『生物の多様性とは何か』は、福岡伸一氏による評論文です。教科書・現代の国語にも収録されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる部分もあります。そこで今回は、本作のあらすじや要約、語句の意味などを含めわかりやすく解説しました。
『生物の多様性とは何か』のあらすじ
本文は、内容により3つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①私は蝶を飼育することで、虫たちが自らの食べ物を限定していることを学んだ。それは限りある資源を巡って、異なる種どうしが無益な争いを避けるために、生態系が作り出したバランスである。そのバランスを維持しているのは、個々の生命体の活動そのものなのだ。
②この世界には、秩序あるものに対して等しく破壊しようとする力が降り注ぐ、エントロピー増大の法則がある。エントロピー増大の法則を防ぐために、物は頑丈に作られている。生命はこの工学的な発想とは全く別で、わざと仕組みを柔らかく作る方法を採用した。生命は自らをあえて壊し、壊しながら作り直し、エントロピー増大の法則により破壊されることに先回りし、何とかその恒常性を保つようになったのだ。では、なぜ生命は壊されながらも一定の恒常性を保ちうるのか。それは、その仕組みを構成する要素が非常に大きな数から成り、多様性に満ちているからだ。動的平衡においては、相互依存的、相互補完的であるからこそ、大きくバランスを失することがないのだ。
③生物は地球環境というネットワークの結節点に位置している。その結び目が多いほど、ネットワークは強靭で柔軟、可変的で回復力を持つものとなる。地球環境という動的平衡を維持するためにこそ、生物の多様性が必要なのだ。生物の多様性は、動的平衡の強靭さ、回復力の大きさを支える根拠なのだ。だが、地球環境はしなやかであるものの、薄氷の上に成り立っている。全ての生物は分際を守っているのに、ヒトだけが分際を逸脱している。今、私たちが考えなければならないのは、生命観と環境観のパラダイム・シフトなのである。
『生物の多様性とは何か』の要約&本文解説
私たちが住むこの宇宙では、「エントロピー増大の法則」に逆らうことができません。「エントロピー増大の法則」とは、整っているものには、等しくそれを破壊しようとする力が降り注ぐ、という法則のことです。
例えば、形あるものが壊れたり、熱ある物が冷めたり、輝くものが色あせたりといったことです。私たちが、道路や橋、建物などを頑丈に作るのも、この法則によって物が破壊されるのを防ぐためです。
一方で、生命の時間は何万年、何億年と物よりもはるかに長いですから、生命はわざと自らの仕組みを柔らかくし、緩く作るようにしました。そして、エントロピー増大の法則に先回りし、自らをあえて壊し、壊しながら作り直すことで、恒常性を保つようになりました。
つまり、生物はエントロピー増大の法則にさらされながらも、動きながら、変化しながら、バランスをとって生き延びてきたということです。
では、なぜ生物は自らを壊しているのに、一定のバランスを保てているのか?という疑問ですが、そこで必要になってくるのが「生物の多様性」です。
一つ一つの生物は不安定で恒常性とは程遠いものだとしても、そこに多様性があれば全体としてバランスを保つことができます。また、お互いに頼り合い、(相互依存)、お互いに欠点を補い合うことで(相互補完)、全体としてシステムを保つことができます。
つまり、一つ一つの生物に多様性があるからこそ、生物は全体として一定のバランスを保てているということです。
さらに筆者は、「地球環境という動的平衡を保持するためにこそ、生物多様性が必要なのだ」とも述べています。
「動的平衡」とは「動きながら(変化しながら)、バランスをとっていること」という意味です。
私たち生物は、変化をせずに止まった状況では生き延びていくことはできません。どうしても動きながら変化しながら、バランスをとっていく必要があります。
地球上に生物が存在し続けるためにはこの動的平衡が必要であり、動的平衡を保持するためには「生物の多様性」が必要ということです。
最終的に筆者は、人間以外の動物は、分際(身の程)をわきまえているが、人間だけは分際を忘れて逸脱していると述べています。したがって、私たちは生命観と環境観のパラダイム・シフトを考えなければならないと結論付けています。
これはつまり、私たちは今までの生命や環境に対する考え方を改めて、自分たちの思考の枠組み・考え方を根本的に変える必要があるということです。
