お城の跡や遺跡などを表す言葉として「城址」と「城跡」があります。
一般的にはこの2つがよく使われている印象です。ただ、この場合どちらを使えばよいのかという問題が生じます。
そこで今回は「城址」と「城跡」の違いや使い分けなどについて詳しく解説しました。
城址と城跡の意味・読み方
最初に、それぞれの意味を辞書で引いてみます。
【城址(じょうし)】
⇒しろあと。城跡。
【城跡(しろあと)】
⇒城のあった跡。城址 (じょうし) 。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「城址」は「じょうし」と読みます。対して、「城跡」の方は「しろあと」もしくは「じょうせき」と読みます。
辞書の表記にはありませんが、「城跡」は「じょうせき」とも読める漢字です。
つまり、それぞれの「読み方」を整理すると次のようになります。
「城址」=じょうし。「城跡」=しろあと・じょうせき。
この点がまず両者の違いだと言えます。
そして意味ですが、「城址」も「城跡」も「城のあった跡」という内容が記述されています。すなわち、辞書としての意味はほぼ変わらないということです。
どちらも「元々この地にお城があったこと」を表す言葉です。ただ、厳密に言うと両者の漢字は異なるため、全く同じ意味の言葉というわけではありません。
「城址」の「址」は「基址・城址・旧址・古址」などの熟語があるように、「かつてあった土台」を指す漢字として使われてきました。
そのため、「址」には「もとい・土台・あと」などの意味があります。
一方で、「城跡」の「跡」は「遺跡・筆跡・門跡・軌跡・足跡・追跡・失跡」などの熟語があるように「何らかの物事が行われたあと」という意味で使われてきました。
よって、「跡」は「あと・あしあと」を表す漢字ということになります。
以上の事から考えて両者の違いを区別するなら、
「城址」=お城の建築されていたかつての土台。
「城跡」=お城が建築されていた(行われていた)あと。
ということになります。
つまり、「城址」は「土台」を指すので、お城の土台や石垣などが残っている場合はこちらを使うということです。
対して、「城跡」の方は「昔はこの場所にお城が建築されていた」という意味なので、現在は全く何も残っていないような地に「城跡」を使うということです。
城址と城跡の違いを詳しく
ところで、同じような意味でありながら、なぜ「城址」と「城跡」の2つの表記の仕方があるのでしょうか?
実は、元々「しろあと」を意味する言葉は、「城址」もしくは「城趾」と表記していました。
具体的に言いますと、1945年よりも前は「城址(城趾)」という表記しかされていなかったのです。
ところが、1946年になると戦後の漢字改革により、「当用漢字表」というものが公布されることとなります。
当時の当用漢字表には1850種類の漢字が掲げられており、日常生活で使用する漢字の目安となるものが国により決められました。
そして、この当用漢字表の中に「址」や「趾」という漢字は含まれていなかったのです。
そのため、仕方なく意味も似ており当用漢字表にものっていた「跡」を使い「城跡」という漢字表記がされるようになりました。
このような経緯もあり、戦後しばらくは当用漢字表に従い、「城跡」という表記が優先的になされることとなったのです。
その後、1981年(昭和56年)に「当用漢字表」が廃止され、「常用漢字表」が公布されることとなります。
残念ながら、この「常用漢字表」にも「址」と「趾」は含まれていなかったのですが、今までの「使用禁止レベル」から「可能なら使わない程度の制限レベル」へと変わりました。
そして1981年以降、「址」や「趾」が解禁され、元の表記である「城址」や「城趾」が復活することとなりました。よって、現在では「城跡」も含めた複数の表記がされるようになっているということです。
過去の歴史を振り返ると、なぜ現在似たような漢字表記が存在するのかが分かるかと思われます。
公用文・公文書での使い分け
「城址」と「城跡」と「城趾」は、字義の違いや細かな内容の違いはともかくとして、現代ではいずれも「城のあと」という意味で使われています。
一般に、「○○城址」「○○城址公園」などの漢語・複合語の場合は「城址」を使う傾向にあります。これは字義の違いというよりは、元々使っていた漢字本来の歴史を重視しているためです。
対して、日常会話などで「しろあと」と言う時は、「城跡」の方を使う傾向にあります。これは漢字本来の歴史よりも分かりやすさ、すなわち「簡易性」を重視しているからだと言えます。
ただ、一般に使わないような場合、例えば公用文や公文書などで書く場合は「城跡」と書きます。
「址」と「蹟」は常用漢字表にない漢字なので、国が関与する文書などでは原則使うことはありません。したがって、「城址」や「城趾」という表記はしないのです。
他には、新聞やテレビなどのマスメディアにおいても、「城跡」を優先的に使うようにします。日本新聞協会では、漢字使用の目安として以下のような記述を残しています。
新聞・通信・放送各社は、国語表記の基準としての常用漢字表を尊重するとともに、新しく加えられた字種に関しては、学校教育などでまだ十分に学ばれていない現状を考慮し、読みが難しく、意味がとらえにくいと判断したものについては当面、読み仮名を付ける、言い換えるといった配慮を加えることを申し合わせた。常用漢字表が内閣告示されて以降、新聞・通信・放送各社が日常使用する用語については、新聞用語懇談会において当漢字表を精査、検討して定めた「新聞用語集」をよりどころとして表記することを原則とする。報道界はその活動を通じて、正確で分かりやすい日本語の普及に努めていく。
出典:日本新聞協会「改定常用漢字表」(2010)
要約すると、「新聞業界では常用漢字表を尊重し、それを元に文章を書いていく」「新聞用語集を元に漢字を表記することを守る」ということです。
この「新聞用語集』に表記されている用語というのは、ほとんどが常用漢字表に含まれている漢字です。
そのため、新聞やテレビなどの放送業界でも、原則として「城跡」の方を使う方が望ましいということになります。
本記事のまとめ
以上、本記事のまとめです。
「城址(じょうし)=お城の建築されていたかつての土台。
「城跡(しろあと・じょうせき)」=お城が建築されていたあと。
「違い」=「址」は常用漢字外だが、「跡」は常用漢字内。
「使い分け」=公文書や新聞などにおいては「城跡」を用いるようにする。
両者には細かい字義の違いがありますが、現在の辞書ではほとんど同じ意味として記述されています。したがって、一般に使う際にはどちらを使っても大差はありません。
お城を管理されている方などでも、漢字の意味まで理解して使い分けている人はごく少数でしょう。両者の違いは、字義というよりも漢字の種類にあります。
「跡」は常用漢字ですが、「址」は常用漢字ではありません。そのため、公用文や公文書、メディア業界などで使う際は「城跡」を使うということです。