「歯牙にもかけない」という慣用句をご存知でしょうか?
教科書によく出てくる作品、『山月記』の中にも登場する表現です。この「歯牙」とは一体何を指すのか気になるという人も多いと思われます。
そこで本記事では、「歯牙にもかけない」の意味や由来、短文、類義語などを含め分かりやすく解説しました。
歯牙にもかけないの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【歯牙(しが)にもかけない】
⇒問題にしない。無視して相手にしない。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「歯牙にもかけない」は、「しがにもかけない」と読みます。漢字だと、「歯牙にも掛けない」とも表記します。
意味は「問題にしない・相手にしないで無視する」といったことです。
例えば、会社の仕事であなたが上司に対して何か意見を言ったとしましょう。ところが、上司はこちら側の意見など全く聞き入れる様子もなく、最初からあなたのことを相手にしてくれませんでした。
このような時に、「部長は私の意見など歯牙にもかけない様子だった」などと言うわけです。つまり、「歯牙にもかけない」とは相手のことを問題にすらせずに無視することを表した慣用句ということになります。
なお、辞書の説明にはありませんが、「歯牙にもかけない」は「嫌な出来事や批判などを気にしない」といった意味で用いられることもあります。こちらの意味も念のため覚えておくとよいでしょう。
歯牙にもかけないの語源・由来
「歯牙にもかけない」の「歯牙」は、「歯(は)」と「牙(きば)」を表した漢字です。「歯」も「牙」も人間の口の中や動物の口先に付いているものです。
転じて、「歯牙」は「言葉」や「口先」を表すような意味として使われるようになりました。ここから、「歯牙にもかけない」は「わざわざ言葉に出すほどでない」「取り立てて口に出すほどではない」などの意味を表す慣用句になったと言われています。
現在使われている「無視する・相手にしない」といった意味もここから派生したものです。
では、この慣用句の由来はどこにあるのかと言いますと、古代中国の書物である「史記(しき)」です。『史記』とは、前漢の武帝の時代に司馬遷によって編纂された歴史書のことです。
『史記』の中の「叔孫通列伝(しゅくそんとうれつでん)」という章に、「叔孫通(しゅくそんとう)」という人物が出てきます。彼は反乱の指導者である陳勝について、秦の二代皇帝から質問を受けました。
「陳勝とはどのような人物であるか?」
その時に彼は、「陳勝はただの盗賊である。歯牙の間に置く必要はない。」と答えました。要するに、「相手にする価値もないほどの人物だ」と言ったわけです。
これが現在も使われている「歯牙にもかけない」の正式な由来ということになります。
歯牙にもかけないの類義語
続いて、「歯牙にもかけない」の類義語を紹介します。
「歯牙にもかけない」と全く同じ意味、すなわち「同義語」と呼ばれるものはありません。ただ、この中だと「目もくれない」「眼中にない」の二つは比較的近い意味の言葉だと言えます。
その他、相手の要求や頼みごとを冷たく断るような時に、後者四つの慣用句を使うことも可能です。
歯牙にもかけないの対義語
逆に、「歯牙にも掛けない」の対義語としては次のようなものが挙げられます。
こちらは愛想よく振るまったり、好奇心を向けたりする言葉です。相手に対して興味や関心、好意などを示す言葉が反対語となります。
歯牙にもかけないの英語訳
「歯牙にもかけない」は、英語だと次のように言います。
「do not hang on teeth」
直訳すると、「歯を掛けない」という意味です。「hang on」は「すがりつく・しがみつく」という意味の熟語、「teeth」は「歯」を表す名詞です。合わせることで、「歯にすがりつかない」⇒「言葉を使わない」⇒「無視する」という意味になります。
例文だと、以下のような言い方です。
The chief did not seem to hang on his teeth.(課長は歯牙にも掛けない様子だった。)
その他、もっと簡易的な表現だと、「indifferent(無関心な)」などを使うことも可能です。
He is indifferent to her.(彼は彼女に対して無関心だ。)
歯牙にもかけないの使い方・例文
最後に、「歯牙にもかけない」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 彼は他人の噂や評判など歯牙にもかけない。それほど自分に自信があるのだろう。
- 歯牙にもかけないほど弱かったチームなのに、まさかあそこまで強くなるとはね。
- 彼女は最近テレビで報道しているニュースなど歯牙にもかけないといった感じだった
- 直属の上司に仕事の相談を持ちかけたが、歯牙にもかけない対応をされてしまった。
- 取引先に金額の提示を行ったが、ふたを開けると歯牙にもかけないほどあっさりと断られた。
- 部下は私の言うことなど歯牙にもかけない様子で、どんどんと先に仕事を進めていった。
「歯牙にもかけない」は、例文のようにビジネスやスポーツ、日常会話など様々な場面で使うことができます。この慣用句を正しく理解するためには、「何を無視しているのか?」そして「なぜ無関心なのか?」といったことを把握するのがよいです。
例えば、例文の1では他人の噂や評判を無視しているということを伝えています。理由は、自分に対して自信を持っているためです。
また、例文の2だと、相手チームのことを無視していたということが分かります。その理由は、かつては相手にするほどもなくそのチームが弱かったためです。
このように、歯牙にもかけない対応をするようになった背景まで考えておけば、使う際にも意味が分かりやすくなるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「歯牙にもかけない」=問題にしない・相手にしないで無視する。
「語源・由来」=わざわざ言葉や口に出すほどでないことから。古代中国の歴史書『史記』。
「類義語」=「目もくれない・眼中にない・けんもほろろ・にべもない・木で鼻をくくる」
「対義語」=「如才ない・好奇の眼差しを向ける・物見高い」
「英語訳」=「do not hang on teeth」「indifferent」
「歯牙」は、歯や牙を直接的に表すものではありません。「歯牙」とは「言葉や口先」を表す言葉なので、「相手にしないこと・問題にしないこと」という意味になると覚えておきましょう。