「取り付く島もない」という慣用句をご存知ですか?
島と聞くと、何となく無人島や離島などをイメージする人も多いと思われます。ところが、この言葉を誤解している人が非常に多いようです。
そこで今回は、「取り付くもない」の意味や語源、使い方・英語訳などを含め詳しく解説しました。
取り付く島もないの意味・読み方
まず、この言葉の意味を調べると次のように書かれています。
【取り付く島もない(とりつくしまもない)】
①相手がつっけんどんで話を進めるきっかけがみつからない。
②頼れる所もなくどうしようもない。
出典:三省堂 大辞林
「取り付く島もない」には、二つ意味があります。
一つ目は「相手がつっけんどんで、話を進めるきっかけをつかめない」という意味です。「つっけんどん」とは愛想のない言動や不機嫌な態度のことを表します。
例えば、何か頼みごとをしたものの、話すら聞いてもらえず、無愛想に断るような人がいたとします。このような場面では、「取り付く島もないほど断られた」などのように用いられることがあります。
そして二つ目は、「頼れる所がなく、どうしようもない」という意味です。この場合は文字通り、「どうしようもない事態になった」ということです。
例えば、自分の住んでいる家が全焼し、住む場所も寝る場所もなくなってしまったとします。こういった場面では、「取り付く島もないことになった」などのように言うことができます。
以上、二つの意味を紹介しましたが、一般的には前者(①)の意味として使われることの方が多いです。
取り付く島もないの語源・由来
「取り付く島もない」は「海に出た後、頼りとする島が見つけられないこと」からできた言葉です。「島」とは周囲を海で囲まれた陸地のことを表します。
では、なぜこの島が頼りになるのでしょうか?それは、航海の際に島へ上陸することは、船人にとっての生命線だったからです。
例えば、急な嵐に襲われた場合、船の上にいるよりも島にいた方が安全です。また、水や食料が切れてしまった場合も補給のために島へ上陸した方がいいでしょう。
つまり、船人がピンチになった時、最も頼りになる場所が「島」だったのです。
その島に「取り付く(すがりつく)ことができない」のは、船人にとって絶望的な状況を意味します。ここから、「どうしようもない様子」を表す慣用句が生まれたというわけです。
現在ではさらに転じて、「どうしようもない様子」⇒「相手がひどく冷淡で話をすすめるきっかけがつかめない」という意味で使われることが多いです。
取り付く暇もないは誤用?
「取り付く島もない」と非常によく似た言い回しで、「取り付く暇もない」が使われることがあります。結論から言いますと、このような言葉は存在しません。
文化庁が発表した「調査」によると、正しい方の「取り付く島がない」を選んだ人が47.8%、誤りの方の「取り付く暇 (ひま)がない」を選んだ人が41.6%という結果も出ています。
誤用されている原因ですが、単に聞き間違えが広まったからだと思われます。
そもそも、「暇(ひま)」というのはすがりつくものではないはずなので、文法的にもおかしな表現だと言えます。
「取り付く」には「始める」という意味もありますが、例えそのような意味だとしても「始める暇もない」⇒「忙しい」という意味にならないとおかしいはずです。
いずれにせよ、このような慣用句は存在しませんので間違えないようにしましょう。
取り付く島もないの類義語
続いて、「取り付く島もない」の類義語を紹介します。
上記のように多くの類義語がありますが、いずれも共通しているのは「無愛想さ・冷淡さ」を表す言葉ということです。相手とまともに取り合わない様子であれば、基本的に類義語となります。
逆に、対義語としては「如才(じょさい)ない」が挙げられます。「如才ない」とは「愛想がよい・手抜かりがない」などの意味を持つ慣用句です。
取り付く島もないの英語訳
「取り付く島もない」は、英語だと次の二つの言い方があります。
①「have no one to turn to」
②「be left utterly helpless」
①の「turn to~」は「~に頼る」という意味の熟語です。ここから、「何も頼るものを持っていない」という訳になります。
②の「be left」は「放置される」、「utterly」は「全く・全然」、「helpless」は「助けのない」という意味です。合わせると、「全く助けのない状態に放置される」という訳になります。
例文だと、以下のような言い方です。
Now,I have no one to turn to for help.(私は現在、取り付く島もない状況だ。)
She was left utterly helpless.(彼女は取り付く島もない様子だった。)
取り付く島もないの使い方・例文
最後に、「取り付く島もない」の使い方を例文で確認しておきましょう。
- 彼はこちらの話を一切聞く気はなく、まさに取り付く島もないといった感じだった。
- 交渉を始めてからわずか数分、取り付く島もない口調であっさりと断られたようです。
- 思い切って社長に給与交渉を頼んでみたが、取り付く島もない対応をされてしまった。
- いざ仲直りをしようと思ったが、冷淡な対応をされた。取りつく島もないとはこのことだ。
- 昨日は久々に役所へ行ってきたのですが、受付の対応は取り付く島もないほど事務的でした。
- 先日、今の仕事についての改善案を上司に出したが、取り付く島もないほどすぐに却下された。
- 会社を辞めて収入がなくなり、今は住む家もない。まさか取り付く島もない状態になるとはね。
「取り付く島もない」は、主に相手との交渉事や相談事などで使われる慣用句です。
相手に物事を頼んだり相談したりするようなことは、日常生活でもビジネスでもよく行われています。しかしながら、冷たい対応をされて話を進められなかったというケースは多いです。
そんな時に、「話をすすめるきっかけがつかめなかった」という意味で、「取り付く島もない」を使うわけです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「取り付く島もない」=①相手がつっけんどんで、話を進めるきっかけがつかめない。②頼れる所がなく、どうしようもない。
「語源・由来」=船人にとって航海中に島へすがることができないのは、絶望を意味することから。
「類義語」=「にべもない・けんもほろろ・目もくれない・歯牙にもかけない・木で鼻をくくる」
「英語訳」=「have no one to turn to」「be left utterly helpless」
「取り付く島もない」は、様々な場面で用いることのできる慣用句です。ただ、よく使われる「取り付く暇もない」は誤用なので注意して下さい。