『ミロのヴィーナス』は、国語の教科書に取り上げられることの多い作品です。
清岡卓行という作者によって書かれたもので、特に高校現代文ではテストの問題としてよく出題されます。ただ、作中に登場する言葉は読解する上でなかなか理解しにくいものもあります。
そこで本記事では、『ミロのヴィーナス』に登場する言葉の意味を一覧にして簡単にまとめました。
第一段落の言葉の意味
【ミロのヴィーナス】⇒古代ギリシャの大理石製のビーナス像。前130~前120年頃の作。1820年にエーゲ海のミロス島で発見された。「ヴィーナス」とは「美と愛の女神」を表す。
【魅惑的(みわくてき)】⇒人の心をひきつけ、惑わせるさま。
【ふと】⇒思いがけず。不意に。
【~にとらわれる】⇒~のような感情や価値観などにしばられる。かられる。
【あずかり知らぬ】⇒関与しておらず、それについて何も知っていないさま。※「あずかる(与る)」とは「関わる。関係する」という意で、「与り知る」(関わって知っている)を否定した表現。
【運命(うんめい)】⇒将来の成り行き。今後どのようになるかということ。
第二段落の言葉の意味
【パロス】⇒メロス島に近いエーゲ海の島。緻密で良質の大理石を産する。
【大理石(だいりせき)】⇒石灰岩が変成作用を受けてできた粗粒の方解石(ほうかいせき)から成る岩石。「方解石」とは炭酸カルシウムから成る鉱物。
【メロス島(メロスとう)】⇒ミロス島。ギリシャ南東部、エーゲ海にある島。エーゲ文明の中心地として栄え、1820年にミロのヴィーナスが発見されたことで有名。
【発掘(はっくつ)】⇒地中に埋もれているものを掘り出すこと。
【ルーヴル美術館】⇒フランス国立美術博物館。もと王宮で、1793年以来、美術館となった。「ミロのヴィーナス」や「モナリザ」をはじめとする数々の名作を所蔵する。
【故郷(こきょう) 】⇒生まれ育った土地。ふるさと。
【生臭い(なまぐさい)】⇒ここでは、直後の「国境を渡っていく」「時代を超えていく」と対をなして、両腕のありかが現実的な場所であることを表している。
【特殊(とくしゅ)】⇒限られた範囲のものにしかあてはまらないこと。また、そのさま。⇔「普遍」。
【普遍(ふへん)】⇒全体に広く行き渡ること。例外なくすべてのものにあてはまること。⇔「特殊」。
【巧まざる(たくまざる)】⇒意図しない。当人が意識しないで自然に表れる。
【跳躍(ちょうやく)】⇒はねあがること。とびあがること。※「巧まざる跳躍」で「特殊から普遍への急激な展開が、意図してのことではなく、偶然もたらせること」を意味する。
【部分的(ぶぶんてき)】⇒全体のうち、一部分に限って関係のあるさま。
【具象(ぐしょう)】⇒ はっきりした姿・形を備えていること。具体。
【放棄(ほうき)】⇒投げ捨ててかえりみないこと。※「部分的な具象の放棄」で、ここでは「ヴィーナスが両腕を失ったこと」を意味する。
【全体性(ぜんたいせい)】⇒一個の事物が一つのまとまりをもち、さらに細かい部分に割ることによってその特質が失われてしまうようなとき、そこにみられる独自の構造や機能上の特性をいう。
【偶然(ぐうぜん)】⇒何の因果関係もなく、予期しないことが起こること。⇔「必然」。
【肉薄(にくはく)】⇒すぐ近くまで追い迫ること。※「ある全体性への偶然の肉薄」で、ここでは「ヴィーナスが両腕を失うことにより、心象的な表現として普遍的な全体性に迫っていること」を表す。
第三段落の言葉の意味
【逆説(ぎゃくせつ)】⇒一見、真理にそむいているようにみえて、実は一面の真理を言い表している表現。
【弄する(ろうする)】⇒もてあそぶ。思うままに操る。「逆説を弄する」で、「相手を言い負かすために、意図的に事実に反した逆説でもてあそぶこと」を表す。
【実感(じっかん)】⇒実際に事物や情景に接したときに得られる感覚。
【高雅(こうが)】⇒気高く優雅なこと。上品でみやびやかなこと。
【豊満(ほうまん)】⇒(女性の)体の肉づきのよいこと。
【合致(がっち)】⇒ぴったり合うこと。一致すること。「驚くべき合致」で、ここでは「普通はなかなか両立しない肉体の豊かさと気高さが見事に両立し、両者が一体となっていること」を表す。
【典型(てんけい)】⇒一般的・本質的なものを、最もよく端的に表している形象。代表例となるもの。
【うねり】⇒緩く曲がりくねること。
【均整(きんせい)】⇒全体的につりあいがとれて整っていること。※「均整の魔」で、ここでは「人の心を惑わせるほどつりあいがとれていて、美しいこと」を表す。
【神秘的(しんぴてき)】⇒通常の認識や理論を超えて、不思議な感じのするさま。
【多様性(たようせい)】⇒いろいろな種類や傾向のものがあること。※「生命の多様な可能性の夢」で、ここでは「ミロのヴィーナスの失われた両腕が、ないことによって逆に多様なありかたを夢想させるさま」を表す。
【深々(ふかぶか)】⇒いかにも深く感じられるさま。
【暗示(あんじ)】⇒物事を明確には示さず、手がかりを与えてそれとなく知らせること。
【心象的(しんしょうてき)】⇒心の中に姿や形が描き出されるさま。※「心象的な表現」で、ここでは「心の中にイメージとして浮かんだ表現」を意味する。
第四段落の言葉の意味
