『人間にできて機械にできないこと』は、松田雄馬氏による評論文です。高校教科書・現代の国語にも載せられています。
ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。そこで今回は、本作のあらすじや要約、語句の意味などを含め解説しました。
『人間にできて機械にできないこと』のあらすじ
本文は、内容により3つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①「自律的に思考する人工知能」が実現可能かどうかを議論する上で、「意味」というものは重要なキーワードである。機械が「椅子」を認識するためには、椅子の「形状」を定義する方法が一般的である。だが、「椅子」にはさまざまな形があるため、機械が「椅子」を認識するのは容易ではない。
②「ニュートラルネットワーク」に椅子を学習させることで、「椅子らしい特徴」を発見することはできるかもしれない。だが、椅子は座れなければ椅子ではないため、形状だけでは「椅子」と「机」を認識できない場合もある。機械にとっての「椅子」は、「前もって教えられた『椅子らしい特徴』をもつもの」であるのに対し、人間にとっての「椅子」は、「座れるもの」であるという違いがある。人間は、身体をもっているからこそ「疲れた時に座る」などのように「目的」を自分で作り出すことができる。それに比べ、機械は身体を持たず、与えられるまで目的を自分で作り出すことができない。
③私たちのとっての「意味」とは「行為の意味」であり、「行為」を行うには「身体」が不可欠である。「身体」にとっての「意味」は、「身体」と「環境」との関係により、その場その場で作り出される。人工知能の研究において、こうした視点による議論は不可欠なものである。
『人間にできて機械にできないこと』の要約&本文解説
筆者はまず第一段落で、機械による認識というのは、形状を定義するのが難しいのだと述べています。そのことを説明するために、さまざまな種類の椅子の図を例に出しています。
椅子というのは、座部や背もたれの形状がそれぞれ異なるため、機械が認識しようとすると例外扱いのものが出てきてしまうというものです。
次の第二段落では、「機械と人間の認識の違い」について述べています。機械や「ニュートラルネットワーク」というのは、あらかじめ「椅子らしいもの」のように特徴を学習させることで、対象を認識しようとします。
一方で、人間というのは、「座れるもの」のように身体を持っているからこそ理解できるような認識の仕方で対象を捉えようとします。
この事から、人間は目的を自分で作り出すことができるのに対し、機械は自分で目的を作り出すことはできないのだ、と筆者は述べています。
最終的に筆者は、人口知能の研究においては、私たちが行為を行うには身体が不可欠であり、身体にとっての意味は、身体と環境との関係によって即興的に作り出される、という視点に立って議論をすることが欠かせない、と結論付けています。
全体を通した内容としては、①「人間と機械の認識の違い」②「人間にできることと機械にできないこと」、この2点を読み取れるがどうかがポイントとなります。
『人間にできて機械にできないこと』の意味調べノート
【自律的(じりつてき)】⇒自分で考えて行動するさま。
【認識(にんしき)】⇒物事を知り、その本質などを理解すること。
【至難の業(しなんのわざ)】⇒実現が極めて難しいこと。
【定義(ていぎ)】⇒物事の意味・内容を他と区別できるように、言葉で明確に限定すること。
【容易(ようい)】⇒たやすいこと。やさしいこと。
【奥歯に物が挟まったよう(おくばにものがはさまったよう)】⇒思っていることや言いたいことをはっきりと言わずに、なんとなくぼかしているさま。
【本質的(ほんしつてき)】⇒物事の根本的な性質にかかわるさま。
【多種多様(たしゅたよう)】⇒種類や性質がさまざまであること。
【精度(せいど)】⇒物事の正確さ。
【視点(してん)】⇒物事を見たり考えたりする立場。
【明確(めいかく)】⇒はっきりしていること。
【川辺(かわべ)】⇒川の近辺。川のあたり。
【断定(だんてい)】⇒はっきり判断をくだすこと。
【不可欠(ふかけつ)】⇒なくてはならないこと。欠かせないこと。
【即興的(そっきょうてき)】⇒その時、その場の雰囲気や感興によって物事をするさま。「感興」とは「興味を感ずること。面白がること。」という意味。
『人間にできて機械にできないこと』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①夢をジツゲンする
②対象をニンシキする。
③ギロンを行う。
④ヨウイに解ける問題。
⑤とびらに手がハサまる。
⑥間違いをシテキされた。
⑦ソッキョウで演奏をする。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)機械が「椅子」を認識するには椅子の「形状」を定義する方法が一般的だが、椅子にもさまざまな形状があるため、それらを定義するのは容易ではない。
(イ)「ニュートラルネットワーク」は、対象を学習させ、その精度を高めていくことで、いずれは対象の特徴を自ら認識することが可能となる。
(ウ)身体を持ち、目的を作り出すことができる人間は、川辺の岩であったとしても、それを「椅子」と認識して、用いることができる。
(エ)身体にとっての「意味」は、「身体」と「環境(状況)」との関係により、即興的に(その場その場で)で作り出される。
まとめ
以上、今回は『人間にできて機械にできないこと』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。