「監事」と「監査」は、企業などの法人を運営する際によく使われている言葉です。どちらも似たような使い方がされているので、分かりにくい印象だと思います。
さらに、似たような言葉で「監査役」が使われることもあります。本記事では、これらの疑問を解消するため「監事」と「監査」の違いについて解説しました。
監事の意味
まず、「監事」の方の意味を辞書で引いてみます。
【監事(かんじ)】
①団体の庶務をつかさどる役。
②法人の財産や理事の業務執行の状況を監査する機関。株式会社の監査役にあたる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「監事」とは「会計や業務の運営を監督し、検査する役」を意味します。
簡単に言えば、「組織のお金の状況をチェックする役のこと」だと考えて下さい。
例えば、法人の中でも株式会社は、現在の売上や財産などの状況をクリアにしておかなければいけません。
これはなぜかと言いますと、会社というのは投資している株主のために利益を還元しなければいけないからです。
また、取引先の企業とのやり取りを円滑に進めるためにもお金の状況ははっきりと公開しておく必要があります。
そのため、嘘の報告などがないように「監事」という役がチェックするのです。
「監事」は、担当する企業とは完全に独立しており、第三者機関のような位置付けとなっています。
これは第三者としての位置にいることで、公平にそして客観的な判断をするためです。
主な「監事」の仕事内容は以下の通りです。
①「会計監査」⇒決算書の内容が正しいか細かくチェックする。
②「業務監査」⇒組織がルール通りに運営されているかチェックする。
③「監査報告」⇒①・②の報告書を作成し、総会などで報告を行う。
監査の意味
次に、「監査」の意味も辞書で引いてみます。
【監査(かんさ)】
①監督し検査すること。
②特に、会計監査・業務監査のこと。→法定監査 →任意監査
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「監査」とは「会計や業務の運営を監督し、検査すること」を意味します。
先ほど、「監事」=「検査する役」と言いましたが、この「監事」が実際に検査することを「監査」と言います。
すなわち、「監査」とは「監事が行う業務」を表すということです。
この「監査」という言葉に「役」が付き、「監査役」が使われることもあります。
【監査役(かんさやく)】
⇒取締役および会計参与の職務の執行を監査する株式会社の機関。会計監査・業務監査を任務とする。従来、すべての株式会社に監査役の設置が義務づけられていたが、現行の会社法では、非公開会社の監査役の設置は任意となっている。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
要約しますと、「監査役」とは「会計や業務を検査する株式会社の機関」のことを表します。すなわち、「監査役」は「監事」とほぼ同じ意味ということです。
厳密に言いますと、「監査役」は非営利団体などには使わないのに対し、「監事」は会社以外の非営利団体などにも使うことができます。
例えば、PTAなどの各学校により組織された社会教育団体などにも「監事」が設置されることがあります。
「監事」は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」によると次のように記述されています。
「監事は、理事の職務の執行を監査する。この場合において、監事は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。」
出典:『一般社団法人及び一般財団法人に関する法律』の第九十九条(監事の権限)
つまり、「監事」は本来、一般社団法人や一般財団法人などの法人に対して使われている言葉ということです。
もちろん、株式会社にも使うことができますが、上記以外だと医療法人、学校法人、社会福祉法人など幅広い団体に対して使われている言葉です。
対して、「監査役」の方は基本的に営利目的の株式会社にしか使われません。
これは、「監査役」という名称自体が「会社法」という法律の中で、「取締役」や「会計参与」などとともに定められているからだと言えます。
監事と監査の違い
以上の解説を踏まえますと、「監事」や「監査役」が実際に行う仕事の内容が「監査」ということになります。
「監事」は「検査する役」のことなので、業務や会計をチェックする人は皆「監事」と呼ばれています。これは一般財団法人や一般社団法人、株式会社などその種類を問わずという意味です。
対して「監査」は監事が業務の内容や会社の決算などを実際にチェックすることです。「監査」をし、企業として問題がないかチェックされることにより、初めて企業としての透明性が保たれることになります。
ただし、「監査」をする人の呼び名(監事)は、監査の対象や種類などによっても異なってきます。
例えば、経営を目的とした法人、すなわち株式会社などでは「監査役」を用います。また、同じ団体でも地方公共団体などでは「監査委員」などと呼ぶこともあります。
他には、「会計監査人」といって、業務全般には一切触れずに会計だけの監査をする名称もあります。
このように、「監査」を行う人すべてを「監事」と呼ぶわけではありません。なぜなら、「監事」という言葉自体が非常に幅広い組織や団体の役を対象としているからです。
一般に世の中の組織や団体を監査する対象としては株式会社が多いです。よって、分かりにくいと感じる場合はよく使われる「監査役」の方をまずは覚えておくことをおすすめします。
監事と監査の例文
最後に、それぞれの使い方を例文で確認しておきます。
【監事の使い方】
- 監事は民間会社では監査役と呼ばれている役職である。
- 一般財団法人では必ず監事を設置しなければならない。
- 一般社団法人において、理事と監事が選任されることとなった。
- 組合には、理事および監事を役員として必ず設置しなければならない。
- 監事は公益法人、医療法人、特例民法法人、社会福祉法人などで設置される。
【監査の使い方】
- 来月行われる予定である監査の日程を教えてください。
- 株式会社は、監事に相当する機関として監査役を置くことができる。
- 上場企業は、有価証券報告書について監査を受ける必要がある。
- 監査役を選任するには、株主総会での決議が必要である。
- 監査役は取締役の業務の執行に違法性がないかチェックする。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「監事」=会計や業務の運営を監督し、検査する役。
「監査」=会計や業務の運営を監督し、検査すること。
「監査役」=会計や業務を検査する株式会社の機関。
【違い】⇒「監事」や「監査役」が実際に行う仕事の内容が「監査」。
「監事」は、株式会社以外にも非営利団体など幅広い組織に対して設置することができます。対して、「監査役」は株式会社にだけ設置されます。これらの「監事」や「監査役」が行う業務が「監査」ということです。