【復元(ふくげん)】⇒もとの形態・位置に戻すこと。
【興ざめ(きょうざめ)】⇒それまでの楽しい気分や興味が薄れること。
【滑稽(こっけい)】⇒あまりにもばかばかしいこと。
【グロテスク】⇒怪奇なさま。異様。
【原形(げんけい)】⇒もとのかたち。※「失われた原形」で、ここでは「ミロのヴィーナスのもともとの像の形象」を表す。
【客観的(きゃっかんてき)】⇒特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。⇔「主観的」。
【推定(すいてい)】⇒ある事実を手がかりにして、おしはかって決めること。
【正当(せいとう)】⇒道理にかなっていて正しいこと。
【困惑(こんわく)】⇒どうしてよいか判断がつかず迷うこと。
【ひとたび】⇒(副詞的に用いて)いったん。もし。
【次元(じげん)】⇒物事を考えたり行ったりするときの立場や水準。
【遡る(さかのぼる)】⇒物事の過去や根本にたちかえる。
【おびただしい】⇒数や量が非常に多いさま。
【はらむ】⇒中に含み持つ。※「おびただしい夢をはらんでいる」で、ここでは「数えきれないほどの夢を含んでいる」という意味。
第五段落の言葉の意味
【掌(たなごころ)】⇒てのひら。手の裏。
【人柱像(じんちゅうぞう)】⇒人をかたどった柱。
【笏(しゃく)】⇒儀式用の杖。笏杖(しゃくじょう)。
【羞恥(しゅうち)】⇒恥じらい。恥ずかしいと思うこと。
【姿態(したい)】⇒体の線が作り出す外形。体つき。
【単身像(たんしんぞう)】⇒ひとりだけの像。絵画や彫刻などでひとりの姿を題材としたもの。
【群像(ぐんぞう)】⇒絵画や彫刻で、複数の人物の集合した状態を構成して表現したもの。
【実証的(じっしょうてき)】⇒思考だけでなく、体験に基づく事実などによって結論づけられるさま。
【想像的(そうぞうてき)】⇒実際には経験していない事柄などを推し量るさま。
【否認(ひにん)】⇒事実として認めないこと。承認しないこと。
第六段落の言葉の意味
【興味(きょうみ)】⇒ある対象に対する特別の関心。
【乳房(ちぶさ)】⇒哺乳類の胸や腹にある皮膚の隆起した乳腺の開口部。
【もぎとる】⇒無理にねじり取る。ちぎりとる。
【損なう(そこなう)】⇒物を壊してだめにする。傷つける。
【変幻自在(へんげんじざい)】⇒思いのままに変化するさま。変化がすみやかで自由なこと。
【生命(せいめい)】⇒生物が生物でありつづける根源。いのち。
第七段落の言葉の意味
【彫刻(ちょうこく)】⇒木・石・金属などを彫り刻んで立体的な像につくり上げること。また、その作品。
【トルソ】⇒頭部、腕、脚を持たない胴体だけの彫像。(人体の胴の意。「トルソー」とも)
【美学(びがく)】⇒美しさに関する独特の考え方やこだわり。※「トルソの美学」で、ここでは「人体全体ではなく、胴体の表現にのみ注目した彫像としての美しさを追求すること」を意味する。
【きりつめていえば】⇒簡単に言えば。「きりつめる」とは「ものの一部分を切り取って短くする」という意味。
【象徴的(しょうちょうてき)】⇒ある物事を象徴するさま。「象徴」とは「形のないものを形のあるもので表すこと」。
【根源的(こんげんてき)】⇒ある物事を成立させる一番もとのものであるさま。 大もとであるさま。
【象徴(しょうちょう)】⇒形のないものを形のあるもので表すこと。抽象的な思想・観念・事物などを、具体的な事物によって理解しやすい形で表すこと。
【千変万化(せんぺんばんか)】⇒さまざまに変化すること。場面、事態、様子などが、次々と変化していくこと。
【媒介(ばいかい)】⇒両方の間に立って、仲立ちをすること。とりもつこと。
【原則的(げんそくてき)】⇒原則が関わるさま。基本的なきまりや法則に従っているさま。
【方式(ほうしき)】⇒ある一定のやり方。
【哲学者(てつがくしゃ)】⇒哲学を研究する学者。哲学とは世界や人生などの根本原理を追求する学問を表す。
【比喩(ひゆ)】⇒何かを他の何かに置きかえて表現すること。
【まことに】⇒本当に。
【こよなく】⇒この上なく。
【讃えた(たたえた)】⇒ほめた。
【述懐(じゅっかい)】⇒心の中の思いを述べること。
【厳粛(げんしゅく)】⇒おごそかで、心が引きしまるさま。※「厳粛な響きを持っている」で、ここでは「おごそかに聞こえる」という意味。
【人間的(にんげんてき)】⇒人間らしい性質・感情などがあるさま。
【アイロニー】⇒皮肉。反語。※ここでは、本来、世界、他人、自己との関係のあり方を象徴する手が失われることにより、かえって、あらゆる関係のあり方が想像されることを意味する。
【呈示する(ていじする)】⇒差し出して見せる。
【欠落(けつらく)】⇒一部分が欠け落ちること。
【夢を奏でる(ゆめをかなでる)】⇒(不在の手が)美しい夢を生み出す。「奏でる」は本来「楽器などを演奏する」という意味だが、ここでは「生み出す」という比喩表現として使われている。
まとめ
以上、今回は『ミロのヴィーナス』に出てくる重要語句を一覧にしてまとめました。言葉の意味が分かれば、現代文を読解する上でも役に立つはずです。なお、本文の要約やあらすじ、テスト対策などについては以下の記事にて解説しています。