「野暮」という言葉は、普段の会話でもよく使われています。「あの人は野暮ったい」「野暮なことを聞くな」。
ただ、この言葉は複数の意味があるため、イメージがつかみにくいと感じる人も多いです。そこで今回は、「野暮」の意味や語源、類語・反対語などを簡単に解説しました。
野暮の意味を簡単に
まず、「野暮」の意味を調べると次のように書かれています。
【野暮(やぼ)】
①人情の機微に通じないこと。わからず屋で融通のきかないこと。また、その人やさま。無粋 (ぶすい) 。
②言動や趣味などが、洗練されていないこと。無風流なこと。また、その人やさま。無骨。
③遊里の事情に通じないこと。また、その人や、そのさま。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「野暮」の意味は、主に2つあります。
1つ目は、「人の気持ちが理解できない」という意味です。辞書の説明だと、①になります。
「人情の機微(にんじょうのきび)」とは「表面だけでは分かりにくい、人の微妙な気持ちのこと」を指します。
例えば、電車の中で足腰の弱そうなおばあさんが立っていたとしましょう。普通であれば、「席を変わりましょうか?」などと声をかけたくなるものです。
ところが、全く気にせずに堂々と座っている人がいました。そんな時、「あの人は野暮な人だ」などと言うのです。
「野暮」というのは、このように相手の気持ちを理解できない人に対して使います。
そして、2つ目は「洗練されていない」という意味です。
「洗練」とは「洗って練る」と書くように、「余計なものを取り除いて、上品にすること」を表します。
つまり、「洗練されていない」とは「余計なものがくっついている状態」を表すわけです。
具体的には、以下のような意味となります。
- 地味な
- ダサい
- 田舎臭い
- 行儀が良くない
- センスがない
- 無駄がある
- 雑な
- 粗野な
- 融通が利かない
この中でも特に、「田舎臭い・ダサい」という意味で使われることが多いです。例えば、「野暮な格好」という言い方があります。
「野暮な格好」とは、服装や髪形などの見た目が田舎臭くてダサい様子という意味です。
整理すると、
「野暮」=①人の気持ちが理解できない。②洗練されていない。
主にこの2つの意味で使われるということになります。
野暮の語源・由来
「野暮」の語源は諸説ありますが、一般的には次の二つのどちらかだと言われています。
①田畑で働く男を表す「野夫」が転じたという説。
②楽器の部位の也(や)と 亡 (ぼ)が転じたという説。
1つ目は、「野夫(やぶ)」が転じたという説です。
昔は田畑や野原で働く男性のことを「野夫」と呼んでいました。この野夫は都会に出たことがなく、服装も田舎っぽい人ばかりであったため、「人(特に女性)の気持ちが分からない」「洗練されていない」などの意味に派生したという説です。
そしてもう一つは、「楽器の部位から転じたもの」という説です。
日本の古典音楽の一つである雅楽(ががく)では、笙(しょう)という楽器が使われていました。
この笙 は17 本の管で構成されており、それぞれに小さな穴がついていました。その穴を指で押さえて吹くことにより、音が出るようになっていたのです。
ところが、その穴のうち、也 (や)と 亡 (ぼ)という 2 本の管だけはいくら穴を押さえても音が出ませんでした。
この事から、「わけが分からないもの」⇒「人情が分からない様子」を表す意味に転じたという説です。
野暮の使い方
「野暮」という言葉は、様々な場面で使われます。以下に代表的な使い方を挙げました。
【野暮な人・野暮臭い人】
「野暮な人だ」「野暮臭い人だ」などはよく使われる表現です。
この場合は、すでに説明した通り「空気が読めない」という意味で使われることが多いです。
具体例を挙げると、
- いきなり女性に年齢を聞く。
- 男女のカップルに、ちゃちゃを入れる。
- 試験前に電話をして、勉強の邪魔をする。
といった人です。このような人は「野暮な人」と言うことができるでしょう。
他には、「融通がきかない」という意味で使われる場合もあります。言い換えれば、「頭が固い」という意味です。
例えば、
- お金は100円でも貸してはいけないと思っている。
- 仕事中に笑いは絶対に起きてはダメだと思っている。
- 文書のやり取りは必ず手書きにすべきと思っている。
このような人は、頭が固くて融通が利かないので「野暮な人」と言えます。
【野暮なことを聞くな】
よく使われるセリフとして、「野暮なことは聞くな」というのがあります。
これはつまり、「センスがないことを聞くな」「気がきかないことを聞くな」ということです。
例えば、「あのカップルはこの後どこへ行くんでしょうか?」「あの夫婦はなんで子供がいないんでしょうか?」
このような質問は「野暮な質問」だと言えます。なぜなら、答えが決まっていたり答えにくいような質問だからです。
特に二つ目の質問は他人のプライベートを詮索する内容なため、失礼でセンスがない質問と言えます。
