「抽象的」という言葉は、普段の文章でもよく使われています。主に、「抽象的な思考」「抽象的な表現」などのように用います。
ただ、よく目にするにも関わらず、意味が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、「抽象的」の意味を具体例を交えなるべく簡単に分かりやすく解説しました。
抽象的の意味
最初に、「抽象」の意味を辞書で引いてみます。
【抽象(ちゅうしょう)】
①いくつかの事物に共通なものを抜き出して、それを一般化して考えるさま。他との共通点に着目し、一般的な観念へとまとめ上げること。
②頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「抽象」とは「いくつかの事物に共通するものを抜き出し、一般化して考えること」を意味します。この説明だけだと分かりにくいため、簡単な図を用意しました。
上記の図は、上に行けば行くほど「抽象化」されており、下に行けば行くほど「具体化」されていると言えます。
「具体」とは「抽象」の反対語で、「体(=姿や形)を具(そな)えている」という意味です。すなわち、目に見えるような姿や形がはっきりとあることを「具体」と言うことになります。
ここで、「抽象」を理解するためにもう一度上の図を確認してください。
Aさんは「ポチ」、Bさんは「小春」、Cさんは「タロウ」をそれぞれ飼っていたとします。
飼い主であるAさんにとって、「ポチ」は、茶色くて短足でタレ目な生き物です。つまり、具体的な存在だと言えます。
しかし、そんなポチを「犬」と呼んだとき、ポチを抽象化したことになります。
なぜなら、「犬」と呼んだ瞬間に「茶色くて短足でタレ目」という具体的な性質が取り除かれてしまうからです。
「犬」と呼んだ時点で、一般的なその他の「犬」と同じ扱いになってしまうということです。
つまり、「抽象」とは「具体的なものが持つ共通した性質の一つに注目し、それを抽(ひ)き出して、一般化すること」だと言えます。
ポチも小春もタロウも「犬」という共通点を持っています。この「犬」という共通点を見つけて、1つの意味(犬)としてまとめることが「抽象」なのです。
同様に考えると、「犬」「猫」「牛」「豚」は共通点が「哺乳類」なので、抽象するとそれぞれ「哺乳類」になります。
また、「哺乳類」「は虫類」「両生類」は共通点が「動物」なので、抽象するとそれぞれ「動物」になります。
この時に、「ポチ」<「犬」<「哺乳類」<「動物」のように視点の階層を上げていくことを「抽象度を上げる」と言ったりもします。
抽象度を上げれば上げるほど、具体的な性質がどんどんとなくなります。そのため、上に行けば行くほど姿や形などが想像しにくい幅広い意味を持った言葉になるのがポイントです。
ちなみに、何が具体的で何が抽象的かは状況によって変わってきます。
先ほどの図だと、「猫」という言葉はニャン太やタマから見れば「抽象的」ですが、哺乳類や動物から見れば「具体的」です。
そのため、文章を読むときは「具体」と「抽象」が何を指しているかを柔軟に読み取る必要があります。
いずれにせよ、「抽象」というのは「他との共通要素を見つけてまとめる(一般化する)こと」です。したがって、「抽象的」の意味も簡単に分かるはずです。
名詞の後ろに「的」がつくと、「~であるさま・~な様子」という意味になります。
抽象の類義語・対義語
次に、「抽象」の「類義語」と「対義語」を紹介します。
類義語
「抽象」の類義語は、「一般化」「普遍化」の2つが挙げられます。
「一般化」=共通する性質を抽象し、一つの概念にまとめること。
「普遍化」=特殊なものから普遍的な法則や概念を作り出すこと。
まず「一般化」ですが、これは「抽象」とほぼ同じ意味として使うことができます。
ただ、「一般化」には「広く行き渡ること。全体に通用させること」などの意味もあります。使い方としては、「一般化された商品」「週休二日制を一般化する」などです。
この意味で使う際は、共通する性質を抜き出したり一つの意味としてまとめ上げたりするような意味は含まれていません。したがって、この点が「抽象」と「一般化」の違いだと言えます。
また、「普遍化」とは「特殊なものから、すべてに共通するような法則を作り出すこと」です。主に「制度を普遍化する」「普遍化された法則」などのように用います。
