「もつ」という言葉は、漢字で書く場合とひらがなで書く場合があります。
「荷物を持つ」「感情をもつ」
この2つの使い方に何か一定のルールはあるのでしょうか?特に公用文での表記については気になるところです。
今回は、「持つ」と「もつ」の意味や違い、使い分けについて詳しく解説しました。
「持つ」と「もつ」の使い分け
結論から言いますと、「持つ」と「もつ」は以下のように使い分けると考えて下さい。
「持つ」⇒実際に人が持ったり所有するような場合。
「もつ」⇒それ以外の場合。
「持つ」の方は、人が持ったり所有したりするような対象に使います。
例えば、ボールペンやナイフなどは、実際に手に取って動かしたりすることができます。また、資格や免許、家なども人が所有することができます。
このような対象には、「持つ」を使うのです。
一方で、「もつ」の方は基本的に人以外の対象に使います。ただし、どちらとも例外はあります。
また、公用文になると使い分けが微妙に異なってきますので、その辺りの詳しい用例をみていきたいと思います。
「持つ」の使い方
まずは、「持つ」の使い方です。
①「手にとる・手の中に握る」
- 荷物を持つ。
- ペンを持つ。
- バッグを持つ。
②「ものの一部分などをつかむ」
- ハンドルを持つ。
- 弓の柄を持つ。
- ヒモの端を持つ。
③「身に着ける・携帯する」
- 小銭を持つ。
- 財布を持つ。
- ハンカチを持つ。
④「自分のものにする・所有する」
- 車を持つ。
- 店舗を持つ。
- 物件を持つ。
⑤「権利や資格などを備える」
- 資格を持つ。
- 選挙権を持つ。
- 基本的人権を持つ。
⑤「受け持つ・担当する」
- 役目を持つ。
- 新入生を受け持つ。
- ライターの仕事を持つ。
⑥「負担する」
- 送料はこちらが持つ。
- 責任は私が持つ。
- 家賃は借主が持つ。
⑦「家族・友人などを得る」
- 持つべきものは、友達だ。
- よい息子さんをお持ちですね。
- 結婚して家庭を持つことになった。
⑧「性質や状態などを有する」
- 音楽の才能を持つ。
- しゃべりの才能を持つ。
- スポーツの素質を持つ。
以上、8つの意味を紹介しました。どれも人が持つことで成り立っている言葉ということが分かるかと思います。
意味自体は多いですが、実際に人が持ったり所有するという共通点があるため、比較的覚えやすい言葉であると言えます。
「もつ」の使い方
続いて、「もつ」の使い方です。
①「状態を保つ・持ちこたえる」
- この食品は夏場でも1ヵ月はもつ。
- 10年はもつ丈夫なパソコン。
- 体がもつかどうか心配である。
②「支える・保つ」
- 肩をもつような発言をする。
- あの店は常連客でもっている。
- 今の生活は副業でもっている。
- A商品のおかげで経営がもっている。
こちらは「持つ」に比べて意味が多くありません。主に食品だったり商品だったり、人以外を対象とするのが特徴と言えます。
また、「生活」や「経営」など、具体的な形がない抽象的な対象にも使われます。
漢字とひらがなの両方を使う場合
場合によっては、「漢字」と「ひらがな」の両方を使うこともあります。それは、「気持ちや感情などを心に抱く」という意味の場合です。
この意味で使われるケースは意外と多いため、以下に用例を紹介しておきます。
- 悩みを持(も)つ。
- 自信を持(も)つ。
- 興味を持(も)つ。
- 頑張る意欲を持(も)つ。
- 憎しみの感情を持(も)つ。
- 悲しい気持ちを持(も)つ。
- 疑いの気持ちを持(も)つ。
- 人生に希望を持(も)つ。
- 大きな夢を持(も)つ。
- 政治に関心を持(も)つ。
- 自分なりの考えを持(も)つ。
- 勇気を持(も)つように伝える。
- 社会人としての自覚を持(も)つ。
- 芸能人に対して憧れを持(も)つ。
- 社長と話す機会を持(も)つ。
このように、人の頭の中に何かしらの感情が生まれるような場合は、どちらを使うかがはっきりと決まっていません。
「感情」というのは人が持つものですが、実際に手に取ったり触ったりできるものではないです。そのため、両者の使い分けが明確になっていないのでしょう。
公用文での表記・使い分け
国や地方公共団体などが書く「公用文」「公文書」などでは、両者は概ね次のような使い分けがされています。
「持つ」⇒実際に手で持ったり備えたりするような場合。
「もつ」⇒感情や考え方に対して使うような場合。
以下、実際の各ホームページから引用したものです。
表記:「持つ」⇒かばんを持つ・財産を持つ・才能を持つ。
表記:「もつ」⇒役目をもつ・希望をもつ・勇気をもつ。
使用していきたい表記(〇)⇒「荷物を持つ」「関心をもつ・考え方をもつ」
使用を避ける表記(△)⇒「荷物をもつ」「関心を持つ・考え方を持つ」
(知識を)持つ(公用文)
出典:千葉市教育センター「用字用語例」
ご覧のように、すでに説明した使い分けとほぼ同じような記述が載っています。
「持つ」の方は、かばんや財産など人が実際に持てるものに使われています。知識や才能なども人が持てるものです。
対して、「もつ」の方は、関心や考え方など人の気持ちの部分に対して使われています。
一般的な文章の場合、「人の気持ち」に関してはどちらも使うことができますが、公用文ではひらがなの方を推奨しているようです。
特に、奈良県の国語教育研究会では、使用を避ける表記(△)⇒「荷物をもつ」「関心を持つ・考え方を持つ」とも書かれています。
したがって、感情や気持ちに対しては、公用文はひらがなを用いることになります。
ただ、漢字の方を使っても決して間違いということではありません。あくまで、公用文の場合はひらがなを使った方が「望ましい」ということです。
まとめ
以上、今回は「持つ」と「もつ」の違い・使い分けについて解説しました。内容をまとめると、以下のようになります。
「持つ」⇒実際に人が持ったり所有するような場合。
「もつ」⇒それ以外の場合に使う。
その他、気持ちや感情などを心に抱く場合は「持つ」と「もつ」の両方を使う。ただ、「公用文」については、感情や気持ちを表す際は「もつ」を使うことを推奨。
「持つ」と「もつ」は普段からよく使われており、義務教育でも習うほどの平易な漢字です。この機会にぜひ使い分けを覚えて頂ければと思います。