副詞や接続詞として用いる語に、「さらに」があります。
この「さらに」ですが、漢字で「更に」と表記するのか、それとも平仮名で「さらに」と表記するのかという問題があります。特に、公用文に関してはどちらを使えばよいか迷うという人も多いと思われます。
そこで本記事では、「さらに」と「更に」の違い・使い分けについて詳しく解説しました。
「さらに」か「更に」か
まず最初に、「さらに」という語を辞書で引いてみます。
さら‐に【更に】
①同じことが重なったり加わったりするさま。重ねて。加えて。その上に。「更に一年の月日が過ぎた」「更にこういう問題もある」
②今までよりも程度が増すさま。前にも増して。いっそう。ますます。「更にきれいになった」「事態は更に悪くなった」
③(あとに打消しの語を伴って)いっこうに。まったく。少しも。「更に覚えがない」「反省するようすは更になく」
④事新しく。今さら。「―何事をかは疑ひ侍らむ」〈源・若菜上〉
出典:デジタル大辞泉(小学館)
上記のように、「さらに」は辞書だと平仮名と漢字の両方の表記がされています。よって、一般に使う際にはどちらを使ってもよいということになります。
また、内閣告示による『常用漢字表』をみると、「更」の項の字訓や用例は次のように掲げられています。
【更】
さら ⇒更に・今更
ふける ⇒更ける・夜更け
ふかす ⇒更かす・夜更かし
出典:内閣告示『常用漢字表』
常用漢字というのは、国が国民に対して一般的に使う漢字使用の目安を示したものです。この中に、「更に」という表記ははっきりと記されています。
そのため、「常用漢字表」にしたがって漢字を用いると考えるならば、「さらに」は「更に」と漢字で書くことになります。
ただ、この語例は「前書き」で「音訓使用の目安としてその使用例の一部を示したもの」とも書かれているので、漢字の使用を強制するものではありません。
したがって、「さらに」と平仮名で書くことも現在では一般化しているのです。
公用文ではどちらを使うか?
公用文に関しては、『文部省用字用語例』という資料が参考になります。『文部省用字用語例』とは、文部科学省で公用文を作成する上で参考にするために、一般に留意を要する用字用語の標準を示したものです。
その中身を読むと、五十音順に並んだ見出しとそれに続く書き表し方及び備考の項目が次のように書かれています。
さらに(副詞) 更に 更に検討することとする
さらに(接続詞) さらに さらに、 ・・・・・
出典:文科省『文部省用字用語例』
これはつまり、「副詞」として用いる場合は「更に」と漢字で書き、「接続詞」として用いる場合は「さらに」と平仮名で書くということです。
「副詞」とは簡単に言うと「他の語を詳しく説明する語のこと」、そして「接続詞」とは「文と文をつなぐ語のこと」を指します。
例えば、以下のような文があったとします。
- 今年の夏は、去年よりも更に暑い。
- バナナは安い果物だ。さらに、栄養も豊富である。
1.の「更に」は「熱い」という言葉を詳しく説明している「副詞」なので、漢字で「更に」と表記することになります。
一方で、2.の「さらに」は前の文と後の文をつなぐ役割をしている「接続詞」なので、漢字ではなくそのまま平仮名で「さらに」と書くことになります。
すなわち、『文科省用字用語例』が伝えている内容は、公用文は品詞(副詞か接続詞か)によって漢字と平仮名のどちらで書くかを使い分けるというものとなります。
ではなぜ、このような書き分けが行われているのかという話ですが、それは内閣官房長官通知『公用文における漢字使用等について』に基づいてルールが整備されているためです。
副詞は原則として漢字で書く
内閣訓令、『公用文における漢字使用等について』は、常用漢字表の内閣告示に伴い、各行政機関が作成する公用文の表記の統一を図るために行われた事務次官等会議の申合せによるものです。
そして、この内容は各省庁事務次官あてに通知されています。
実際の中身は、漢字の使用については「常用漢字表」によるものとなっていますが、特に「次の事項に留意する」と書かれています。
この留意すべき項目というのは全部でア~キまでの七項目あり、この中の項目で「更に」と「さらに」の書き分けが言及されています。
まず、漢字書きが基本となる「副詞」の「更に」は、以下のように書かれています。
イ 次のような副詞及び連体詞は,原則として,漢字で書く。
例(副詞) 余り 至って 大いに 恐らく 概して 必ず 必ずしも 辛うじて 極めて 殊に 更に 実に 少なくとも 少し 既に 全て 切に 大して 絶えず 互いに 直ちに 例えば 次いで 努めて 常に 特に 突然 初めて 果たして 甚だ 再び 全く 無論 最も 専ら 僅か 割に
(連体詞) 明くる 大きな 来る 去る 小さな 我が(国)
上記のように、「副詞」の表記の仕方に関しては、「必ず・少し」など漢字の字訓によるもの、「概して・実に」など漢字の字音によるものがあります。
「更に」というのは、前者の漢字の字訓によるものに当てはまります。よって、副詞としての「更に」は漢字で書くことになるわけです。
接続詞は原則として仮名で書く
一方で、「接続詞」に関しては次のように書かれています。
オ 次のような接続詞は,原則として,仮名で書く。
例 おって かつ したがって ただし ついては ところが ところで また ゆえに
平仮名で書く接続詞については、「おって・かつ」などの九語であり、その中に「さらに」の形は見当たりません。しかし、この項には続きがあり、次のような「ただし書き」があります。
ただし,次の四語は,原則として,漢字で書く。
及び 並びに 又は 若しくは
上記の「ただし書き」は「次の四語」となっており、「次のような語」とはなっていません。この事から、「及び・並びに・又は・若しくは」の四つのみを例外として漢字書きにすることが分かります。
対して、本則の方は「次のような接続詞は」とあり、「次の接続詞」とは書かれてはいません。よって、本則で示された九語については例示であり、ひらがなで書く接続詞のすべてを表したものではないことが分かります。
以上の事から考えて、「接続詞」の「さらに」については、例外として「更に」と書くのではなく、本則に従い「さらに」とひらがな表記にするというわけです。
なお、国語辞書によっては「さらに」を副詞としてのみ掲げ、接続詞という品詞名を掲げていないものもあります。
その場合でも、次のように「そのうえ・加えて」の意味で用いる場合は、接続詞の用法と考えて問題ありません。
- 社長が説明をした。さらに、副社長が補足の説明をした。
- 国語、数学、さらに英語でも偏差値が70を超える成績を残した。
結局の所、文と文もしくは語句と語句をつなぐ使い方をするものを平仮名で書くのが、公用文の場合の基準ということになります。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「さらに・更に」=意味自体に変わりはない。
「一般に使う際」=平仮名・漢字のどちらを使ってもよい。
「公用文で使う際」=「副詞」として使う場合は「更に」、「接続詞」として使う場合は「さらに」と書く。
一般に使う際には漢字と平仮名のどちらを用いても構いません。ただし、公用文に関しては品詞によってその表記が異なってきます。「副詞」の場合は漢字表記、「接続詞」の場合はひらがな表記が原則ということになります。