ビジネスなどで会議をする際に「うちあわせ」という言葉がよく使われます。ただ、この場合、送り仮名の付け方が問題になってきます。
つまり、「打ち合わせ」と書くのかそれとも「打合せ」と書くのかということです。また、場合によっては「打合わせ」もしくは「打ち合せ」などと書かれる場合もあります。
本記事では、これらの「うちあわせ」の違いや公用文での使い分けについて詳しく解説しました。
一般的には「打ち合わせ」と書く
まず、「うちあわせ」という語を辞書で引いてみます。
うち‐あわせ〔‐あはせ〕【打(ち)合(わ)せ】
①前もって相談すること。下相談。
②衣服の、前身頃 (まえみごろ)の重なったりする部分。うちあい。
③雅楽で、打ち物だけの合奏。
④地歌や箏曲 (そうきょく)で、同一または類似した旋律を半拍または1拍ずつずらして合奏すること。また、同じ拍数の、別の2曲を合奏すること。
⑤能で、両手を大きく左右に広げてから前ではたと打ち合わせる型。
⑥物と物とがうまく合うようにすること。似合うこと。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「うちあわせ」は、辞書だと「打(ち)合(わ)せ」と書かれています。
よって、辞書の表記に従うならば「打合せ」「打ち合せ」「打合わせ」「打ち合わせ」の4つの書き方が可能ということになります。
つまり、どの表記を使っても構わないということです。
ただ、一般に使う際には「打ち合わせ」と書くことの方が多いです。これはなぜかと言いますと、漢字というのは送り仮名をすべて振った方が読み手としては読みやすいためです。
「打合せ」と書くよりも「打ち合わせ」と書いた方が読みやすいですし、読み間違える恐れも少ないです。そのため、通常であれば「打ち合わせ」と書かれることが多いのです。
公用文での正しい表記はどれか?
公用文に関しては、文化庁による『送り仮名の付け方』通則6にそのルールが書かれています。
【本則】
複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。
〔例〕 (1)活用のある語
書き抜く 流れ込む 申し込む 打ち合わせる 向かい合わせる 長引く 若返る 裏切る 旅立つ 聞き苦しい 薄暗い 草深い 心細い 待ち遠しい 軽々しい 若々しい 女々しい 気軽だ 望み薄だ
「複合の語」とは、「書く」と「抜く」が合わさった「書き抜く」や、「流れる」と「込む」が合わさった「流れ込む」などの語です。
上記の「打ち合せる」も「打つ」と「合う」が合わさった複合の語となります。
このような複合の語に関しては、「それぞれの音訓を用いて単独の語の送り仮名を付ける」と書かれています。つまり、「打つ」と「合う」のようにそれぞれ送り仮名をしっかりと付けるということです。
今回の「うちあわせ」は活用のない語(名詞)ですが、語源をたどれば動詞「うちわせる」の連用形から成る転成名詞です。
そのため、【(1)活用のある語】の語例に従い、「打ち合わせ」と表記するのが本則です。
よって、公用文に関しては「打ち合わせ」と表記するのが原則となります。
その他、公用文以外の公文書やビジネス文書、法令文、新聞、雑誌などに関しても「打ち合わせ」と表記するのが基本ルールとなります。
「打ち合せ」「打合せ」も許容内
ただし、この通則6には続きがあり、次のようにも書かれています。
【許容】
読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。
〔例〕
書き抜く(書抜く) 申し込む(申込む) 打ち合わせる(打ち合せる・打合せる) 向かい合わせる(向い合せる) 聞き苦しい(聞苦しい) 待ち遠しい(待遠しい) 田植え(田植) 封切り(封切) 落書き(落書) 雨上がり(雨上り) 日当たり(日当り) 夜明かし(夜明し) ~(以下略)~
つまり、「打ち合せる」が本則ではあるものの、読み間違える恐れがない場合は「打ち合せる」もしくは「打合せる」と表記するのを許容しているということです。
「許容」とは、簡単に言うと「許している」という意味です。
よって、このルールも考慮するならば、「打ち合せ」もしくは「打合せ」も公用文では許可されていることになります。
