素敵 素適 素的 違い 意味 語源 由来は

「すばらしい」という意味の言葉で「すてき」があります。

ただ、「すてき」を漢字変換すると「素敵」と「素適」の2つが出てきます。また、同じ読み方で「素的」が使われることもあります。

いずれもよく使われている表記ですが、一体どれを使えばよいのでしょうか?今回は、「素敵・素適・素的」の違いや由来について詳しく解説しました。

すてきの語源・由来

 

「すてき」の語源については2つの説があります。

一つは、「すばらしい」の「す」に「的」がついたものという説です。

この説は、『日本国語大辞典』をはじめとして多くの辞書や辞典が載せています。よって、辞書に書かれている説に従うならば「素的」と書くのが適切のようにも思えます。

ただ、この説に関しては定説となるほどのはっきりとした確証は得られていません。

そしてもう一つは、「出来過(できすぎ)の倒語」という説です。

「倒語」とは、語の音節の順序を逆にして作られた語のことを指し、意味を強めるためや仲間以外の人に意味を知られない隠語のために用いられます。

「たね(種)」⇒「ねた」「やど(宿)」⇒「どや」「ばしょ(場所)」⇒「しょば」など。

上記のように、「できすぎ」を「倒語」にして「すてき」が生まれたという説です。こちらの説は『大言海』や『江戸語大辞典』などにも掲げられていますが、一つ目と同様に確証を得るまでには至っていないです。

以上、二つの説を紹介しましたが、現在ではどちらも正しい由来かどうかははっきりしていません。

そのため、「すてき」を漢字表記にした「素敵」「素適」「素的」はいずれも当て字であると言われています。

ただ、「すばらしい」という語は元々「とんでもない」という意味で使われており、「すてき」も当初は「並外れた様子」を表す語として使われていました。

したがって、同じように意味が変遷していったとするならば、「すばらしい」を語源とする説は十分に考えられます。

江戸時代の用例

 

「すてき」という語が最初に使われ出したのは、江戸時代後期に入ってからだと言われています。江戸時代に作られた式亭三馬の滑稽本『浮世風呂』には、次のような一文が残されています。

すてすて、すてきに可愛がるから能(いい)。

出典:『浮世風呂』

そして、同じ作者による『浮世床』になると、十四もの用例と、他に「すてき亀」というあだ名のある人物が2例あります。

このあだ名は、「何ごとにもすてきすてきといふ口ぐせあるゆゑなり」という注釈が付いており、この語により新しく流行し始めた言葉であると推測されます。

『浮世風呂』や『浮世床』に登場する「すてき」は、全てひらがなでの表記です。しかし、『日本国語大辞典』だと次のように漢字表記の用例が示されています。

「お二人で十八杯あがりました。丁度三百でござります」「そいつは素敵だの、銭はあるか」 

出典:曽我梅菊念力弦-三立

水虫で素的に困るの 

出典:御国入曽我中村-三立

「親方衆に素敵を見せに、一緒に連れて来ようわいなァ」 

出典:綴合新著膝栗毛

したがって、最初はひらがなの表記ではあったものの、徐々に漢字で表記されるようになった語が、「すてき」ということになります。

明治以降の用例

 

