『ポピュリズムとは何か』は、森本あんりという作者によって書かれた文章です。高校教科書・論理国語にも掲載されています。
ただ、実際に文章を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、本文のあらすじや要約、意味調べなどをわかりやすく解説しました。
『ポピュリズムとは何か』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①ポピュリズムには、右と左、保守派と進歩派、国粋主義者と社会主義者など、さまざまな考えの人がいて、定義することが難しい、むしろ、一つの定義のもとに包摂したり、理解したりすることが難しいのがポピュリズムの特徴である。ポピュリズムにはイデオロギー的な理念がなく、全体的な将来構想もない。だから、ポピュリストは、不特定イデオロギーに仮託するが、結びつきに方向性や一貫性はなく、融通無碍である。
②ポピュリストは、社会に多元的な価値が存在することを認めない。特定の政治的アジェンダに賛成か反対かで有権者を二分し、社会を分断する。成熟した民主的な社会では、人びとの価値観は多様であり得るのに、選挙に勝てば全体を僭称し、国民の代表となり、反対する者はすべて不道徳で腐敗した既存勢力で国民の敵とみなす。権力を分散させるのは、多元主義が培ってきた知恵だが、ポピュリストはそれを嫌う。
③権力の分散に対する反発は、しばしば反知性主義と一体になって表現される。ポピュリストは、既得権益を持たないアマチュアであることを強調し、既成の権力や体制派のエリートに対する大衆の反感を利用する。ポピュリストは、ひとたび権力を掌握すると、あとは有権者をすべて「サイレント・マジョリティー」と見なして自己への同調者に参入する。ポピュリストという部分が全体を僭称するとき、権力の暴走を制御するはずの内部規範は無力化され、排外主義が人びとを支配するようになる。
④かつては社会的な不正義の是正を求める人々の情熱の排出手段であった宗教が弱体化し、その代替的な手段としてポピュリズムと反知性主義がある。ポピュリズムの善悪二元論も、宗教的な性格をもっている。善悪二元論は、日頃の不満や怒りをそこに集約させてぶつけることができるので、市井の人びとも歓迎する。ポピュリズムは、一般市民に「正当性」の意識を抱かせ、それを堪能する機会を与える。しかし、民主主義は本来はいくつもの要素で構成されており、多数決はそのうちの一つにすぎず、投票による民意はより大きな多数者を代弁することはできない。つまり、「多数者」も全体ではなく部分であり、統治者も全国民の排他的な代弁者ではない。したがって、統治者による統治は道徳的な闘争ではなく、統治者への反対も不道徳ではない。このことを忘却して部分が全体を僭称するとき、正当性は権力の内側から蝕まれる。
『ポピュリズムとは何か』の要約&本文解説
「ポピュリズム」とは何か?
この文章のテーマは、「ポピュリズムとはどんな考え方か?」ということです。
筆者はまず、「ポピュリズムは一つの思想として定義するのが難しい」と述べています。右派(保守)にも左派(革新)にもポピュリストは存在し、一つの方向性があるわけではありません。
つまり、ポピュリズムは固定された理想や政策ではなく、その時々の「国民の不満」に合わせて変化する流動的な特徴を持っているのです。
ポピュリズムの特徴:国民を一つにまとめてしまう危うさ
ポピュリズムが危険なのは、「国民の声は一つである」と思い込ませるところにあります。
選挙で勝つと、ポピュリストは「自分たちが国民のすべてを代表している」と言い、反対する意見を「国民の敵」「裏切り者」「腐敗した勢力」として攻撃します。
本来の民主主義は、いろいろな意見が共存するものです。たとえ少数派であっても、それが社会にとって重要な意見であることもあります。多様な意見を受け入れることが、成熟した社会の基本なのです。
反知性主義との結びつき:エリート批判と「庶民アピール」
ポピュリストは「私はエリートではない」「専門家の意見より、みんなの感覚が大事だ」とアピールします。こうした考え方は「反知性主義」と呼ばれ、知識や経験のある専門家を信用せず、感情や直感を重視します。
たとえば、感染症の対策に関して「専門家の話は信じられない」「政治家の感覚のほうが正しい」という声が強まると、科学や制度が軽視される恐れがあります。これは、社会の判断力を鈍らせる危うい動きと言えます。
