『攻撃と共存』は、山極寿一氏による評論文です。教科書・現代の国語にも採用されています。
ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる人も多いです。そこで今回は、『攻撃と共存』のあらすじや要約、語句の意味などを解説しました。
『攻撃と共存』のあらすじ
かつて、戦争は人間の本能の所産と考えられた時代があった。戦争は人間の進化にともなう不可避の現象であり、人間にとって最も効果的な調停の手段だと見なされていたのだ。だが、その後の調査で、長い人類史の中で戦争を是として暮らしたのはほんの数千年のことであることが分かった。また、人間に近いサルや類人猿の攻撃行動も、正の意味があることが明らかになった。
本来、攻撃とは互いの関係を認知し、双方の主張に沿って行動を変えるための共存の手段である。サルやゴリラ、チンパンジーなども、攻撃と共存が同時に成り立つような行動をとったりする。
現代の戦争は、われわれの祖先がサルや類人猿から受け継いだ「仲間と共存するために必要な攻撃性」とは質が異なるように見える。戦争に不可欠な「相手を抹消するための攻撃性」は、相手との関係を変更不能なものと決めつけ、自然界には存在しない頑固で醜悪な敵を仮定したときに生まれてくる。
戦争や暴力が、人間本来の性質だという声もあるが、生物学者は安易にその風潮を支持してはならない。相手を抹殺することによって、自分を守れるという誤った幻想は捨てるべきだ。われわれの祖先が発達させてきた攻撃性は、弱者が強者の対立に終止符を打ち、勝敗を決せずに共存する方法を教えてくれるはずだ。抹消しなければいけない人間など、この世には存在しない。今こそ、人間は類人猿の社会を見習うべきである。
『攻撃と共存』の要約&本文解説
筆者の主張を簡潔に述べるなら、「類人猿の世界では、攻撃と共存が同時に成り立っており、今の人間はその精神世界を参考にすべきである」ということになります。
かつて、戦争というのは、人間の本能が作り出したものだと考えられている時代がありました。しかし、人類の長い進化史の中で、戦争を是として暮らしたのは、ほんの最近のことだと筆者は述べています。
また、人間に近い類人猿の攻撃行動も、実は負ではなく正の意味があることが明らかになりました。
例えば、サルは攻撃をうまく使いこなすことで、相手の抑制を引き出したり、味方を得たりします。また、ゴリラはドラミング(胸たたき)をすることで、集団の長としてその状況に不満の意を表明し、相手の抑制を引き出そうとしたりします。
このように、「攻撃」というのは、本来は互いの関係を認知し、双方の主張に沿って行動を変えるための共存の手段なのだと筆者は主張します。
ところが、人間は武器の発明により、本来備わっていたはずの、殺傷能力と抑制能力のバランスを失ってしまいました。その結果、人々は武力を使って相手を抹消することで、自分を守れるという誤った考えを持つようになりました。
筆者はこのような、武器や威嚇が調停の手段になるという幻想は捨てるべきだと主張しています。そして今こそ、人間は類人猿の社会を見習い、真摯な目で過去に通ってきた精神世界を見つめ直す時だとも述べています。
『攻撃と共存』の意味調べノート
【所産(しょさん)】⇒ある事の結果として生み出されたもの。作り出したもの。
【著す(あらわす)】⇒書物を書いて出版する。
【製作(せいさく)】⇒品物を作ること。
【由来(ゆらい)】⇒物事がそれを起源とするところ。また、物事が今までたどってきた経過。
【殺戮(さつりく)】⇒むごたらしく多くの人を殺すこと。
【父(ちち)】⇒新しい世界を開いて偉大な業績を残した先駆者。
【抑制(よくせい)】⇒おさえとどめること。
【不可避(ふかひ)】⇒避けようがないこと。
【調停(ちょうてい)】⇒対立する双方の間に立って争いをやめさせること。
【圧迫(あっぱく)】⇒強くおしつけること。
【是(ぜ)】⇒道理にかなっていること。正しいこと。
【駆使(くし)】⇒自由自在に使いこなすこと。
【認知(にんち)】⇒ある事柄をはっきりと認めること。
【仲裁(ちゅうさい)】⇒対立し争っているものの間に入って、仲直りをさせること。
【屈強(くっきょう)】⇒きわめて力が強く頑丈なさま。
【闘争(とうそう)】⇒たたかい争うこと。
【面子(メンツ)】⇒面目。体面。
【威嚇(いかく)】⇒威力でおどすこと。
【象徴(しょうちょう)】⇒抽象的なものを具体的なものによって表現すること。
【長(おさ)】⇒多くの人の上に立ち、統率する人。
【権化(ごんげ)】⇒ある抽象的な特質が、具体的な姿をとって現れたかのように思えるものや人。
【抹殺(まっさつ)】⇒消し去ること。葬り去ること。
【醜悪(しゅうあく)】⇒行いや心がけなどが卑劣で嫌らしいこと。
【必然的(ひつぜんてき)】⇒必ずそうなるさま。
【動乱(どうらん)】⇒世の中が動揺し、乱れること。暴動などの騒ぎ。
【変質(へんしつ)】⇒物事の性質が変わること。
【悲惨(ひさん)】⇒悲しくいたましいこと。みじめなこと。
【煽る(あおる)】⇒たきつける。相手がある行動をするように仕向ける。
【是認(ぜにん)】⇒人の行為や思想などを、良いと認めること。
【安易(あんい)】⇒気楽であること。いいかげんなこと。
【風潮(ふうちょう)】⇒時代の移り変りによって生ずる世の中の傾向。
【幻想(げんそう)】⇒現実にはないことをあるかのように心に思い描いたもの。
【権益(けんえき)】⇒権利と利益。
【肯定(こうてい)】⇒そのとおりであると認めること。積極的に意義を認めること。
【真摯(しんし)】⇒真面目で熱心なこと。
『攻撃と共存』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①努力のショサン。
②価格上昇をヨクセイする。
③最新の技術をクシする。
④喧嘩のチュウサイが行われる。
⑤クッキョウな肉体の男。
⑥悪のゴンゲのような人物。
⑦ゲンソウを抱く。
⑧社会からマッサツされる。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)攻撃とは、互いの関係を認知し、双方の主張に沿って行動を変えるための共存の手段である。
(イ)現代の戦争は、われわれの祖先がサルや類人猿から受け継いだ「仲間と共存するための必要な攻撃性」と近しいものがある。
(ウ)生物学者は、戦争や暴力を是認することが人間本来の性質だとするような風潮を、安易に支持するような意見を言うべきではない。
(エ)われわれの祖先が発達させてきた攻撃性は、弱者が勝者の対立に終止符を打ち、勝敗を決せずに共存する方法を教えてくれるはずだ。
まとめ
以上、今回は『攻撃と共存』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。