『自然をめぐる合意の設計』は、高校教科書・現代の国語で学ぶ評論文です。ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、『自然をめぐる合意の設計』のあらすじや要約、語句の意味などを含め簡単に解説しました。
『自然をめぐる合意の設計』のあらすじ
本文は、内容により3つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①自然を遠くから眺めた場合と、自然の中に身を置いた場合では、イメージが大きく変わる。自然保護も、その人の「立ち位置」によってさまざまな手法と解をもちうる。ここでは、外部から眺めた自然や自然保護についての言説を「遠景の語り」、自然の中でローカルに暮らす人々の言説を「近景の語り」と呼ぶことにする。
②北海道では、里に下りてきたヒグマが銃で撃たれた場合、自然保護の目線から市町村へ抗議の電話がかかってくることがある。だが、自然の中で暮らす地元の人々には、自分たちこそが、自然を絵のように見せているための独自の取り組みや施策を実施してきたという自信がある。こうした地元の営為や思いを抜きにしては、近景の語りの正当性を変化させることはない。そこには合意は生まれえない。
③近景の語り・遠景の語りが持つ多面性や多様性はいかにして担保されるのだろうか。鍵になるのが、自然をめぐるゆるやかで曖昧な合意の形成である。ゆるやかで曖昧な合意とは、自然をめぐり、明示的または暗黙裡に許容されたり禁止されたりする行為の幅を含めて自然保護を考えることである。日常を深く観察し、既にある隠れた合意の形態を見えるようにすることこそが、優れた合意形成の設計となるのだ。
『自然をめぐる合意の設計』の要約&本文解説
本文を理解する上で、「遠景の語り」と「近景の語り」の対立構造を把握することがポイントとなります。
「遠景の語り」とは、自然から遠く離れた都会で暮らす人々が、外から眺めた自然や自然保護について語る言説です。一方で、「近景の語り」とは、実際に自然の中で暮らす人々が、その自然に密着しながら語る自然についての言説です。
どちらも自然を保護しようとする点は共通しています。ただ、「遠景の語り」は自然を美化・理想化する観点から自然を保護しようとするのに対し、「近景の語り」は自然保護に配慮しつつも、現実の生活が脅かされない範囲で自然と共存しようとするところに違いがあります。
筆者は、「遠景の語り」によって自然保護の観点のみから批判するだけでは、「近景の語り」の正当性を変化させることはできないのだと述べています。
ではどうやって自然保護を実践すればいいのか?ということですが、その事については第三段落で語られています。
筆者は、自然保護のための制度を厳格にしてしまうと、個別の具体的な現場から離れ、制度が唯一解(ただ一つの答え)として自然保護だけを押し付けてしまうことになると述べています。これでは、多面性や多様性は担保されないことになります。
そうではなく、自然をめぐるゆるやかで曖昧な合意の形成が必要だと述べています。「ゆるやかで曖昧な合意」とは、自然に対して明示的もしくは暗黙の内に存在している多様な行為の幅を含めて自然保護を考えることです。
最終的に筆者は、既に存在している隠れた合意の形態を可視化する方向にこそ、多面性や多様性が担保されることになる、と結論付けています。
全体を通した構成としては、第一段落で「人の立ち位置によって変わる自然のイメージ」について、第二段落で「遠景の語りと近景の語りの対立構造」について、第三段落で「優れた合意形成のために必要なこと」が述べられています。
『自然をめぐる合意の設計』の意味調べノート
【輪郭(りんかく)】⇒物の外形を形づくっている線。
【~やいなや】⇒~とすぐに。
【覆され(くつがえされ)】⇒ひっくり返され。
【繊細(せんさい)】⇒こまやかで美しいさま。
【容赦なく(ようしゃなく)】⇒手加減なく。
【相貌(そうぼう)】⇒ありさま。様相。
【当該(とうがい)】⇒それに関係する。そのことに当たる。
【言説(げんせつ)】⇒言葉で述べられた考え。言葉で表現する説。
【根を下ろす(ねをおろす)】⇒しっかりと位置を占める。定着する。
【里(さと)】⇒人家が集まって小集落をなしている所。
【危惧(きぐ)】⇒悪い結果になることを心配し、おそれること。
【憤り(いきどおり)】⇒ひどく腹を立てること。怒り。
【困惑(こんわく)】⇒どうしてよいか判断がつかず、迷うこと。
【遡る(さかのぼる)】⇒流れに逆らって上流に進む。
【痛烈(つうれつ)】⇒手厳しいこと。
【営み(いとなみ)】⇒あることを行うこと。
【確たる(かくたる)】⇒確かで間違いのないさま。
【湧水(ゆうすい)】⇒地中からわいて出てくる水。わき水。
【保全(ほぜん)】⇒保護して安全にすること。
【植樹(しょくじゅ)】⇒樹木を植えること。
【先駆的(せんくてき)】⇒他に先がけて物事をするさま。
【推進(すいしん)】⇒物事がはかどるように、積極的に行うこと。
【営為(えいい)】⇒人間が日々いとなむ生活。いとなみ。
【問題提起(もんだいていき)】⇒解決すべき問題を投げかけること。
【重層的(じゅうそうてき)】⇒いくつもの層に重なっているさま。
【担保(たんぽ)】⇒保証すること。
【曖昧(あいまい)】⇒あやふやなこと。はっきりしないこと。
【捨象(しゃしょう)】⇒概念からある要素を抽象するとき、他の要素を切り捨てること。
【拘束(こうそく)】⇒行動の自由を制限すること。
【唯一解(ゆいいつかい)】⇒ただ一つの解答。
【明示的(めいじてき)】⇒はっきりと示すさま。
【暗黙裡(あんもくり)】⇒口に出して言わないまま。暗黙のうちに。
【許容(きょよう)】⇒大目にみること。許すこと。
【合目的的(ごうもくてきてき)】⇒ある物事が一定の目的にかなっているさま。
『自然をめぐる合意の設計』のテスト問題対策
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①常識がクツガエされる。
②ジュウを所持する。
③息子の将来をキグする。
④相手の言動にイキドオりを覚える。
⑤ツウレツな批判が行われた。
⑥ユウスイが豊富に存在する地域。
⑦土地をタンポに入れる。
⑧身柄をコウソクされる。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)自然は見る人の立ち位置によってさまざまな相貌をもち、自然保護もその人の「立ち位置」によってさまざまな手法と解をもちうる。
(イ)自然や自然保護に関する遠景の語りは、近景の語りが示すローカルな文脈とは関係なしに、自然がもつシンボル的要素に反応することができる。
(ウ)自然や環境はコモンズとしての性格を持ち、特定の人や場所において近景の語りと遠景の語りがあり、それらは重層的に重なり合う。
(エ)さまざまな行為の幅を含めて自然保護を考え、隠れた合意の形態を見えるものにするという方向にこそ、多面性や多様性の担保が可能となる。
まとめ
以上、今回は『自然をめぐる合意の設計』について解説しました。ぜひ定期テストなどの参考として頂ければと思います。