「普遍化」は、日常的な文章ではほとんど使われず、物理や科学、法律などのような対象に使われます。この点で、日常的な文章や現代文の評論、ビジネス文書などにも使われる「抽象」とは異なる言葉だと言えます。
対義語
「抽象」の対義語は、すでに説明した通り「具体」です。
「具体」とは「はっきりした姿や形をもっているさま」という意味です。
「具体」も「抽象」と同様に、「具体的」「具体化」といった形で使われます。
例えば、「もっと具体的に説明する。」などのように用います。
この場合はつまり、「何か姿や形を想像できるような分かりやすい説明をする」という意味です。逆に言えば、「抽象的な説明をしない」という意味です。
また、「捨象(しゃしょう)」も「抽象」の反対語に含まれます。
「捨象」とは「事物に共通する要素を抽象するときに、他の要素を切り捨てること」です、
先ほどの例だと、「ポチ」を「犬」と呼んだ瞬間に、「茶色くて短足でタレ目」といった性質は切り捨てられます。この「ポチの性質を切り捨てること」を「捨象」と呼ぶのです。
つまり、「捨象」とは「抽象」を裏の観点から同時に見た言葉ということになります。
「捨象」は「抽象」と同時に行われます。なぜなら、共通要素を抜き出す際は必ずそれ以外の性質を一緒に切り捨てないと、意味としてまとめることができないからです。
抽象の英語訳
「抽象」は、英語だと「abstract」「abstraction」などと言います。また、「抽象的」だと「abstract」「abstractive」などとも言います。
「abstract」は、名詞、形容詞、どちらの意味でも使うことが可能です。一般的には、「抽象」は「abstraction」、「抽象的」は「abstract」を使うことが多いです。
例文だと、次のような言い方です。
His opinion was abstract.(彼の意見は抽象的であった。)
This question is important to raise the abstraction level.(この問題は抽象化レベルを上げることが重要だ。)
抽象の使い方・例文
最後に、「抽象」の使い方を例文で紹介しておきます。
- ほ乳類という抽象的概念に対し、全員が同じ絵を描くことは難しい。
- あなたの話は抽象的なので、具体的な例を挙げた方がいいと思う。
- 「好きな食べ物は甘い食べ物である」という言い方は、非常に抽象的だ。
- ベーゴマやお団子、着物などを抽象すると、日本文化ということになる。
- 野球・サッカー・テニスを抽象すると、およそスポーツと呼ばれるものになる。
- 抽象的な思考をすることにより、ビジネスでのアイデアを高めていく。
- 抽象画の価値というものは、人によっては全く分からないものである。
1.の「哺乳類」は先述した図解だとかなり上の方に位置しています。上の方に位置する名称は、具体的な性質が取り除かれたものなので「抽象的」を使います。
また、2.は日常会話でもよく使われています。相手の話が「抽象的」、すなわち「具体性が欠けていて分かりにくい」という意味です。
例えば、「愛」や「平和」「心」など抽象的な言葉ばかりを使っていると、当然、具体的な姿や形がない言葉なので相手にとっては分かりにくく聞こえます。このような場合に、「あなたの話は抽象的だ」などと言います。
さらに、「抽象的」という言葉は6.のように、ビジネスシーンで使われる場合もあります。
ビジネスでは、「一つの課題に対して抽象度を高めていくことで、アイデアを生み出していく」という意味で使われることが多いです。
共通認識をすることにより、ビジネスを俯瞰的に見ることができ、結果的に視野も広がるのでこの抽象的思考を実践している企業も多いです。
なお、7.の「抽象画」とは、人物や果物など具体的なものを表現するのではなく、頭の中で思い描いたものを表現した作品を指します。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「抽象」=いくつかの事物に共通するものを抜き出し、一般化して考えること。
「抽象的」=一般的であるさま。転じて、具体性に欠けて分かりにくいさま。
「類義語」=「一般化」「普遍化」「対義語」=「具体」「捨象」
「英語訳」=「abstract」
ポイントは、冒頭で用意した図を頭の中にイメージしておくことです。「上に行けば行くほど抽象化(一般化)され、下に行けば行くほど具体化される」と覚えておけば、意味を忘れることはないでしょう。