『生物の多様性とは何か』の意味調べノート
【所狭しと(ところせましと) 】⇒場所が狭く感じられるさま。
【かたくな】⇒融通のきかぬさま。頑固であるさま。
【無益(むえき)】⇒役に立たないこと。利益のないこと。
【他ならぬ(ほかならぬ)】⇒それ以外のものでは決してない。
【黙々(もくもく)】⇒黙って一つの事をし続けるさま。
【排泄(はいせつ)】⇒生物が不要な物質を体外に出すこと。
【結節点(けっせつてん)】⇒つなぎ合わされた部分。ここでは、生物同士が何かと何かを結ぶ場所を表す。
【循環(じゅんかん)】⇒ひとまわりして、また元へ戻ることを繰りかえすこと。
【動的平衡(どうてきへいこう)】⇒動きながら(変化しながら)、バランスをとっていること。
【担保(たんぽ)】⇒保証すること。
【保全(ほぜん)】⇒保護して安全にすること。
【消長(しょうちょう)】⇒勢いが衰えたり盛んになったりすること。
【恒常性(こうじょうせい)】⇒時間が経っても一定の状態が保たれている性質。
【秩序(ちつじょ)】⇒整った状態。整然とまとまっている状態
【色あせる(いろあせる)】⇒色が薄くなる。美しさなどがなくなる。
【凌駕(りょうが)】⇒他をしのいでその上に出ること。
【蓄積(ちくせき)】⇒たくさんたくわえること。
【律する(りっする)】⇒一定の規範を設けて統制・管理する。
【相互依存(そうごいぞん)】⇒お互いが依存し合っていること。「依存」とは「他に頼って存在すること」という意味。
【相互補完(そうごほかん)】⇒お互いが補完し合っていること。「補完」とは足りない部分を補い、完全なものにすること。
【ミクロ】⇒極めて小さいこと。微小。
【駆動(くどう)】⇒動力を与えて動かすこと。
【サステナブル】⇒持続可能であるさま。
【多岐(たき)】⇒物事が多方面に分かれていること。
【強靭(きょうじん)】⇒しなやかで強いこと。
【可変的(かへんてき)】⇒変わることができるさま。
【殲滅(せんめつ)】⇒滅ぼしつくすこと。
【食物連鎖(しょくもつれんさ)】⇒生物が互いに食う・食われるの関係によって、連鎖的につながっていること。
【精妙(せいみょう)】⇒極めて細かく巧みであるさま。
【共生(きょうせい)】⇒共に生きること。
【共進化(きょうしんか)】⇒共に進化すること。
【漠然(ばくぜん)】⇒ぼんやりとして、はっきりしないさま。
【局所的(きょくしょてき)】⇒全体の中で限られた部分であるさま。
【典型的(てんけいてき)】⇒その類の特徴・性質をよく現しているさま。
【エゴ】⇒自分の利益を中心に考えて、他人の利益は考えない考え。「エゴイズム」の略。
【理念(りねん)】⇒ある物事についての、こうあるべきだという根本的な考え。
【薄氷(はくひょう)】⇒薄く張った氷。
【分際(ぶんざい)】⇒身分・地位の程度。身の程。
【逸脱(いつだつ)】⇒決められた枠から外れること。本筋から外れること。
【かく乱(かくらん)】⇒かき乱すこと。
【占有(せんゆう)】⇒自分の所有とすること。
【パラダイム・シフト】⇒古いパラダイムから新しいパラダイムへ変化すること。「パラダイム」とは「ある時代における広く共有された考え方」、「シフト」とは「変わること・移行すること」という意味。
『生物の多様性とは何か』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①昆虫をサイシュウする。
②ムエキな争いをしない。
③血液がジュンカンする。
④クドウする機関車。
⑤ハクヒョウの上に成り立つ。
⑥レンサ反応を起こす。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)ニッチとは、本来は隙間を表す意味ではなく、全ての生物が守っている自分のための僅かな窪み=生態学的地位のことである。
(イ)エントロピー増大の法則による破壊に先回りし、生物は自らをあえて壊し、壊しながら作り直すことで、揺らぎながらもその恒常性を保つことができた。
(ウ)生態系における生命は、互いに食う・食われるの弱肉強食の関係にあり、どちらかが一方的に殲滅されるということはない。
(エ)人間の効率思考により、生物の多様性が局所的に失われたとしても、動的平衡に決定的な綻びがもたらされるようなことはない。
まとめ
以上、今回は『生物の多様性とは何か』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。