元の位置から少しだけ動いたりすることを「ずれる」と言います。ただ、この場合「ずれる」と「づれる」のどちらの表記を使えばよいのかという問題が生じます。
そこで今回は、両者の違いや使い分け、類義語などについて詳しく解説しました。
正しいのはどっちか?
先に結論から言いますと、「ずれる」が正しい表記です。まず、両者を辞書で引いてみると次のように書かれています。
【ずれる】
①元あったところから、少しすべり動いて移る。あるべき位置から少し動いたり、基準の位置に合わない状態になる。
②標準や基準から少しはずれる。また、考え方などに隔たりができて食い違う。「雨で開始の時間が―・れる」「ピントの―・れた発言」「時代感覚が―・れている」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
【づれる】
「ずれる」の異表記。古くは「はずれる」(外れる)は「はづれる」、「おとずれる」(訪れる)は「おとづれる」と書いた。現在では普通は用いない。
「づれる」は「ずれる」の異表記と書かれています。「異表記」とは「意味または音が同じで表記が異なる語彙・文字列のこと」です。
例えば、「ウイルス」と「ウィルス」は同じ意味ですが音が異なる異表記です。また、「たんぱく質」と「タンパク質」は、音も意味も同じで、表記のみが異なる異表記です。
これと同様で、「づれる」は「ずれる」と音や意味は同じではあるものの、表記が異なる動詞ということになります。
元々、日本語では「外れる」を「はづれる」と書いたり、「おとずれる(訪れる)」を「おとづれる」と書いたりする習慣がありました。
そのため、当時の名残りがある「づれる」という表記も現在では残っているのです。
「づ」は誤った表記か?
その他の言葉を見ても、通常であれば、原則として「ず」を使うのが正しいです。
【例】
- 「築く」⇒「ず」が正しく、「づ」は誤り。
- 「ずば抜ける」⇒「ず」が正しく「づ」は誤り。
- 「気まずい」⇒「ず」が正しく、「づ」は誤り。
- 「絆(きずな)」⇒「ず」が正しく、「づ」は誤り。
- 「融通(ゆうずう)」⇒「ず」が正しく、「づ」は誤り。
ただ、「づ」という表記自体が全くの誤りか?というとそうではありません。
例えば、「片付け(かたづけ)」「手作(てづくり)」「お小遣い(おこづかい)」などの語は普通に使われています。
これらの表記に関しては、文化庁がそのルールを一つにまとめています。以下、実際の引用箇所です。
5 次のような語は,「づ」を用いて書く。
(1) 同音の連呼によって生じた「づ」
つづみ(鼓) つづら つづく(続) つづめる(約△) つづる(綴*)[注意] 「いちじく」「いちじるしい」は,この例にあたらない。
(2) 二語の連合によって生じた「づ」
みかづき(三日月) たけづつ (竹筒) たづな(手綱) ともづな にいづま(新妻) けづめ ひづめ ひげづら おこづかい(小遣) あいそづかし わしづかみ こころづくし(心尽) てづくり(手作) こづつみ(小包) ことづて はこづめ(箱詰) はたらきづめ みちづれ(道連) かたづく こづく(小突) どくづく もとづく うらづける ゆきづまる ねばりづよい つねづ(常々) つくづく つれづれ
つまり、単語に「づ」を使うパターンは二つあり、一つは①「同じような音が続く場合」、そしてもう一つは②「二つの語がくっつくことによって生じた場合」ということです。
さらに、この原則には続きがあり、①と②以外の場合は本則として「ず」を用いると書かれています。
「ずれる」に関しては、上記の(1)と(2)にも当てはまっていません。そのため、「づれる」ではなく「ずれる」を用いるということです。
ずれるの意味・使い方
「ずれる」は主に、二つの意味にわかれます。
一つ目は、「元あったところから、少し動いて移る。あるべき位置から少し動いたり、基準の位置に合わない状態になる。」という意味です。
【例】
- 机の位置がずれる。
- 顔の位置がずれる。
- 背骨がずれる。
- シートがずれる。
- 印刷がずれる。
二つ目は、「標準や基準から少しはずれる。また、考え方などに隔たりができて食い違う」などの意味です。
- 開始の時間がずれる。
- ピントのずれる発言。
- 自分の理想からずれる。
- 時代感覚がずれている。
- 自分のイメージがずれる。
どちらもよく使われていますが、①は形のある具体的なモノに使い、②は形のない抽象的なモノに使うという特徴があります。
ずれるの言い換え・類語
「ずれる」は、次のような類義語で言い換えることができます。
- 動く
- 移動する
- すべる
- 変わる
- スライドする
- 合わない
- 狂う
- 延期する
- 食い違う
- 噛み合わない
- 見失う
- 逸脱する
類義語は「動く」「すべる」などのように位置的・物理的にずれる場合と、「食い違う」「見失う」などのように感覚的・論理的にずれる場合に分かれます。
この中でも「延期する」は普段の文章やビジネスシーンなどでもよく使われます。「延期」は「日程や予定が移動する」という点では、「ずれる」と同じ意味です。
ただ、「延期」の場合は未来に対してのみ使い、過去に対して時間が移動するような使い方はしません。例えば、「明日の予定を来週に延期する」とは言いますが、「来週の予定を明日へ延期する」とは言いません。
一方で、「ずれる」の場合は過去と未来の両方に対して使うことが可能です。似た例文で比較しますと、「明日の会議が来週にずれる」と「来週の会議が明日にずれる」といった形です。
したがって、未来に対しても過去に対しても時間が移動する意味を持つ動詞が「ずれる」ということになります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「ずれる」=①元あったところから、少し動いて移る。あるべき位置から少し動いたり、基準の位置に合わない状態になる。②標準や基準から少しはずれる。また、考え方などに隔たりができて食い違う。
「表記」⇒「ずれる」が正しい表記で、「づれる」は誤った表記。
「類義語」=「動く・移動する・すべる・延期する・食い違う・見失う」など。
「ずれる」と「づれる」の使い分けは、「ずれる」を使えば問題ありません。ただ、「づ」という表記自体が間違いというわけではありません。「かたづけ」「てづくり」などのように「づ」を使う表記も存在するということを覚えておきましょう。