『生物多様性の恩恵』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『生物多様性の恩恵』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『生物多様性の恩恵』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①さまざまな生物のゲノム情報が解読され、生物の系統的な関係が明らかにされると、地球の全生物の共通の祖先は、ルカであることが分かった。ルカは四十億年ほど前に出現した自己複製能をもつ、原始的な単細胞生物であり、現存生物を三つに大くくりしたグループの祖先である。ルカは、自らの遺伝情報を複製して子孫を踏み、その子孫が同じように子孫を生む。だが、DNAの複製は完璧ではなく、時として親とは異なるゲノムをもつ子が生まれる。このように、自己複製、突然変異、適応進化、偶然の作用により、現在私たちが目にする生物多様性へと発展した。
②生物は自然淘汰によって、環境に適応するための戦略を獲得してきた。四十億年にわたる壮大な試行錯誤の結果、生物たちは、地球の生物が直面してきたあらゆる問題への「解決法」を体現している。なぜなら、そうした問題を乗り越えてきた系統だけが、現在まで生き残っているからである。さまざまな環境に対処するための「生物の知恵」ともいうべき適応戦略は、それ自体が莫大な価値と潜在的な利用の可能性を秘めている。
③ヒトは生物に学び、生物を模倣することに優れている。生物の適応戦略を技術に応用したのが、バイオミミクリーである。それは、生物が人類に与えてくれる恩恵である。生物はヒトにとっても有用なあらゆる「戦略」のヒントを与えてくれる。
④生物の絶滅は、生物が蓄積してきた膨大で貴重な情報を永久に失わせてしまう。生物がもつ情報の宝庫を後世に残すためには、生物多様性の保全が必要である。だが、日本では近年、「自然史」が軽視されている。そのため、生物多様性を具体的に認識し、適応戦略を読み解く眼力を備えた人材が少ない。この問題を解決するためには、身近につねに多様な野生生物がいて、日常的に接することのできる生活環境を取り戻すこと、幼い頃から自然史や生態に関する学習を重視することが必要である。
『生物多様性の恩恵』の要約&本文解説
筆者の主張を簡潔にまとめると、「生物多様性は人類にとってかけがえのない恩恵をもたらすものであり、それを守るために、私たちは自然に目を向け、学び直す必要がある」ということです。
すべての生物は同じ祖先から進化してきた
今の生き物は、約40億年前に現れた「ルカ」というたった一つの単細胞生物から生まれました。その後、ルカの子孫が少しずつ進化していき、色々な種類の生き物が生まれました。この進化の過程で、現在の「生物多様性(いろんな生物がいること)」ができたのです。
生物たちは、地球の問題を解決する方法を持っている
生物は生き残るために、それぞれ工夫をしてきました。その工夫(=適応戦略)は、いわば「生きるための知恵」です。この知恵は、長い進化の中で生き残ったアイデアなので、人間にも役立つ可能性があります。
人間は生物の知恵から学んでいる
人間は、生物の工夫を真似して技術を生み出してきました。例えば、シロアリの塚の構造から、炎天下でのエネルギーを投入しない空調を実現させる技術などです。こうした「生物に学ぶ技術」はバイオミミクリーといい、生物多様性があるからこそ成り立つものです。
だからこそ、生物多様性は守らないといけない
もし生物が絶滅したら、その生き物が持っていた知恵(=情報)も一緒に消えてしまいます。そのために、生物多様性を守る必要があると筆者は主張しています。
しかし、日本では「自然を学ぶこと(自然史)」が軽く見られがちで、生き物の価値を理解できる人が少ないです。だからこそ、もっと自然とふれあえる生活や、子どものころからの自然教育が大切だと筆者は述べているのです。
結論(筆者の主張)
- 生物のもつ知恵や情報は、人間にとって大きな恩恵になる。
- だからこそ、生物の絶滅を防ぎ、生物多様性を守ることが重要だ。
- そのために、自然とふれあい、自然を学ぶ力を育てることが必要だ。
『生物多様性の恩恵』の意味調べノート
【解読(かいどく)】⇒書かれた内容を読みとくこと。
【飛躍的(ひやくてき)】⇒急速に大きく発展するさま。
【祖先(そせん)】⇒自分の代より前の世代の人や生き物。
【原始的(げんしてき)】⇒まだ初期の段階で、十分に進化・発達をしていないさま。
【科学的(かがくてき)】⇒考え方や行動のしかたが、論理的・実証的なさま。
【把握(はあく)】⇒しっかりと理解すること。
【蓄積(ちくせき)】⇒少しずつたくわえていくこと。
【自然淘汰(しぜんとうた)】⇒環境に合った生物が生き残り、合わないものが消えていくこと。
【繁殖(はんしょく)】⇒生き物が子をふやすこと。
【試行錯誤(しこうさくご)】⇒うまくいくまで何度も行い、失敗を重ねながら学んでいくこと。
【潜在的(せんざいてき)】⇒表には出ていないが、可能性としてひそんでいるさま。
【模倣(もほう)】⇒まねをすること。
【精巧さ(せいこうさ)】⇒細かいところまでよくできていること。
【象徴(しょうちょう)】⇒抽象的な事物を、具体的な事物によって理解しやすい形で表すこと。
【恩恵(おんけい)】⇒ありがたいめぐみ。
【魅了(みりょう)】⇒心を引きつけて夢中にさせること。
【源泉(げんせん)】⇒物事のもとになるもの。
【保全(ほぜん)】⇒良い状態を保ち、守ること。
【感性(かんせい)】⇒物事を感じ取る力。
【軽視(けいし)】⇒軽くみること。軽く考えて、その価値を認めないこと。
『生物多様性の恩恵』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①カンペキな演技に皆が拍手した。
②内容をハアクしてから発表する。
③動物のハンショクの仕組みを学ぶ。
④ソウダイな計画に心が躍る。
⑤美しい歌声にミリョウされた。
次のうち、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)生物の進化は偶然の積み重ねであり、人間には無関係である。
(イ)生物の適応戦略は技術に応用できず、自然の中だけで意味がある。
(ウ)生物多様性を守るには、科学技術をさらに発展させていくしかない。
(エ)生物の適応戦略には価値があり、その保全には教育と環境が重要である。
まとめ
今回は、『生物多様性の恩恵』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。