の表記は様々な形式があります。
【突っ突くの用例】
まあ、そんなことはいはないで、僕が折角買って来たんだから、牛肉を突っ突いて行けよ。
出典:山本有三『波』
【突っつくの用例】
君と牛肉を突っつきながら話したことがあったね。
出典:山本有三『波』
身をすぼめ、溜息をつくやうに、然し言葉は刺すやうに広介を突っついてゐた。
出典:佐多稲子『くれなゐ』
一生懸命しやべっってゐる若い漁夫の肩を突っついた
出典:小林多喜二『蟹工船』
【つッ突くの用例】
三好は、自分の秘密をつッ突かれたやうにひやりとしたが、
出典:里見弴『多情仏心』
【突々くの用例】
其さへ傍から突々かれなければ容易に出て行かぬ人が
出典:尾崎紅葉『多情多恨』
【突つくの用例】
づぶづぶ突ついて一角を殺すが好い、どうぢや。
出典:三遊亭円朝『真景累ヶ淵』
是で一つ神秘の門を突ついて見る積だのと
出典:二葉亭四迷『平凡』
「常用漢字表」の音訓欄に従った書き方をすると、「突っ突く」「突っつく」「つっ突く」など様々な表記が可能です。ただ、現在の所こちらも混乱を避けることを重視するなら、「つっつく」と平仮名で書くのが穏当だと考えられます。
なお、「つつく」の「類義語」としては「指す」「小突く」「突き刺す」などが一般的です。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「つつく」⇒「つつく」と平仮名で表記する。「突く」や「突つく」などは不可。
「つっつく」⇒「突っ突く」「突っつく」「つっ突く」などが可能だが、「つっつく」が穏当な表記。
「類義語」⇒「指す」「小突く」「突き刺す」など。
「つつく」を「突く」や「突つく」と書くと、読み方で混乱が生じてしまう可能性があります。特に、「突く」の方は「つく」とも「つつく」とも読める表記です。このような混乱を避けるためにも、最初から「つつく」と平仮名で表記するのが望ましいということになります。