「後塵を拝する」という慣用句をご存知ですか?
中国の故事が元になった言葉ですが、最近ではビジネスにおいて使われることも多くなりました。ただ、具体的な使い方がなかなかイメージしにくいと感じる人も多いと思われます。
そこで今回は、「後塵を拝する」の意味や語源、類義語・対義語などを含め詳しく解説しました。
後塵を拝するの意味・読み方
最初に、この言葉を辞書で引いてみます。
【後塵を拝する(こうじんをはいする)】
①他人に先んじられる。後れをとる。
②身分の高い人や勢力のある人につき従う。
出典:三省堂 大辞林
「後塵を拝する」は「こうじんをはいする」と読みます。
意味は二つあり、一つ目は「①他人に先を行かれる・後れをとる」という意味です。
この場合は、「ライバル会社に先を行かれた」という意味です。
そして二つ目は「②身分の高い人や力のある人に付き従う」という意味です。
つまり、「国王に付き従うように参列した」ということです。
両者の大まかなイメージですが、①は「誰かに追い抜かれるような様子」、②は「偉い人にペコペコ従うような様子」を想像すると分かりやすいかと思います。
どちらの意味でも使うことができますが、一般的には①の意味として使われることの方が多いです。
後塵を拝するの語源・由来
「後塵を拝する」は、中国の『晋書(しんじょ)』という書物が元となっています。「晋書」とは中国晋王朝(西晋・東晋)について書かれた歴史書のことです。
「晋書」の中の一節に、次のような話が残されています。
広城君(こうじょうくん)と呼ばれる権力者が馬車で外出するたびに、石崇(せきこう)という家来が舞い上がる後塵に向かって拝するように見送った。
「後塵」とは「人や馬車が通った後に舞い上がる土ぼこり」のことです。現在でも、「塵」は「ちり」とも読める漢字です。そして、「拝する」とは「拝見」「拝借」などの言葉があるように「ありがたく拝む」という意味です。
よって、先ほどの文を簡単に訳しますと、「先を行く人の土ぼこりを、ありがたく拝む」という意味になります。
つまり、元々は「身分の高い人や権力者にこびへつらう」という意味だったわけです。転じて、現在では主に「先を行かれる・遅れをとる」という意味で使われていることになります。
後塵を拝するの類義語
続いて、「後塵を拝する」の類義語を紹介します。
「後塵を拝する」は「誰かの後ろの順位になること」を意味します。言い換えれば、「負ける」ということです。したがって、「誰かに負けること・敗北すること」などの言葉も類義語となります。
また、「権力者に付き従う」という意味では「ゴマをする」「ペコペコする」「こびへつらう」「機嫌を取る」などで言い換えることも可能です。
後塵を拝するの対義語
逆に、「対義語」としては以下のような言葉が挙げられます。
- 先を行く
- 追い抜く
- 先手に回る
- 優位に立つ
こちらは「他人に対して先を行く」という意味の言葉となります。その他、ことわざだと「早いが勝ち」、四字熟語だと「先手必勝」なども反対語に含まれます。
後塵を拝するの英語訳
「後塵を拝する」は、英語だと次のように言います。
「play second fiddle to」
「take second billing to」
「fiddle」は「バイオリン」を意味するので、「play second fiddle to」で「第二バイオリンを引く」という訳です。転じて、「(人の)後ろにつく」という意味で使うことができます。
また、「billing」とは「順位・序列」という意味です。こちらは、「二番目の順位を取る」という訳になります。
例文だと、それぞれ次のような形です。
He played second fiddle to her. (彼は彼女の後塵を拝することになった。)
He took second billing to his junior.(彼は後輩の後塵を拝することになった。)
後塵を拝するの使い方・例文
最後に、「後塵を拝する」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 彼は若いうちに出世したが、その後は部下の後塵を拝することになった。
- 学校の勉強や部活などにおいては、私は常に彼の後塵を拝していた。
- 幼なじみの彼女の後塵を拝することになるとは、夢にも思わなかった。
- 来期の決算だが、予想通り行けばライバル会社の後塵を拝する形となるだろう。
- バレンタイン商戦では、残念ながら他社の後塵を拝する結果に終わりました。
- 先生の後塵を拝して、無事、大学へ合格することができたので感謝します。
「後塵を拝する」は「先を行かれる・後れをとる」もしくは「権力者に付き従う」などの意味でした。
ただし、例文を見ても分かるように、やはり「先を行かれる・後れを取る」という意味で使われることの方が多いです。
特にビジネスでの商戦に使われることが多いと言えます。ビジネスの世界では、常にライバル会社との競争にさらされています。「今年は勝てそうだ・・・でも、ライバル会社に負けてしまった」などのような状況になることが多々あります。
そんな時に、「他社に先を行かれた」という意味で「後塵を拝する」を使うわけです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「後塵を拝する」=①他人に先を行かれる・後れをとる。②身分の高い人や権力者にこびへつらう。
「語源・由来」=先を行く人の土ぼこりを、ありがたく拝むことから。(後塵とは後ろに舞い上がるチリのこと。)
「類義語」=「後手に回る・引けを取る・機先を制される・こびへつらう・追従する」
「英語訳」=「play second fiddle to」「take second billing to」
「後塵を拝する」は様々な場面で使うことのできる慣用句です。特にビジネスで使われる機会が多いので、これを機に正しい使い方を覚えておきましょう。