次に、明治以降の文学作品の用例を確認してみます。

【すてき】の用例

「飴」は用ひやうにて孝行息子が親を養ふ良薬にもなり、盗跖が窃盗のすてきな材料にもなりしと聞く。

出典:坪内逍遥『当世書生気質』

いやすてきなもんですよ。

出典:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

「さう。この服どう?」「すてきだね。」

出典:山本有三『波』

冬のステキに冷たい海だ。

出典:林芙美子『放浪記』

【素的】の用例

これや素的だ!花をご馳走に饗宴を開くのだ。

出典:佐藤春夫『田園の憂鬱』

愛子は、ふむ、これは又素的な美人ぢやないか。

出典:有島武郎『或る女』

【素敵】の用例

五十畳丈に床は素敵に大きい。

出典:夏目漱石『坊っちゃん』

如何です。今日は素敵に好いお顧客を世話してもらひましたよ。

出典:徳田秋声『あらくれ』

そして此彫り物も素敵だ。

出典:長与善郎『青銅の基督』

あたしに素敵な名評があるんだが、

里見弴『多情仏心』

お父さんどうして一しょに行かなかったんだい。素敵だったぜ、ハドソン。

出典:山本有三『波』

七十円もはいれば素敵なことだ。

出典:林芙美子『放浪記』

明治以降の文学作品には、「すてき」「素的」「素敵」のいずれも使用が確認されています。ただ、その中では「素敵」の使用が最も多いです。

放送業界での用例

 

新聞やテレビなどの放送業界では、主に「素敵」か「すてき」のどちらかが使われています。

まず、国立国語研究所の「現代雑誌九十種の用語用字」調査(昭和31)の結果だと、「素敵」が八例、「すてき」が三例あります。「素的」に関しては、その用例は確認されていません。

また、「電子計算機による新聞の語彙調査」(昭和41)の結果では、「すてき」が三十七例、「素敵」が三十五例使われています。ただ、「素敵」の例はすべて広告に使われたもので、新聞記事に対しては1つも使われていません。

これは日本新聞協会の『新聞用語集』に基づいたものだと思われます。

すてき(素敵)→すてき

出典:『新聞用語集』昭和56年

上記のように、新聞業界では「すてき」とひらがなで書くことが推奨されています。そのため、「素敵」と「素的」に関しては原則用いられていないということです。

その他の放送業界、例えば、NHKの『新用字用語辞典』などにおいても「すてき」を使うように定められています。

一方で、「すてき」の語源と言われている「すばらしい」に関しては『新聞用語集』だと「素晴らしい」と書くように載せられています。この事からも、「素敵」や「素的」は当て字であることが分かります。

素敵・素適・素的の違い

素敵 素適 素的 違い 使い分け

以上の事から考えますと、「素敵」「素適」「素的」は意味自体に違いはないという結論になります。なぜなら、「すてき」という語自体の語源が明らかではないためです。

冒頭でも述べたように、この言葉の語源はいくつか説はあるもののはっきりとした由来は分かっていません。

現在の所分かっているのは、元々は「すてき」と書いていたのが、次第に漢字表記もされるようになったという事実のみです。この事実に則って推測するならば、「素敵」「素適」「素的」はいずれも当て字と考えるのが妥当です。

これらの漢字が当て字になった理由は、「敵」は「勝てない」、「適」は「望みが実現する」などの意味を含んでいるからだと言われています。つまり、「素敵」⇒「素晴らしくて勝てない」「素適」⇒「素晴らしくて望みが実現する」ということです。

なお、「すてき」の使い分けですが、正確な語源が分かっていない以上、「すてき」と平仮名で書くのが無難だと言えます。現に、新聞やテレビなどの放送業界では、原則的にひらがなで「すてき」と表記することを推奨しています。

ただ、「素敵」「素適」「素的」が当て字であるとしても、古くから一般に用いられてきた書き方であることは事実です。特に、「素敵」の方は現在でもよく見かける表記です。

したがって、あえて漢字表記をするならば「素敵」を使うという選択になります。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

すてきの語源・由来」=①「すばらしい」の「す」に「的」がついたもの。②「出来過の倒語」の2つがあるが、正確な由来は不明。

素敵・素適・素的の違い」=意味自体に違いはなく、すべて「当て字」と考えるのが妥当。

すてきの使い分け」=原則、「すてき」と平仮名で書く。特に放送業界では「すてき」を用いる。

「すてき」の漢字表記は複数ありますが、どれが一概に正しいなどはありません。現在ではあえて漢字にこだわらずに、ひらがなで表記するのが一般的です。ゆえに、もしもどれを使うか迷った場合は「すてき」と書くようにして下さい。