「手本」と「見本」にはどんな違いがあるのでしょうか?
どちらも「お手本を見せる」「見本を示す」などのように用いられています。さらに、似た言葉で「模範」が使われることもあります。
今回は、これらの言葉の違いや使い分け、英語訳などを詳しく解説しました。
手本の意味とは
最初に、「手本」の意味を辞書で引いてみます。
【手本(てほん)】
①習う人が模範とすべき字や絵などのかいてある本。「手本どおりに書く」
②見習うべき物事。模範。「友人宅を手本にして新築する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「手本」には2つ意味があります。1つ目は「模範とすべき字や絵などがかいてある本」という意味です。
この意味の場合は、「字」や「絵」などが書かれている本を対象とします。
例えば、有名な絵画の画風などが一つの本にまとめてあれば、それは「手本」です。また、参考にすべききれいなボールペン字が書かれている本なども「手本」だと言えます。
そして2つ目は「見習うべき物事・模範」という意味です。この意味の場合は、モノや人、状態、動作などを対象とします。
例えば、包丁の扱い方が上手い人がいれば、「彼の包丁の使い方をお手本とする」などと言い、野球のバッティングが上手い人がいたとしたら、「彼のバッティングを手本とする」などと言います。
どちらの意味でも使うことができますが、一般には後者の意味(②)として使うことの方が多いです。
なお、「手本」と「模範」は多くの辞書だと同じ意味として記述されています。
「手本」から意味を引くと「模範」とあり、「模範」から意味を引くと「見習うべき手本」などと書かれています。
ただ、厳密に言いますと両者は意味が異なる言葉同士です。まず「模範」の方は1つ目の「本」という意味は含まれません。
また、「手本」が「真似する」という点に重きが置かれるのに対し、「模範」は「理想的な状態・望ましい状態」という点に重きが置かれるという違いがあります。
具体例で比較しますと、「先生の習字を手本とする」という言い方であれば、「先生の字を真似て書くこと」という意味になります。
一方で、「模範解答を書く」という言い方であれば、解答を真似するというよりも「理想的な解答(正解に近い解答)を書く」という意味になります。
さらに付け加えると、「手本」の方が「模範」よりも話し言葉で使われることが多いです。「模範」はどちらかと言うと、話し言葉というよりは書き言葉を中心に使われます。
見本の意味とは
次に、「見本」の意味も辞書で引いてみます。
【見本(みほん)】
①商品などの質や形状を買い手に知らせるために示す品。また、そのために作った物。サンプル。「実物見本」「束 (つか)見本」
②具体的な例。手本。「使い方の見本を示す」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「見本」には2つの意味があります。
1つ目は「商品の質や形状を買い手に示すための品」という意味です。一言で言えば、「サンプル」のことです。
例えば、「化粧品の見本」であれば、化粧品の質や形状を示すために本体の何%かの量をお試しとして購入者に渡すものとなります。
また、「食品の見本」であれば、食べ物の質や形状を忠実に再現し、あたかも本物の食べ物であるかのように作った物となります。
そして、2つ目は「具体的な例・手本」という意味です。この意味の場合は、「手本」とも書かれているように「手本」と近い内容を表しています。
ただ、実際には「具体的な例」という意味で使うことの方が多いです。
例えば、会社の社員が仕事のマニュアルを読み、指示通りに仕事を進めようとしたものの、具体的なやり方がいまいち分かりませんでした。
そこで、上司に仕事のやり方を聞き、具体的な手順を教えてもらうことにしました。このような場面では、「上司の仕事のやり方を見本とした」などと言います。
「見本」の「見」は「見る」と同じ漢字です。したがって、人の目で見て理解することのできる具体的な例を表したものが「見本」となるのです。
手本・見本・模範の違い
ここまでの内容を整理しますと、
「手本」=模範とすべき字や絵などがかいてある本。見習うべき物事・模範。
「見本」=商品の質や形状を買い手に示すための品(サンプル)。具体的な例。
「模範」=見習うべき見本。
ということでした。
まず、「手本」は「字や絵などが書いている本」、「見本」は「サンプル」という意味で使うという特徴があります。
この意味の場合は、他とは明確に異なるのでそこまで違いを意識する必要はありません。紛らわしいのは、その他の意味で使う場合です。
「手本」は、見習うべき物事や模範とすべき物事を真似するような場合に使います。
例えば、習字の書き方や包丁の扱い方などといったものは他人の技術です。このような、周りからすると真似して見習いたくなるような模範的な物事を「手本」と言うのです。
