
『小説とは何か』は、三島由紀夫によって書かれた文章です。教科書・文学国語にも取り上げられています。
ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『小説とは何か』のあらすじや要約、語句の意味などを解説しました。
『小説とは何か』のあらすじ
本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①かつて感銘を受けた本を再読して、むかしは気付かなかった「小説」をそこに発見することがある。端的な実例として、柳田國男の「遠野物語」の一節を挙げることができる。「曽祖母が亡くなった夜、一同が喪に服していると、裏口から老女が来る。着物から亡くなった曽祖母だとわかる。あっという間もなく、炉の脇を通って座敷の方へ行くが、そのとき着物の裾を炭取りに引っかけ、炭取りはくるくるとまわる」。私は、「裾にて炭取りにさわりしに、丸き炭取りなればくるくるとまわりたり。」という一節に着目する。これは日常性と怪異との接点であり、この一行のおかげで、わずか一ページの物語がみごとな「小説」になっており、人の心に永久に忘れがたい印象を残すのだ。
②曽祖母の死の事実を知る人々は、裏口から入ってきたのは幽霊だと思う。なぜなら、矛盾する二つの現実が存在することはありえないからである。目前に見ているものが幽霊だという認識に戦慄しながらも、自己防衛機能によって、超現実が現実を犯すはずはないと思う。しかし、炭取りの回転によって、現実と超現実は逆転し、幽霊が現実になる。現実と超現実の併存状態から一歩進むには、炭取りが回らなければならないが、その効果が「言葉」によってなされるのは驚くべきことである。「遠野物語」においては、「言葉」以外のいかなる資料も使われていないのだ。
③小説はもともと「まことらしさ」の要請に発するジャンルだが、言葉を現実化させる根源的な力が備わっていなければならない。それには長い叙述は必要ではなく、一行に圧縮されていれば十分である。上田秋成の「白峰」の崇徳上皇出現の際の、「円位、円位と呼ぶ声す。」の一行もまた、この条件に該当する作品である。
『小説とは何か』の要約&本文解説
「小説とは何か」で筆者が伝えたいのは、「小説とは、言葉の力によって現実と非現実の境をゆるがせるものだ」という主張です。
筆者は、柳田國男の『遠野物語』の一節を例に挙げ、「炭取りがくるくる回る」というたった一行の描写が、日常の中にある“怪異”を真に感じさせる力を持っていると述べます。
つまり、「幽霊が出た」という説明ではなく、「炭取りが回った」という具体的な動きの描写が、読者に“本当に起きたかもしれない”という感覚を生むのです。 筆者はここに「小説らしさ」の本質があると考えています。
現実にあり得ない出来事でも、言葉によって“まことらしく”感じさせる。その力こそが小説を小説たらしめるのです。この「まことらしさ」とは、単なる事実の再現ではなく、言葉の表現によって心に“現実のように迫ってくる感覚”を生み出すことを意味します。
たとえば、怖い話を誰かが語るとき、「幽霊が出た」と言うよりも、「誰もいないのに足音が近づいてきた」と言われたほうがリアルに感じるでしょう。これと同じように、小説では“描写”の力が現実を生み出すのです。
筆者は、上田秋成の『白峰』にある「円位、円位と呼ぶ声す」という一行にも同じ効果を見出しています。この「円位、円位と呼ぶ声す」という一行も、ただ「幽霊が現れた」と説明するのではなく、“どこからともなく声が響く”という状況を短い言葉で鮮やかに描いています。
読者はその声を実際に耳にしたかのような臨場感を覚え、現実と超現実の境があいまいになるのです。このように、言葉一つで現実を生み出す力こそが、小説の本質だと筆者は考えているのです。
『小説とは何か』の意味調べノート
【抽象的(ちゅうしょうてき)】⇒物事を具体的でなく、一般的・概念的にとらえるさま。
【初版(しょはん)】⇒その本が初めて出版されたときの版。
【民俗採訪(みんぞくさいほう)】⇒ある地方の民話を現地で訪ね歩く作業。
【わけても】⇒特に。とりわけ。
【まざまざと】⇒ありありと。はっきり目に見えるように。
【怪異譚(かいいたん)】⇒不思議で恐ろしい出来事を語った物語。「譚」は「物語」という意味。
【接点(せってん)】⇒二つのものが触れ合う点。また、異なるものが関わり合うところ。
【分析(ぶんせき)】⇒物事を細かく分けて、その構造や仕組みを明らかにすること。
【詮ない(せんない)】⇒どうしようもない。やってもむだである。
【相容れない(あいいれない)】⇒互いの性質や考えが一致せず、調和しない。
【併存(へいぞん)】⇒二つ以上のものが同時に存在すること。
【戦慄(せんりつ)】⇒恐ろしくて身が震えること。
【自己防衛(じこぼうえい)】⇒自分を危険や攻撃から守ること。
【幻覚(げんかく)】⇒実際にはないものをあるように感じること。
【侮辱(ぶじょく)】⇒相手をばかにして、恥をかかせること。
【震撼(しんかん)】⇒強い衝撃で心や体が揺れ動くこと。
【根絶(こんぜつ)】⇒完全になくしてしまうこと。
【無機物(むきぶつ)】⇒水、空気、土など生物に由来しない物質。鉱物や金属など。
【浸透(しんとう)】⇒液体や考えなどが中にしみ込むように広がること。
【意味あらしめ】⇒意味をもたせる。意味を成立させる。
『小説とは何か』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①センリュウを読む。
②ダンロの火が部屋を照らす。
③努力をケイゾクすることが大事だ。
④スイミン不足で集中力が落ちる。
⑤ショセン言い訳にしか聞こえない。
次のうち、本文の内容を最も適切に表したものを選びなさい。
(ア)小説の目的は、現実に起きた出来事を忠実に再現し、読者に事実を正しく伝えることにある。
(イ)言葉には現実をゆるがす力はなく、現実と非現実は常にはっきり区別されている。
(ウ)小説における「まことらしさ」は、長い叙述の中で多くの言葉を重ねることによって生まれる。
(エ)「幽霊が出た」といった説明的な表現よりも、「炭取りがくるくる回る」という描写によって、非現実が現実として感じられるようになる。
まとめ
今回は、『小説とは何か』(三島由紀夫)について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。