『骰子の七の目』は、恩田陸によって書かれた文学作品です。教科書・文学国語にも取り上げられています。
ただ、実際にこの作品を読むと作者の伝えたいことが分かりにくいと感じる部分も多いです。そこで今回は、『骰子の七の目』のあらすじや要約、語句の意味などをわかりやすく解説しました。
『骰子の七の目』のあらすじ
本作は、5つの段落から構成されています。以下に、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①渋谷駅の交差点を渡り、ロフトの前にやってくると、いつも何かを思い出しそうになる。店の入り口ではずっと流れているガムランみたいな音楽が聞こえてくる。その音階やリズムを聞いていると、自分にとって重要な何かを忘れているような気がして憂鬱になる。今日はそれを聞き、子供のころに聞いた童話を思い出した。金の斧か銀の斧か鉄の斧か選べという話である。「栄ちゃんだったら、どれを選ぶ」とそのとき聞かれたのだ。
②今日は月に一度の戦略会議の日である。会議は、ガラス張りのスタジオで公開で行われる。四角いテーブルにはいつものメンバーが集まっていた。都民の良識とも言うべき人たちで、私もその中の一人であることを、誇らしく思う。しかし、今日は何かが違った。テーブルの隅に見知らぬ「女」が一人、影のように静かに座っている。隣の御殿場さんに尋ねてみたが、御殿場さんも知らないと言う。その女から発せられる暗く禍々しい雰囲気に、私は良識ある会議を汚されたような気がして、不快な気分になった。
③今日のテーマは、柱時計か、腕時計かである。城間さんが柱時計を推し、家族の中心にあって安心感があると言った。すると、妹尾さんも柱時計の音は規則正しく生活にリズムを与えるのに対し、腕時計は贅沢だと言う。これに御殿場さんも同意し、窓ガラスの外でも、子供を持つ女たちが一緒に頷く。柱時計が優勢になったとき、忠津さんが腕時計を支持した。会議には反対意見も必要なので、私はこの展開を微笑ましく見ている。忠津さんは、技術やモノを大事にする心の大切さを言い、妹尾さんが賛意を示しつつ、家庭の基本という観点からやはり柱時計がいいと言う。すると、皆が同意の囁きを交わす。私たちは、いつものように良識ある結論に達しようとしていた。
④突然、「別にどっちだっていいじゃありませんか」という声が響いた。影のような女が言ったのだった。御殿場さんがその場をとりなすと、まともや女が水を差し、二者択一を批判した。スタジオの内外に不安が広がり、ざわめく。私は、選ぶということは自主性や判断力を育てることであり、優柔不断はよくないことだとして、二者択一の意義を説いた。すると、三たび女が、優柔不断も決めつけも同じくらい迷惑だと言った。私はカッとなった。すると、女は突然、テーブルの上にある小さなサイコロを転がした。
⑤女は、「サイコロの上の目と陰になって見えない下の目を足すと七になるが、自分はその見えない七の国からやってきた」と言った。そして、女は白い紙を取り出し、私をプロパガンダ法違反で逮捕すると言った。常に二者択一を迫り、思考停止や単純さを扇動した罪だと言うが、人々が喜ぶ行為、人々に安心を与えることがなぜ悪いのかと私は納得できずにいた。その時、頭の中に渋谷ロフトのガムランの音色が響いてきて、私は童話の斧のことを思い出した。そして、自分が幼い頃、どれを選ぶかとうとう決められなかったことを思い出したのだった。
『骰子の七の目』の要約&本文解説
あらすじの整理
物語は、渋谷ロフト前の音楽をきっかけに童話「金の斧、銀の斧、鉄の斧」を思い出す場面から始まります。
続いて、主人公が「良識ある市民」として公開会議に参加する場面が描かれます。議題は「柱時計か腕時計か」という一見ささいなものです。
しかし、会議の雰囲気は「どちらが正しいか」を当然のように決めていくものでした。
そこに突然、正体不明の「女」が現れ、「どちらでもいいのではないか」と問いかけます。彼女は二者択一の議論そのものを批判し、見えない選択肢=「七の目」の存在を示唆します。
そして主人公を「単純な二択に人々を縛り、思考停止を助長した罪」で告発します。最後に主人公は、自分自身もかつて童話の斧を選べずに迷った経験を思い出します。
筆者の主張
この物語の主張は、「社会はしばしば二者択一を迫るが、本当は見えない第三の可能性が存在する」という点にあります。
会議の「柱時計か腕時計か」という単純な選択は、実際には人々を安心させる「良識」に見えて、思考を狭めています。
「女」が示した「サイコロの七の目」は、現実には見えない「別の可能性」や「選ばない自由」を象徴しています。