宗教の代わりとしてのポピュリズム:不満のはけ口
筆者は、現代社会ではポピュリズムが宗教に代わる「感情の受け皿」になっているとも述べています。
昔は、怒りや不満を宗教が吸収していましたが、現代では宗教の力が弱まり、その代わりにポピュリズムが人々の怒りを集めています。
ポピュリズムは「善と悪」という単純な構図を使い、「あなたは正義だ」と一般市民に語りかけます。このような言葉は、怒りや不満を持つ人々の感情を刺激し、強い共感を生みますが、それが社会の分断や排除につながることもあるのです。
民主主義の本質:多数決だけではない
ここで筆者は、民主主義の本来の姿を説明します。
民主主義は「多数決」だけで決まるものではありません。たしかに選挙で勝てば政権を持ちますが、それでも反対意見を無視してよいわけではないのです。
「多数派=国民全体」ではなく、「多数派も社会の一部分」でしかありません。だからこそ、少数意見や反対の声にも耳を傾け、バランスを取る必要があるのです。
結論:ポピュリズムは民主主義を内側から壊す
筆者の主張は、「ポピュリズムは社会の多様な価値観を否定し、あたかも“自分たちこそが国民全体の代表”であるかのようにふるまうことで、民主主義の土台を内側から崩してしまう」ということです。
このような考え方が広がると、社会は排外的になり、異なる意見を持つ人々が排除される危険があります。
私たちは「庶民の声」や「正義」という言葉に振り回されるのではなく、冷静に物事を考える力を持つことが大切です。筆者は、ポピュリズムの魅力に流されず、民主主義の本質を理解することの重要性を伝えているのです。
『ポピュリズムとは何か』の意味調べノート
【右(みぎ)】⇒保守的・伝統的な価値観を重んじる政治的立場。
【左(ひだり)】⇒革新・平等・社会変革を重視する政治的立場。
【進歩派(しんぽは)】⇒社会や制度をより良く変えていこうとする立場。
【国粋主義者(こくすいしゅぎしゃ)】⇒自国の文化や伝統を至上とし、外国を排除しようとする者。
【包摂(ほうせつ)】⇒ある範囲の中に取り込んで含めること。
【融通無碍(ゆうずうむげ)】⇒考えや行動にとらわれがなく、自由自在であること。
【体現者(たいげんしゃ)】⇒ある考えや性質を具体的に表している人。
【僭称(せんしょう)】⇒自分の身分を超えた称号を勝手に名乗ること。
【忖度(そんたく)】⇒他人の気持ちや考えを推し量ること。
【多元(たげん)】⇒複数の異なる価値や原理が併存していること。
【梃子(てこ)にする】⇒何かを利用して物事を動かす手がかりにすること。
【虜(とりこ)】⇒あることに心を奪われていること。ここでは、腐敗した権力構造を良しとしていることを指す。
【既得権益(きとくけんえき)】⇒既に手にしている守られた利益や権利。
【権威(けんい)】⇒他人を従わせるほどの優れた力や社会的な威信。
【~を露わ(あらわ)にする】⇒隠れていた感情や態度などをはっきり表に出すこと。
【排外主義(はいがいしゅぎ)】⇒外国人や外国文化を排除しようとする考え。
【興隆(こうりゅう)】⇒勢いが盛んになって栄えること。
【付与(ふよ)】⇒権利や資格、価値などを与えること。
【正当(せいとう)】⇒道理にかなっていて正しいこと。
【堪能(たんのう)】⇒十分に味わって満足すること。
【排他的(はいたてき)】⇒他を受け入れず、自分たちだけで独占しようとするさま。
『ポピュリズムとは何か』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ハイリョが足りない発言。
②行政のケンイが失墜する。
③庶民文化がコウリュウする。
④ハイタ的な考えは争いを生む。
⑤正しくトウチする力が求められる。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)ポピュリズムは明確な理念と未来像を掲げ、民意の代表として多様な価値観の統合を目指す政治運動である。
(イ)ポピュリズムは多数決原理に従い、社会の多元性を前提とした民主主義の発展に貢献する存在である。
(ウ)ポピュリズムはイデオロギーを持たず、多元的価値を否定して社会を二分し、正当性を内側から蝕む構造を持つ。
(エ)ポピュリズムは宗教的情熱や倫理を継承し、国民全体の利益を代弁することで安定した統治を可能にする。
まとめ
今回は、『ポピュリズムとは何か』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。