「行書」と「草書」は、どちらも文字の書体を表すものです。特に年賀状などで手書きをするときによく使われるものです。
さらに「楷書」や「隷書」などの書体も目にします。今回はこれらの言葉の違いや使い分けについて詳しく解説しました。
行書・草書とは
最初に、それぞれの意味を辞書で引いてみます。
【行書(ぎょうしょ)】
⇒漢字の書体の一。楷書をやや崩した書体で、楷書と草書の中間にあたる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
【草書(そうしょ)】
⇒書体の一。古くは、篆隷 (てんれい) を簡略にしたもの。後代には、行書 (ぎょうしょ)をさらに崩して点画を略し、曲線を多くしたもの。そう。そうがき。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「行書」も「草書」も中国を由来とする漢字の書式ですが、まず簡単にその歴史を振り返ってみます。
中国では、漢字の書体がその歴史によって変遷してきました。以下はその流れを示したものです。
「篆書」⇒「隷書」⇒「草書」⇒「行書」⇒「楷書」
見て分かるように、最も古いのが「篆書(てんしょ)」と呼ばれる書体です。
「篆書」は、秦よりも前の時代に使われていたもので、まるで象形文字のような形をしたユニークな形をしています。現在でも、印鑑やパスポートの表紙などに用いられています。
次に使われるようになったのが「隷書(れいしょ)」と呼ばれる書体です。
「隷書」は、秦の役人が業務を効率化するために「篆書」を書きやすくした書体とされています。
左右に波打つような書体が特長で、現在でも日本銀行券などの紙幣に用いられています。
そして、「隷書」の次に使われるようになったのが「草書」と「行書」です。今回詳しく違いを紹介するのがこの2つです。
まず「草書(そうしょ)」ですが、これは前漢の頃から現れ始め、後漢になると広く一般に使われるようになりました。
「草書」は、前の書体である「隷書」を早書きしていく過程で、次第に新しい書体として使われるようになったのです。
一方で、「行書(ぎょうしょ)」ですがこれは「隷書」と「草書」の特徴を生かした形として生まれました。
「行書」も同じく前漢~後漢辺りには現れ始めていたとされ、東晋時代には一つの書体として完成していました。
そして最後の「楷書(かいしょ)」ですが、「楷書」は現在もなお私たちが使っている書体です。
「楷書」の成立時期については諸説ありますが、一般には「行書」と同時期かそれより少し後だと言われています。
いずれせによ、漢字というのは誕生した時からずっと同じ書式であったわけではありません。
徐々にですが、その姿を変えてきたという経緯があります。そのため、様々な種類の書式が存在するということです。
行書と草書の比較
「行書」は「楷書をやや崩した書体」で表記されます。一方で「草書」の方は「行書よりも崩れた書体」で表記されます。
以下は、白舟フォントからそれぞれの書体を引用したものです。
【行書の例】↓
【草書の例】↓
比較して分かるように、「行書」の方は現代の書式である楷書を少し崩したものなので、文字としては比較的まだ読みやすいです。
対して、「草書」の方は「行書」をさらに崩した表記なので文字としてはかなり読みにくいです。
特に、最後の「世界」の部分である漢字表記は非常に読みにくく感じるでしょう。
つまり、両者の違いを簡潔に言うと「行書の方が草書よりも読みやすい」ということです。
その他、両者の特徴としてはそれぞれ次のようなものが挙げられます。
【行書の特徴】
- 隷書を簡素化したものである。
- 読みやすいだけでなく、書きやすい。
- 書き崩しや省略が少なく、字の原型が留められる。
- 見た目は楷書とそこまで変わらない。
- 筆で書く際には速さは期待できない。
【草書の特徴】
- 篆隷 (てんれい) を簡略化したものである。
- 現代の表記とかけ離れているため、読みにくい。
- 書き崩しや省略が多く、字の原型が留められない。
- ある程度書けるようになるには、練習が必要とされる。
- 筆で書く際には行書よりも速さを期待できる。
「行書」の方は字の原型が留められるため、読みやすくてなおかつ書きやすい表記です。一方で、「草書」の方は原型が留められないので、読みにくくて書きにくい表記となります。
行書・草書・楷書の使い分け
ではこれらの書体はどう使い分ければいいのでしょうか?
まず、「楷書」に関しては私たちが普段からよく使っているので使い分けに神経質になる必要はありません。
現在の日本において明朝体やゴシック体などと共に広く使われている書体が「楷書」です。新聞や本などの書籍に書かれている印刷文字は、すべてこの「楷書」に当てはまります。
したがって、普段の文章に関しては今まで通り「楷書」を使うようにしてください。
そして、「草書」と「行書」ですが、この2つはともに書道において使われています。
「草書」は掛け軸などを見ても分かるように、「あえて読ませないこと」が意識されています。
つまり、「読みにくいこと」が一種の芸術となるようにしているということです。これは外国語などを「模様」として使う演出と同じものです。
ただ、読みにくいとはいっても元は漢字なので、正確には読むことができますし、読むことができれば意味は通じます。
したがって、たとえ読めなくてもきれいな模様として表現され、もしも読むことができれば意味が通じて美しい言葉となる。
このような時に「草書」を使うのが理想だと言えます。
もちろん、「草書」を使う時はすでに説明したように、美しくかけるように専門的な技術を身につける必要があります。
一方で、「行書」の方は年賀状などを見ても分かるように、基本的に「読ませること」を目的として使われています。
逆に言えば、「読ませない」という演出は行うことができません。
なぜなら、行書というのは楷書と見た目もあまり変わらず、多くの人が読むことができる書体だからです。
したがって、「行書」の方は読ませられる書体でなおかつ古風で趣のあるような雰囲気を醸し出したい時に使うのが理想と言えます。
本記事のまとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「行書」=楷書をやや崩した書体。
「草書」=行書よりも崩れた書体。
「楷書」=現代一般に使われている書体。
【行書と草書の違い】⇒「行書」は「楷書」に近いため、読みやすく書きやすいが、「草書」は「行書」を崩した書体なので読みにくく書きにくい。
「行書」は、大前提として相手が読めるように表記するものです。対して「草書」の方は読ませないにしつつ、なおかつ美しく表記するものです。したがって、「草書」を覚えるにはある程度の練習と経験が必要だと考えて下さい。