「甲乙つけがたい」という慣用句があります。普段の会話だけでなく、ビジネスにおいても使われている表現です。
ただ、この「甲乙」とはそもそも何を指しているのかという疑問があります。そこで本記事では、「甲乙つけがたい」の意味や由来、類語などを詳しく解説しました。
甲乙つけがたいの意味・読み方
最初に、この言葉を辞書で引いてみます。
【甲乙つけがたい(こうおつつけがたい)】
⇒二つのものに差がなく、どちらが優れているかを決めるのが難しい。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「甲乙つけがたい」は「こうおつつけがたい」と読みます。意味は、「二つのものに差がなく、どちらが優れているかを決めるのが難しい」ということを表したものです。
例えば、出された二つの料理が両方ともおいしく、どちらが優れているか決めることができないほど悩んだとします。この場合、「どちらも甲乙つけがたい料理だ」などのように言うことができます。
また、料理以外にも例えば、友人から勧められた二つの映画がどちらが面白かったか判断できないほどであれば、「どちらも甲乙つけがたい映画だった」などのように言うことができます。
つまり、「甲乙つけがたい」とは二つの間に優劣や上下などの差がほとんどない状態を表した慣用句ということになります。もっと簡単に言えば、「一番か二番か、決めるのが難しい」ということです。
甲乙つけがたいの語源・由来
「甲乙つけがたい」の「甲乙」は、古代中国における「十干(じっかん)」と呼ばれる考え方が元になっています。
「十干」とは 「甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己(き)・庚(こう)・辛(しん)・壬(じん)・癸(き)」の10個を総称したものです。
この十干の内、「甲」と「乙」はそれぞれ一番目と二番目に配置されています。当時の中国では、学校の成績や人の評価などを数字で表すのではなく、十干で表していました。
そのため、第一位と第二位を決めるのは難しいという意味で「甲乙つけがたい(甲乙つけるのは難しい)」などと表現していたのです。現在日本で使われている「甲乙つけがたい」は、この時代の使い方が元になっていると言われています。
十干の考え方は「殷」の時代にはすでにあり、その後「周」の時代になると十二支と組み合わさって用いられるようになりました。
さらに、漢代に入ると陰陽五行説と合わさり、
- 「木」⇒甲(きのえ)乙(きのと)
- 「火」⇒丙(ひのえ)丁(ひのと)
- 「土」⇒戊(つちのえ)己(つちのと)
- 「金」⇒庚(かのえ)辛(かのと)
- 「水」⇒壬(みずのえ)癸(みずのと)
のように二つずつ五行に配当されるようになりました。この考え方が今も使われている東洋の占術の基本となっています。
甲と乙はどっちが上か?
「甲」と「乙」は、元々は一番目と二番目を指した漢字です。したがって、優れているのは「甲」の方となります。
現在でも不動産の契約書などは、売主を「甲」、買主を「乙」、貸主を「甲」、借主を「乙」と定めています。これは、売主と貸主がそれぞれ立場的に上であるためだと言えます。
その他には、企業間で交わされる契約書なども、大企業を「甲」、中小企業を「乙」と定めているようです。一般的には最初に記される方が、立場的に上で偉い者であることが多いです。
なお、すでに説明したようにここでの「甲乙」は「一番目」と「二番目」を指しているので、3つ以上で競っているような場合は「甲乙付けがたい」とは言いません。この点は、注意する必要があります。
甲乙つけがたいの類義語
「甲乙つけがたい」は、次のような類義語で言い換えることができます。
- 優劣つけがたい
- 五分五分の
- 実力伯仲の
- 拮抗した
- ほとんど差がない
- 負けず劣らず
- どちらとも言えない
- 何とも言えない
- 判断しがたい
- 判断しかねる
「甲乙つけがたい」は、二者の能力や実力が拮抗していることを表す慣用句です。
したがって、この中だと「優劣つけがたい」「拮抗した」「ほとんど差がない」などは近い意味の表現だと言えます。この三つに関しては、「同義語」と定義しても構いません。
他には、「判断しがたい」などのように判断に迷っている様子を表す表現も類義語だと言えます。
甲乙つけがたいの対義語
逆に、「対義語」としては以下の言葉が挙げられます。
- 明白な
- 顕著な
- 明らかな
- はっきりとした
- 歴然たる
- 判然とした
- 理解しやすい
- 見誤りようのない
- 一目瞭然
反対語の場合は、「二者の実力差がはっきりとしていること」を表した言葉となります。別の言い方をするなら、「簡単に判断できる」ということです。
甲乙つけがたいの英語訳
「甲乙つけがたい」は英語だと次のように言います。
「It’s difficult to decide which is better.」(どちらが良いか決めるのは難しい。)
「It’s hard to tell which one is better.」(どっちが良いか説明するのは難しい)
他には、簡易的な表現だと「I think it’s a toss up.(それは甲乙つけがたいね。)」なども可能です。「toss up」は直訳すると「コインを投げ上げること」という意味です。
コインを上に投げると、表と裏が出る確率が五分五分なので、「五分五分」⇒「決めるのが難しい」⇒「甲乙つけがたい」という訳になります。
甲乙つけがたいの使い方・例文
最後に、「甲乙つけがたい」の使い方を例文で紹介しておきます。
- ラーメンとカレーはどちらもおいしいので、私にとっては甲乙つけがたい。
- どちらも素晴らしい出来栄えの作品で、甲乙つけがたいものであった。
- 決勝戦は実力が伯仲した試合となり、内容としては甲乙つけがたいものでした。
- 今回の判定は、審査員としても甲乙つけがたいものだったのではないでしょうか。
- 両方ともすばらしい提案だったので、甲乙つけがたいとはまさにこの事でした。
- 最終選考まで残った二人ですが、どちらも素晴らしい才能の持ち主で甲乙つけがたいです。
「甲乙つけがたい」は、「一位か二位を決めるのは難しい」という意味の慣用句でした。
したがって、基本的には良い意味の褒め言葉として使われる言葉と考えて問題ありません。ビジネスシーンなどにおいても、多くは才能や能力があふれている者同士を対象とします。
逆に、悪い意味の言葉としては使われないので注意して下さい。例えば、優れていない者同士の比較をする際にはこの言葉は使いません。優れていない者同士の比較をする際は、「どんぐりの背比べ」という別の慣用句を用いるようにします。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「甲乙つけがたい」=二つのものに差がなく、どちらが優れているかを決めるのが難しい。
「語源・由来」=「甲乙」は「一番目と二番目」を指すため。古代中国における「十干」と呼ばれる考え方。
「類義語」=「優劣つけがたい・五分五分の・拮抗した・ほとんど差がない・判断しがたい」など。
「対義語」=「明白な・顕著な・はっきりとした・明らかな・理解しやすい・一目瞭然」など。
「英語訳」=「It’s difficult to decide which is better.」「It’s hard to tell which one is better.」
「甲乙」は、殷や周の時代からあった十干が元になっています。由来を知ったからには、ぜひ正しい使い方をして頂ければと思います。