さらに、仙台市教育局教育人事部教育センターが出している『新訂 公用文の書き表し方の基準(資料集)』には、次のような記載も確認されています。
以下の表記例は,仙台市教育センターが研修等で論文,指導案等を書く際の表記の目安として作成しています。
打合せ,打ち合わせ
上記の資料は、文化庁や文部科学省が公表している資料に準拠しているため、社会的な信用度が高いものです。
見て分かるように、本則の「打ち合わせ」とともに「打合せ」も記載されています。この事からも、公用文においては「打ち合わせ」以外の表記が認められていることが分かります。
ただ、許容されているという記述の中には「打合わせ」という表記は見当たりません。そのため、「打ち合わせ」以外に書く選択肢としては、「打ち合せ」もしくは「打合せ」の二択ということになります。
「打ち合わせ会」か「打合せ会」か
「うちあわせ」という語は、後ろに「会」が付き、「うちあわせ会」として使われることがよくあります。
「うちあわせ会」に関しては、内閣訓令第一号(2010年11月30日告示)の『常用漢字表(別紙)』にてその詳細が書かれています。
2 送り仮名の付け方について
(1)公用文における送り仮名の付け方は,原則として,「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)の本文の通則1から通則6までの「本則」・「例外」,通則7及び「付表の語」(1のなお書きを除く。)によるものとする。ただし,複合の語(「送り仮名の付け方」の本文の通則7を適用する語を除く。)のうち,活用のない語であって読み間違えるおそれのない語については,「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用して送り仮名を省くものとする。なお,これに該当する語は,次のとおりとする。
明渡し 預り金 言渡し 入替え 植付け 魚釣用具 受入れ 受皿 受持ち 受渡し 渦巻 打合せ 打合せ会 打切り 内払 移替え 埋立て 売上げ 売惜しみ ~(以下略)~
要約しますと、後ろに「会」が付く場合であっても通則6の本則と許容を適用するということです。
通則6は、原則的に「打ち合わせ」と表記し、「打ち合せ」もしくは「打合せ」と書いてもよいという内容でした。
したがって、「打ち合わせ会」を原則とし、「打ち合せ会」もしくは「打合せ会」と表記してもよいというのが結論になります。
なお、これら以外の表記の仕方、例えば「打合わせ会」などは許容されていません。許容されていないのは、公用文で「打合わせ」と表記しないのと同じ理由からです。
その他、法令用語(昭和48年10月3日 内閣法制局総発第105号)では「打合せ会」を採用しています。
また、一部特殊なケースですが、看板などでは「○○調査打合会」などの表記が見受けられます。
これに関しては上から漢字が続いているので、ひらがなの「せ」一文字だけを入れることに心理的な抵抗を感じるという事情もあるかと考えれられます。
一般的な文章を書く際には「打合」もしくは「打合会」と表記するケースはまずありません。
また、すべてを平仮名にする「うちあわせ」や片方だけを漢字にする「打ちあわせ」「うち合わせ」なども基本的にはしない表記だと考えて問題ありません。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
【一般に使う際】⇒「打合せ」「打ち合せ」「打合わせ」「打ち合わせ」どれも可。ただ、読みやすさなどの理由から「打ち合わせ」と書かれることが多い。
【公用文で使う際】⇒「打ち合わせ」と表記するのが原則。(「打ち合せ」や「打合せ」も許容はされている)
【後ろに会が付く際】⇒「打ち合わせ会」と表記する。「打ち合せ会」「打合せ会」も許容内。一部例外として「打合会」と書くこともある。
【原則用いない表記】⇒「打合」」「うちあわせ」「打ちあわせ」「うち合わせ」など。
私たちが一般に使う際にはどれを使っても構わないです。ただ、すべてを平仮名にしたり漢字と平仮名を混ぜたりするような表記は基本的にはしません。
また、公用文に関しては原則的に「打ち合わせ」と表記します。その他の表記も許容されている書き方ではありますが、通常は「打ち合わせ」と表記します。ビジネス文書や新聞、雑誌などの放送で使う際にもこのルールに準拠し、「打ち合わせ」と表記するのが原則となります。