「相違」と「相異」は、どちらも「そうい」と読むことのできる漢字です。
この2つは異なる意味を持っていて使い分けを要する語なのでしょうか?それとも同様に扱ってよい言葉なのでしょうか?
今回は「相違」と「相異」の意味の違い、使い分けなどを詳しく解説しました。
相違と相異の違い
まず、「相違」と「相異」に共通する「相」には「互いに」という意味があります。すなわち、「二つの物事が関係し合っている状態」ということです。
そして、「違」は「(くい)ちがい、不一致」、「異」は「ことなり、別の」などの意味があります。
ところが、「ちがい」と「ことなり」の意味の差は、必ずしも明確に存在するというわけではありません。
多くの漢和辞典の示す字義によると、「違」には「ことなり、ことにする」などが掲げられており、「異」には「ちがい、くいちがい」などが掲げられています。
したがって、「相違」と「相異」の意味は、どちらも「互いにちがうこと」「互いにことなること」となり、両者の間に明確な意味の違いはないということになるのです。
では、「相違」と「相異」はいわゆる「同語異表記」と呼ばれる関係にあり、単なる表記のゆれとみてよいのでしょうか?
実は「そうい」の漢字の表記については、国語辞典や漢和辞典によって一定の傾向があります。
そのため、過去の辞典において両者の比較をしていきたいと思います。
国語辞典での両者の比較
まず、「そうい」の漢字の書き表し方に関して、明治21年の『漢英対照いろは辞典』から平成5年までに発行された各種国語辞典をみると、以下のような結果が出ています。
「相違」と「相異」を別項で採録しているもの・・・5種
「相違」だけを採録しているもの・・・・・・・・・81種
(うち、「相異とも」などとしているもの・・・9種)
【国語辞典 86種より】
「そうい」の漢字表記を「相違」としているものは、86種の国語辞典のすべてです。
しかし、「相異」だけのものは1種もなく、また一つの見出しの下に「相違・相異」のように両者を併記しているものも1種もありません。
その他、説明を補足しておきますと、「相異」のことを「適当でない表記」と注しているものが1種あります。
また、「相違」と「相異」を別の見出し語として採録した辞典で最も早いのは昭和44年に第二版として発行した小型辞典という経緯があります。
漢和辞典での両者の比較
次に、「漢和辞典」についてもみていきます。
明治36年から平成5年までに発行された22種の漢和辞典の内訳は次の通りです。
「相違」も「相異」も共に不採録のもの・・・・・・4種
「相違」と「相異」を別項で採録しているもの・・・3種
「相違」だけのもの・・・・・・・・・・・・・・・15種
「相異」だけのもの・・・・・・・・・・・・・・・0種
【漢和辞典 22種類より】
「漢和辞典」の場合も「国語辞典」と同様に、「相違」だけのものを採録しているものが多いです。
全22種のうち15種が「相違」とその比率はかなり高いです。「相異」だけを採録しているものは1つもありません。
また、「相違」と「相異」を別項で採録している3種のうち、2種は同じ辞典の旧版と新版です。
残りの1種は「相違」の語釈の後に、「相異」の語形を掲げているものです。
新聞・報道界での使い分け
新聞やテレビなどの報道界では、「相違」を採用して使うことが多いです。
報道業界では、『大阪毎日新聞スタイルブック(昭和8)』、『暫定週報用事例(昭和17)』に「相違(相異は用いない。)」などと書かれています。
また、戦後においては日本新聞協会の『新聞用語集』で昭和31年から現在におけるまで「相違」を採用しています。
これに準拠し、時事通信社、共同通信社などの各新聞社の用語集でも同じように「相違」を採用しているという事実があります。
一般的に使う際にも、「~にそういない」などと言う場合は「相違ない」と表記します。「相異ない」と表記することはありません。
かつて、半紙に毛筆書きが建前であった時代の履歴書の末尾には、「右之通相違無之候也(右の通り相異ありません)」と書くことが書式となっていましたが、これも同じ使い分けだと言えます。
その他、「相違」の方は「この報道は事実に相違している。」のように、後ろに「スル」を続けさせて動詞としても用いるという特徴があります。
しかし、「相異」の方はこのように動詞として用いるということはありません。
以上の事から考えますと、報道業界及び一般的な場面において、「そうい」という言葉は「相違」と書くことを推奨するという結論になります。
もちろん、「相異」の方も決して誤りではないので、排除や否定をするということはできません。
しかし、国語辞典や漢和辞典、報道業界のルールなど様々な観点から考えると、「相異」と書く積極的な理由は見当たらないため、いずれにしろ「相違」と書くのが無難ということになります。
相違と相異の使い方・例文
最後に、「そうい」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
【相違の使い方】
- この絵画は私が作ったものに相違ない。
- 私の意見と彼の意見は、相違ありません。
- 哺乳類と鳥類の相違点は、卵を産むかどうかである。
- 案に相違して、両者は結局合意することとなった。
- 事実と相違があるので、今すぐ確認するようにしてください。
- 「あなたの持ち物ですね?」「はい、相違ありません。」
【相異の使い方】
- 似たような見た目なので、相異を見分ける自信がない。
- 昔の自分と今の自分では大きな相異があると考えている。
- 多少の相異はあるが、特に違いを気にする必要はないだろう。
- 両者の意見は正反対で、かつ多くの相異があると言える。
補足すると、「相違ない」とは「食い違っている部分がない」すなわち「同一である」という意味の表現です。主に「~に相違ない」といった言い方をします。
「相違ない」は、ある物事の様子が間違いない事実であることを伝えるような時に使います。敬語だと「相違ありません」とも言い、一般的な場面及びビジネスなどでもよく使われる表現です。
その他、慣用句的な表現だと、「案に相違する」という言い方もあります。(例文4)
「案に相違する」とは「予想に反する」「意外にも」といった意味です。「案」はここでは「予想」や「見立て」といった意味で使われています。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「相違」=「互いにちがうこと」「相異」=「互いにことなること」
「違い」=意味自体は同じで違いはほぼない。
「使い分け」=原則として「相違」を使う。辞典及び報道機関では「相違」が採用されている。
「そういない」など後ろに動詞を付ける時は「相異」は使わない。
「相異」の方を使っても決して誤りというわけではありません。ただ、「相異」は後ろに動詞をつけられないため、実際には「相違」の方が使いやすいという現状があります。そのため、迷った場合は「相違」の方を使うようにしましょう。