『小諸なる古城のほとり』は、島崎藤村による近代詩です。教科書・文学国語においても学習します。
ただ、この詩を読むと内容や形式が分かりにくいと感じる部分も多いです。そこで今回は、『小諸なる古城のほとり』の現代語訳や意味調べ、テーマなどをわかりやすく解説しました。
『小諸なる古城のほとり』の原文
第一連
小諸なる古城のほとり
雲白く遊子(いうし)悲しむ
緑なす繁蔞(はこべ)は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡邊
日に溶けて淡雪流る
第二連
あたゝかき光はあれど
野に滿つる香(かをり)も知らず
淺くのみ春は霞みて
麥の色わづかに靑し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ
第三連
暮れ行けば淺間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む
『小諸なる古城のほとり』の現代語訳
第一連
小諸にある古城の近くで、
白い雲が漂い、旅人は悲しい気持ちになる。
青々とした繁蔞(はこべ)は芽吹かず、
若草も敷物にできるほど成長していない。
銀色の布のように見える丘の雪は、
日の光で溶けて淡く流れ落ちていく。
第二連
暖かい光が降り注いではいるものの、
野原には春の香りがまだ満ちていない。
春はかすかに霞んでいるだけで、
麦の葉はほんの少し青く色づいているだけだ。
いくつもの旅人の一行が、
畑の中の道を急いで通り過ぎていく。
第三連
日が暮れていくと浅間山も見えなくなり、
佐久の草笛の音が哀しく響く。
千曲川の揺れる波の近くにある、
川沿いの宿に辿り着いた。
濁り酒を濁ったまま飲みながら、
旅の疲れを草枕でひととき癒やすのだった。
『小諸なる古城のほとり』の意味調べノート
【ほとり】⇒すぐそば。かたわら。
【古城(こじょう)】⇒古い城。
【遊子(ゆうし)】⇒旅人。家を離れて他郷にいる人。
【緑なす(みどりなす)】⇒草や木の葉が緑に茂る。
【萌えず(もえず)】⇒芽吹かない。※「萌える」とは「草木が芽を出す。芽ぐむ。」という意味。
【よしなし】⇒十分ではない。若草の上に腰を下ろすほど十分には生えていない、という意味。「はこべ」「若草」の描写が、春がまだ浅いことを示している。
【しろがね】⇒銀色。雪をたとえるの用いる表現。
【岡辺(おかべ)】⇒丘の辺り。丘のほとり。
【淡雪(あわゆき)】⇒春先の、薄く積もった溶けやすい雪。
【あれど】⇒あるけれども。
【満つる(みつる)】⇒満たす。いっぱいにする。「満つ」の連体形。
【浅くのみ春は霞みて(あさくのみはるはかすみて)】⇒ただ浅く春霞(はるがすみ)が立ち込めて。
【はつかに】⇒わずかに。※「麦の色」は、春はわずかに青く、収穫する初夏に黄色くなるため。
【畠中(はたなか)】⇒畑の中の道。
【急ぎぬ(いそぎぬ)】⇒急いでいた。「ぬ」は完了の助動詞を表す。
【草笛(くさぶえ)】⇒草の葉を口にあて、笛のように吹いて鳴らすもの。
【いざよふ】⇒進もうとして進めないでいる。
【濁り酒濁れる(にごりざけにごれる)】⇒白く濁っている酒の、濁っているのを。※「濁り酒」とは「麹 (こうじ) の糟 (かす) をこしてない、白く濁った酒」のこと。
【草枕(くさまくら)】⇒旅寝すること。旅先でのわびしい宿り。
【しばし】⇒しばらく
【慰む(なぐさむ)】⇒慰める。
『小諸なる古城のほとり』の主題(テーマ)
この詩の主題は、「旅人の孤独」と「自然の中で感じる人生のはかなさ」です。以下のポイントで説明します。
-
孤独感
詩の冒頭で「遊子悲しむ」とあります。この「遊子」とは旅をしている人、つまり作者自身を指しています。旅先での寂しさや故郷への思いを、自然の情景を重ねて描いています。 -
自然の美しさとはかなさ
自然の描写が多く登場しますが、それらは静かで動きが少なく、春の訪れもまだ浅い状態です。これは、生命のはかなさや、作者が感じた虚無感を象徴しています。 -
人間の存在の小ささ
川や山といった雄大な自然に比べて、旅人は孤独で小さな存在に見えます。自然の中で人間が感じる「自分の無力さ」を描いているといえます。
具体的な内容の解釈
第一連
「小諸なる古城のほとり」という場所の紹介から始まり、旅人が寂しさを感じる心情が表現されています。
- 自然の描写(緑や雪)は美しいけれど、どこか寒々しい印象です。「春の兆しがあるけれど、まだ本格的ではない」という状況が、旅人の「期待と現実のギャップ」を感じさせます。
第二連
暖かい春の光は感じられるけれど、草花の香りが満ちていない。
- これは「目には見えても実感がない」という状態を表しています。例えば、遠くに春が見えるけれど、手が届かない。これが旅人の孤独感や人生の空虚感とつながっています。
「旅人の群」が畑の中の道を急いで通る様子から、他の人々が自分とは違う「目的」に向かって進んでいることを感じ取り、作者はさらに孤独を意識します。
第三連
夕方になると浅間山も見えなくなり、草笛の哀しい音が聞こえる。
- 日が暮れることで、さらに寂しさが増し、旅先での孤独感が深まります。
- 宿にたどり着いて濁り酒を飲む場面では、酒に頼ることで寂しさを一時的に癒そうとする姿が描かれています。
最後の「草枕」という言葉は、「旅の途中で一晩を過ごす」という意味です。一時的に心を慰めても、旅は続く。これが人生そのもののようにも読めます。
作者が読者に伝えたいことは?
藤村は、この詩を通して「人間が生きることの切なさ」や「人生の旅路における孤独さ」を表現しています。特に、次のようなことを感じ取ることができます。
- 自然の中で人間は小さく、人生は一人で歩んでいくものだということ。
- それでも自然の美しさやはかなさを感じながら生きることで、人生には深い意味があるということ。
また、この作品は、「旅先で感じる寂しさや孤独」を描いた詩です。自然の風景や季節の移り変わりを通して、作者が抱いた切ない気持ちを表現しています。
- 人間の孤独や人生のはかなさを、美しい自然描写で伝えている。
- 春が近づいているけれど、まだ本格的ではない自然の様子が「寂しい心」とつながっている。
- 酒を飲みながら「しばし慰む」という部分が、現実の中でどうやって孤独に向き合うかを象徴している。
藤村はこの詩を通して、「自然と共に生きることで、人間の小ささを受け入れ、孤独と付き合うことができる」という静かなメッセージを伝えているのです。
まとめ
今回は、『小諸なる古城のほとり』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。