日本では70歳になった際に「こき」という言葉が使われます。ただ、この場合漢字の書き方が問題になってきます。
つまり、「古希」と「古稀」のどちらを使うのが正しいのか?ということです。そこで今回は、「古希・古稀」の違いや使い分け、由来などを詳しく解説しました。
古希・古稀の意味
まず、「こき」の意味を辞書で引くと次のように書かれています。
【古希/古稀(こき)】
⇒70歳のこと。また、その祝い。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「古希」と「古稀」は、辞書では一つの項目に統一されています。すなわち、辞書としての意味はどちらもほぼ変わらないということです。
意味は、「70歳のこと」もしくは「70歳のお祝い」のことを表します。例えば、「古希(稀)祝い」という言葉があります。
これは自分の家族である祖父や祖母が、無事に70歳を迎えた時に行う祝い事です。主に食べ物や飲み物、洋服、雑貨などをプレゼントします。
一般に、長寿のお祝いというのは以下の節目の年齢によって行われます。
- 「還暦(かんれき)」・・・60歳
- 「古希(こき)」・・・・・70歳
- 「喜寿(きじゅ)」・・・・77歳
- 「傘寿(さんじゅ)」・・・80歳
- 「米寿(べいじゅ)」・・・88歳
- 「卒寿(そつじゅ)」・・・90歳
- 「白寿(はくじゅ)」・・・99歳
最も有名なのはやはり、60歳を迎えた時の「還暦」でしょう。「こき」は、この中では2番目のお祝い事を意味するということです。
古希・古稀の由来
「こき」という言葉は、なぜ2つの漢字が存在するのでしょうか?その秘密は「こき」という言葉の由来に大きく関係しています。
元々この言葉は、中国唐代の詩人である「杜甫(とほ)」の書いた曲江詩(きょっこうし)、『人生七十古来稀』という作品に由来します。以下、実際の一文です。
「酒債は尋常行く処に有り。人生七十古来稀なり」
(読み):「しゅさいはじんじょういくところにあり。じんせいしちじゅうこらいまれなり」
これを簡単に訳すと、「酒の借金は行く所あちこちにあるが、七十歳まで生き延びたなんて稀(まれ)である」となります。
当時の唐は今から約1000年ほど前の古い時代で、人生はだいたい50年ほど生きるのが普通でした。
言い換えれば、「70年も生きること自体非常に珍しいことだった」ということです。
そのため、「杜甫」は、「70年も生きるようなことは稀だから、酒の借金などほっといてくれ」という意味で上記のような詩を書いたのです。
つまり、元々の「こき」の由来としては、「古希」ではなく「古稀」と書いていたということになります。
日本では元々、「希」という字は「ねがう」という意味、「稀」という字は「まれ」という意味で使われていました。そして、それぞれの熟語としては、「希望」「稀少価値」などのように明確に使い分けられていたのです。
ところが、中国においては「希」の方も「稀」に通じて「まれ」という意味で使われていました。このような経緯もあり、現在の日本では「希」の字書に「まれ」の訓があるのです。
古希と古稀の違い
「古希」と「古稀」には、明確な意味の違いはありません。
すなわち、「お祝い事の種類が異なる」とか、「祝う年齢が異なる」のような意味の違いはないということです。どちらであっても同じような意味を持ちます。
違いがあるとするならば、その漢字の種類だと言えるでしょう。
「希」という字は、常用漢字です。一方で、「稀」の方は常用漢字ではありません。
「常用漢字」とは文部科学省が示した一般社会で使う漢字の目安のことです。この常用漢字に従って、新聞やニュースなどの報道業界、学校で習う漢字などが使い分けられています。
もちろん、国が決めている漢字ですから、公文書や公用文など公的な文書もこの常用漢字に則って用いられています。
一般的には、国は混乱を避けるために、常用漢字内の言葉を使うことを推奨しています。
その証拠に、例えば以下の熟語は国語審議会の処置によって明確に使い分けが定められています。
×「稀元素」 ⇒ 〇「希元素」
×「稀釈」 ⇒ 〇「希釈」
×「稀少」 ⇒ 〇「希少」
×「稀代」 ⇒ 〇「希代」
×「稀薄」 ⇒ 〇「希薄」
×「稀硫酸」 ⇒ 〇「希硫酸」
×「古稀」 ⇒ 〇「古希」
上記の漢字一覧を簡単に説明すると、「左側の漢字ではなく右側の漢字を使うことを推奨する」という意味です。
最後の箇所を見れば分かるように、「こき」もこの中に含まれており、文部科学省が推奨しているのは「古希」の方ということになります。
どっちを使うべきか?
以上の事から考えますと、「古希」と「古稀」のどちらを使うべきか?と問われれば、原則として「古希」の方を使うという結論になります。
理由はすでに説明したように、教育機関のトップである文部科学省が「古希」を使うことを推奨しているからです。
この傾向は、公用文、報道関係の文、教科書の文など、今日の文章において一般化されている傾向にあります。
ただし、これはあくまで国が推奨しているという話であり、「古希」を使うことを強制しているというわけではありません。
例えば、常用漢字の適用が及ばない文章、すなわち「私文書」に関してはどちらを使っても問題ないです。
「私文書」とは「公文書」の反対語で、具体的に言うと手紙や小説文、ブログの文章などのことを意味します。
このような私人が作成する文章に関しては、国が定める常用漢字など公的なルールが当てはまるものではありません。そのため、「古稀」を使っても構わないのです。
「稀」は常用漢字外ですが、本来の言葉の意味から考えると、「稀」の方が正式な由来となった漢字です。ゆえに、「古稀」の方を完全に否定したり排除したりすることはできないことになります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「古希/古稀」=70歳のこと・70歳のお祝い。
「言葉の由来」=中国唐代の詩人、「杜甫」が書いた『人生七十古来稀』という詩から。
「違い」=意味自体に違いはないが、漢字の種類が異なる。「希」は常用漢字だが「稀」は常用漢字外。
「使い分け」=原則として「古希」を使う。私文書に関してはどちらを使っても構わない。
「古希」と「古稀」は、現在では両方とも使うことのできる表記です。ただ、迷った場合は「古希」の方を使うようにして下さい。