私は「二者択一は自主性を育てる」と主張しますが、それ自体が思考を二分化する枠に囚われた立場だと批判されます。
つまり、この作品は「人間社会は“白か黒か”の選択を迫りがちだが、本当はその背後に、見えない第三の答えや多様な選択肢があるのではないか」ということを伝えています。
身近な例えで言い換えると
学校や社会では「AかBか」を決める場面が多いです。文系か理系か、進学か就職か、といった二択です。
しかし、本当はそのどちらでもない道もあるかもしれません。物語に登場した「七の目」とは、そうした「見えないけれど確かに存在する、第三の可能性」を象徴しているのです。
『骰子の七の目』の意味調べノート
【憂鬱(ゆううつ)】⇒気分が晴れないこと。
【戦略会議(せんりゃくかいぎ)】⇒物事の進め方を計画的に話し合う会議。
【おのずと】⇒自然に。ひとりでに。
【身が引き締まる(みがひきしまる)】⇒自然と緊張する。
【まなざし】⇒物を見るときの目の様子。目つき。
【会釈(えしゃく)】⇒軽く頭を下げてあいさつすること。
【良識(りょうしき)】⇒正しく健全な判断力。
【眉をひそめる(まゆをひそめる)】⇒不快・心配などを感じて顔をしかめる。
【頓着せず(とんちゃくせず)】⇒気にしないで。
【禍々しい(まがまがしい)】⇒忌まわしい。不吉な。
【大同小異(だいどうしょうい)】⇒大きな違いはなく、細かい部分が少し違うこと。
【携える(たずさえる)】⇒手に持つ、あるいは身につけて持って行く。
【主眼(しゅがん)】⇒大切なところ。
【くくり】⇒まとまり。枠。
【土俵に上がる(どひょうにあがる)】⇒勝負や議論の場に立つ。
【ポータブル】⇒持ち運び可能なさま。
【断然(だんぜん)】⇒きっぱりとしたさま。断固。絶対。
【和やか(なごやか)】⇒穏やかで落ち着いているさま。
【まくし立てる】⇒勢いよく次々と言葉を並べる。
【揺るぎない(ゆるぎない)】⇒しっかりしていて動かない。
【象徴(しょうちょう)】⇒抽象的なものを具体的な事物で表すこと。
【絶妙(ぜつみょう)】⇒非常に優れて巧みなこと。
【相槌を打つ(あいづちをうつ)】⇒話に合わせてうなずいたり言葉を返したりする。
【耳を傾ける(みみをかたむける)】⇒注意して聞く。
【ロマンチック】⇒空想的、情緒的で甘美なさま。
【艶然(えんぜん)】⇒美しく色気のあるさま。
【言語道断(ごんごどうだん)】⇒あまりにひどく、言葉で言い表せないこと。
【冷や水を浴びせる(ひやみずをあびせる)】⇒盛り上がった気持ちを冷やすようなことを言う。
【表情を繕う(ひょうじょうをつくろう)】⇒気持ちを隠すために顔の表情を整える。
【二者択一(にしゃたくいつ)】⇒二つの中からどちらか一つを選ぶこと。
【不穏(ふおん)】⇒安心できず、不吉で落ち着かないさま。
【猜疑心(さいぎしん)】⇒人を疑う心。
【口を開く(くちをひらく)】⇒話し始める。
【威厳(いげん)】⇒近寄りがたいほど堂々とした雰囲気。
【優柔不断(ゆうじゅうふだん)】⇒物事の決断ができず迷いやすいこと。
【嘲る(あざける)】⇒人をばかにして笑う。
【屈辱(くつじょく)】⇒恥ずかしく不名誉な思い。
【目をやる(めをやる)】⇒視線を向ける。
【まじまじと】⇒じっと見つめるさま。
【扇動行為(せんどうこうい)】⇒人をあおり立てて動かす行為。
【咎(とが)】⇒罪。責められるべき行い。
【浩々たる(こうこうたる)】⇒明るいさま。
『骰子の七の目』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①店舗をカイギョウする準備を整える。
②センリャクを練って勝利を目指す。
③ゼツミョウなタイミングで笑いが起きる。
④ケイタイを忘れたのでとても不便だ。
⑤クツジョクを受けて顔が赤くなる。
「優柔不断」=柱時計と腕時計のどちらがよいか悩み、決められないこと。
「決めつけ」=柱時計にするのが良識的な判断だと決めつけ、その結果を押しつけようとすること。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)私は、迷いや葛藤を避け、最初から正しい答えを選べるよう努力した。
(イ)私は、会議で反対意見を否定し、単純化された結論に従って問題を解決した。
(ウ)私は、公開会議で議論に参加するが、最後まで二者択一の重要性を信じ続け、迷いや考えを振り返らなかった。
(エ)私は、公開会議で柱時計か腕時計かを議論する中、影の女に二者択一の限界を示され、自分の幼い頃の経験を思い出した。
まとめ
今回は、『骰子の七の目』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。