「野暮なことは聞くな」というセリフは、基本的に相手がセンスのない質問をしてきた時以外には使いません。
【野暮用で出かける】
「野暮用で出かける」という使い方もよくします。
「野暮用」とは「仕事のための用事」もしくは「どうでもいい用事」という意味です。
すでに説明した通り、「野暮」には「頭が固い」という意味もありました。
そのため、前者の方は遊びや趣味などの用事ではなく、「仕事のようなまじめな用事」という意味で使われています。
一般的には、後者の「どうでもいい用事」という意味で使われることが多いです。
例えば、ちょっとコンビニに出かけるような際に「野望用で出かけてくる」などと言います。
【野暮天】
「野暮」の後ろに「天」がついて、「野暮天(やぼてん)」という使い方をする場合もあります。
「天」というのは「高い」「大きい」などの意味です。つまり、「野暮天」とは「ものすごくやぼなこと」を言うのです。
普通の野暮ではなく、非常に野暮な人を表現する場合に使われます。
野暮の類義語
「野暮」の類義語は、以下の通りです。
「無粋」は主に「無粋な人」「無粋なことを言う」などのような使い方をします。
「野暮」も「無粋」も「人の気持ちが分からない」という共通点がありますが、「無粋」は特に男女間の気持ちが分からない場合に使います。
また、「粗野」は「粗野な発言」「粗野なふるまい」、「無骨」は「無骨な人」「無骨なふるまい」などの使い方をします。
野暮の対義語
一方で、「野暮」の「対義語」は以下のような言葉となります。
【粋(いき)】⇒態度や身なりなどが垢抜けして、色気があること。
【垢抜ける(あかぬける)】⇒田舎臭さが抜けて都会的な雰囲気になること。
【洗練された(せんれんされた)】⇒文章や人格などを練りきたえ、上品なものにすること。
「粋」は、「粋な人」「粋な趣味」などの使い方をします。「無粋」の反対語でもあるので、「男女間の微妙な気持ちが分かる」という意味でも使います。
また、「垢抜ける」とは簡単に言うと「おしゃれになる」という意味です。「野暮」には「地味な・ダサい」などの意味もあるので、「垢抜ける」も「対義語」となるわけです。
「洗練」は文章や人格以外だと、デザインやファッション、雰囲気などに対しても使います。
野暮の英語訳
「野暮」は、英語だと次のような言い方をします。
- 「boorish(粗野な・不作法な・田舎者の)」
- 「uncouth(無骨な・野暮な・気の利かない)」
- 「gauche(不器用な・ぎこちない)」
- 「dowdy(だらしない・みすぼらしい)」
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
He is a boorish man.(彼は野暮な男である。)
You should change uncouth behavior.(あなたは野暮な態度を直すべきだ。)
It’s gauche to ask who her date is.(彼女にデートの相手を聞くなんて野暮だ。)
That was a dowdy room.(野暮臭い部屋だったよ。)
どれも使うことができますが、この中では「boorish」が一番使いやすい表現だと言えるでしょう。「boorish」は、「ダサい・田舎臭い・粗野・不作法」など幅広い意味を含んだ単語です。
野暮を使った例文
最後に、「野暮」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- 楽しく盛り上がってたのに、野暮な友人がいきなり割り込んできた。
- 彼はファッションに興味がないため、いつも野暮な格好をしている。
- そんな野暮なことは言わずに、100円くらい貸してあげたらどうだい?
- いまだにスマホではなく携帯で仕事を行うなんて彼はずいぶんと野暮だね。
- 結婚しない理由をしつこく聞いてきたため、「野暮なことは聞くな」と言った。
- 野暮用のため、午後からは出かけてくるよ。すぐに帰ってくるから。
- 嫌な記憶が残っている彼女にまたその話を振るなんて、彼は野暮天だね。
それぞれの意味を説明すると、1は「空気の読めない」という意味です。また、2は「ダサい・田舎臭い」という意味です。
3と4は「融通が利かない」、5は「センスのない」、6は「どうでもいい用事」という意味です。最後の7は「ものすごく野暮な様子」を表したものです。
状況に応じて意味が変わるため、どのニュアンスで使われているかを判断する必要があります。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「野暮」=人の気持ちが理解できない。洗練されていない。
「使い方」=「野暮な人・野暮くさい人・野暮なことを聞くな・野暮用・野暮天」など。
「類義語」=「無粋・粗野・無骨」「対義語」=「粋・垢抜ける・洗練された」
「英語訳」=「boorish」「uncouth」「gauche」「dowdy」
「野暮」という言葉は複数の意味があります。しかし、一つ一つ用例を覚えていけば正しい使い方が理解できるようになるでしょう。