対して、「見本」の方は「見習うべき」「模範とすべき」という意味までは含まれません。あくまで、具体的な例を示したものです。
「見本」は、「このように使います」「こういった品です」のように例や品物を示したものです。
「見本」を示すことで結果的に参考になるということはありますが、この言葉自体には周りに模範を示すような意味は含まれていないのです。
最後の「模範」に関しては「手本」とほぼ同じ意味ですが、先述したように両者には違いがあります。
「模範」は「手本」よりも「理想的な状態」が意識され、なおかつ文章などの書き言葉で使われるという特徴があります。
「模範」は「模範解答」などの言葉があるように、「望ましい理想的な状態」を表す言葉なのです。
手本・見本・模範の英語訳
「手本・見本・模範」の英語訳は次の通りです。
「手本」⇒「model」「example」
「見本」⇒「sample」「example」
「模範」⇒「model」「example」
英語の場合は日本語ほど厳密に使い分けがされているわけではありません。
まず、「model」は「手本・模範・鑑」などの訳でカタカナだと「モデル」とも言います。相手に見習うべき模範を示すような時に使う単語です。
「sample」は「見本・標本・試供品・実例」などの訳があり、「サンプル」とも訳します。
「example」は「例・実例・手本・見本・模範」など複数の訳があり、どの言葉に対しても使える幅広い意味を持った単語です。
ただ、「手本」や「模範」の場合は、「good example(良い例)」などのように用い、「見本」の場合は単に「example」のみを用いることが多いです。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
It is important to set an good example.(良い例を示すことは重要である)
She bought a cosmetic sample.(彼女は化粧品の見本を購入した。)
Be a role model after graduation.(卒業後は人の模範となるようになってください。)
手本・見本・模範の例文
最後に、それぞれの使い方を具体的な例文で紹介しておきます。
【手本の使い方】
- 絵の初心者は、手本を見てまずはその通りに描くべきである。
- 優秀な部下は、上司が手本を示すことでそのレベルが向上していく。
- 先生の習字の手本を参考にして、繰り返し練習していくつもりです。
- まだ経験の浅い新入社員なので、上司がお手本を見せることにした。
- 彼は経験も豊富で仕事もできるため、お手本となる人物である。
【見本の使い方】
- 新しく発売する商品の見本をみてから、買うかどうか決めます。
- レストランなどの洋食店の入り口には、食品の見本が飾られている。
- 試しに届いた見本が素晴らしかったので、本製品を買いたいです。
- 来週は大手自動車メーカーが集まり、見本市を開催する予定です。
- 注文住宅を建築した場合の見本を、立体的な図として表示した。
【模範の使い方】
- 彼はクラスの皆から尊敬されており、模範となる人物である。
- 組織のリーダーは模範を示すことで、人が付いて来るようになる。
- 最後の問題は自信がなかったが、模範解答にかなり近かった。
- 今はそうでもありませんが、将来は模範となる人になりたいです。
- 彼女の立ち振る舞いは、周りの人にとって模範的なものであった。
例文のように「手本」は「示す」「見せる」「~となる」といった使い方が多いです。また、「模範」も「示す」「~となる」という使い方ができます。
ただ、「お手本」「模範的」「模範解答」などはこの使い方でしか用いません。これら以外の使い方はすべて誤用だと考えて下さい。
「✕」⇒「お見本・お模範」「手本的・見本的」「手本解答・見本解答」
その他、習字や料理、運動など何かの技術や能力を対象とする場合は「手本」のみを用います。「習字の模範」「料理の模範」などのようには用いません。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「手本」=模範とすべき字や絵などがかいてある本。見習うべき物事・模範。
「見本」=商品の質や形状を買い手に示すための品。サンプル。具体的な例。手本。
「模範」=見習うべき見本。理想的な状態を示したもの。
「違い」=「手本」は真似して見習うような模範的な物事を対象とし、「見本」は品物やサンプル、具体例などを対象とする。「模範」は「手本」よりも理想的な状態を指し、主に書き言葉で用いられる。
どれも普段の会話からビジネス文書までよく用いられているものです。これを機に正しい使い分けを理解して頂ければと思います。