『トリアージ社会』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『トリアージ社会』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『トリアージ社会』のあらすじ
本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①大惨事の現場で行われるトリアージという考え方は、社会的にも存在する。人口という社会全体の「生命の数」の問題として、それぞれの命が選別され、放置されてもやむを得ないとされるひとたちがいる。明確な問題状況においては、ひとは理性的に判断することで悲劇的な答えを出せることもあるだろう。
②現実の状況はそれほど明確ではなく、選択すべきときに正しく選択できるとも限らないのに、ひとは選択が可能で、選択しなければならないかのように錯覚している。そして、その選択の判断材料には、取りやすい統計が主題とされ、多様な社会的な問題においても取りやすい統計が影響する。統計が取りやすいか否かが、命の選別をも意味する選択に関わってくるのだ。しかし、数値になり得ない異例のものや、数値を度外視できる特別な瞬間のなかにこそ、生にとってもっと重要なものが残されている。
③取りやすい統計により、多くの人の健康に害があるとされるものは禁止される社会になってきた。健康がたてにとられ、基準とされ、生活のありとあらゆる振舞いや習慣が、それぞれの側で自主規制させられる。それを相互に監視しあい、干渉しあって、現在の社会体制が維持されている。こうした体制を前提としていく中で、人間を数として扱い、社会の部品のように扱うやり方や考え方が受け入れられていく、そして、ひとは統計が示すままにトリアージの色づけがなされ、以前のような自由が失われていく。よって生命政治は「よさ(善)」ではなく「健康」において行われているといえ、そのために中絶や人工授精、安楽死、脳死などが無際限に肯定されていく。なぜそうするのかと問われても、その解答を、人間の理性や人権や、自由や幸福の概念に求めることはもはやできない。ひとは自分の自由と自己保存を守ろうとする存在者だと考えられてきたが、自由や生命が損なわれる可能性のある状況なのに多くの人が拮抗しないのは、巧妙な統治技法のせいなのか、それとも人間が自己保存をしようとする自由な存在ではなかったということなのか。
『トリアージ社会』の要約&本文解説
本文では、「トリアージ」という医療現場における考え方を社会全体に当てはめることで、現代社会の人命の扱われ方について論じられています。
まず「トリアージ」とは、災害や事故の現場で、治療を必要とする患者を優先順位に基づいて分類する考え方のことです。筆者は、この考え方が社会全体にも広がっていると主張しています。つまり、社会が「救う命」と「救われない命」を選別するようになっているということです。
この「選別」が行われるとき、重要な判断材料とされるのが「統計」です。たとえば「何人が助かるか」「何%の人が健康に害を受けるか」といったデータが基準になります。
統計は便利ですが、すべてを数値で語れるわけではありません。筆者は、数値にならない価値、たとえば少数派の生き方や、特別な瞬間の尊さが軽視されていることを問題視しています。
現代社会では、健康が最も重要視され、それを守るために人々は自主的に行動を制限し、互いに監視し合うようになっています。その結果、社会は「自由」や「人間らしさ」よりも、「健康」や「効率性」を優先するようになり、中絶や安楽死といった命に関わる問題も簡単に受け入れられていくようになっています。
つまり筆者は、「トリアージ社会」とは、命を数として処理し、健康や統計に従って人間の価値を決める社会であると批判しているのです。そして、そんな社会の中で人々が自由や命の尊厳に対して無関心になっていくことに警鐘を鳴らしているのです。
『トリアージ社会』の意味調べノート
【臨床(りんしょう)】⇒ 実際の患者に対して行う医学的な診察・治療。
【墜落(ついらく)】⇒ 高い場所から落ちること。
【異議(いぎ)】⇒ 反対の意見。異なる意見。
【蔓延(まんえん)】⇒ 病気や悪影響が広がること。
【理性的(りせいてき)】⇒ 感情に流されず、論理を重視するさま。
【冗長(じょうちょう)】⇒ 不必要に長いこと。
【錯覚(さっかく)】⇒ 実際とは異なる認識をすること。
【凡庸(ぼんよう)】⇒ 特に優れたところもなく、平凡であること。
【疫学(えきがく)】⇒ 病気の発生や予防などに関する学問。
【隔離(かくり)】⇒ 病気や感染を広げないように、特定の人や物を他と隔てること。
【度外視(どがいし)】⇒ 考慮しないこと。無視すること。
【うらはら(うらはら)】⇒ 反対。あべこべ。
【毀損(きそん)】⇒ 壊すこと。
【たてにとる(たてにとる)】⇒ ある物事を、言い訳や言いがかりなどの材料とする。
【干渉(かんしょう)】⇒ 他人の行動や事柄に過度に関わること。
【唯々諾々(いいだくだく)】⇒ 自分の意思を持たずに、何でも従うこと。
『トリアージ社会』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①判定にイギを申し立てる。
②病気のセンククを受ける。
③サッカクを起こしやすい。
④彼にはカンショウしない方がいい。
⑤テイコウする力が強くなる。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)現代社会では、個々の自由が最優先されており、統計に基づく価値判断は、自由や幸福を広げる手段として機能している。
(イ)統計や健康を基準にした管理社会では、数値で命が選別されるようになり、人々は自由を失っているにもかかわらず、それに抵抗しない状態に置かれている。
(ウ)社会のあり方は理性によって決定されるべきであり、たとえ命が選別されることになっても、人間は理性的判断に従うことで幸福を実現できる。
(エ)トリアージのような命の選別は災害時に限られ、通常の社会においては個々の命は平等に扱われ、数値的な基準で選別されることはない。
まとめ
今回は、『トリアージ社会』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。