勝って兜の緒を締めよ 意味  使い方 語源 由来

「勝って兜の緒を締めよ」ということわざをご存知でしょうか?元々は戦国時代に生まれたことわざで、現在ではスポーツやビジネスシーンにおいても使われています。

ただ、何となく武将に関係していそうなものの、そもそも誰の言葉なのかと疑問に思う人も多いはずです。そこで今回は、「勝って兜の緒を締めよ」の意味や語源、英語、対義語などを詳しく解説しました。

勝って兜の緒を締めよの意味・読み方

 

最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。

【勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ)】

敵に勝っても油断しないで、心を引き締めよ、というたとえ。

出典: デジタル大辞泉(小学館)

勝って兜の緒を締めよ」は、「かってかぶとのおをしめよ」と読みます。

意味は「敵に勝っても油断せずに、心を引き締めることが大切である」という教訓を表したものです。

例えば、スポーツの世界ではチームが勝ったことにより、逆にその後の調子が悪くなってしまうようなことがあります。これは選手が浮かれてしまったり、調子に乗ってしまったりなど様々な原因が考えれます。

そこでこのような場面では、試合に勝利しても選手が浮かれないようにするために、「勝って兜の緒を締めよ。」と言われることがあります。つまり、「勝利に油断せずに、これからも心を気を引き締めるように」という意味です。

物事がうまくいっている時というのは、なかなか気持ちを引き締めるようなことはできません。通常であれば、勝利が続くと浮かれて調子にのってしまうのが人の心理です。

「勝って兜の緒を締めよ」には「物事が上手くいる時こそ、さらに気を引き締めなさい」という先人の教訓が込められていることになります。

勝って兜の緒を締めよの語源・由来

 

「勝って兜の緒を締めよ」の「勝って」は、文字通り「勝つこと」を意味します。

そして、「兜の緒」とは「兜を頭にしっかりと固定するための紐(ひも)のこと」を指します。戦国武将たちが身につける頭を守るための防具を「兜」と言い、その兜を止める紐のことを「緒」と言うのです。

最後に、「締めよ」とは「紐が緩まないように引っ張って結びなさい」という意味です。これらを合わせると、「勝っている時は、兜の紐をしっかり結びなさい」という意味になります。

実際に、昔の武将たちは勝利に安心するとすぐに兜を外してしまうことがありました。そうした時に攻撃されると、無防備なのでたちまち戦いには負けてしまいます。だからこそ、「勝っていても兜の紐は緩めるな」と戒めているわけです。

このような経験から徐々に、「物事が上手くいっている時は、気を引き締めなさい」という意味のことわざが使われるようになったと言われています。

では、このことわざは誰の言葉なのかと言いますと、戦国武将である北条氏綱(ほうじょううじつな)”1487 ~ 1541”の言葉が由来です。

「氏綱」は、息子である氏康(うじやす)に『五箇条の訓戒(ごかじょうのくんかい)』を遺しました。その五つ目に、次のような言葉があります。

「一、手際なる合戦にて夥敷(おびただしき)勝利を得て後、驕(おごり)の心出来し。敵を侮り、或は不行義(ふぎょうぎ)なる事、必(かならず)ある事也。可慎(つつしむべし)。散々如斯候而(さんざんかくのごとくにそうらひて)、滅亡の家、古より多し。此心、万事にわたるそ。勝て甲(かぶと)の緒をしめよ、といふ事忘れ給ふへからす。」

現代語訳は、以下の通りです。

「一、合戦で見事な勝利が続いた後は、驕りの心が生まれる。敵を侮ったり、行儀が悪くなったりすることは、必ずあることだ。これは慎まなければならない。散々このようにして滅亡した家は昔から多い。この精神は何事にも言えることだ。勝って兜の緒を締めよ、ということを忘れてはいけない。」

簡単に要約すると、「勝つと相手を侮り、身を滅ぼす人が多いので、何事にも油断せずに気を引き締めなさい。」という内容です。「勝って兜の緒を締めよ」は、上記の北条氏綱の『五箇条の訓戒』が由来ということになります。

ちなみに、実際にこの言葉が世に大きく広まったのは「東郷平八郎(1848~1934年)」が使い出してからだと言われています。

東郷平八郎は、明治時代の日本海軍で連合艦隊司令長官として日清・日露戦争の勝利に大きく貢献しました。その彼が、戦いに勝った後に気を引き締める意味を込めてこのことわざを使ったわけです。

勝って兜の緒を締めよの類義語

勝って兜の緒を締めよ 類義語 対義語

続いて、「勝って兜の緒を締めよ」の類義語を紹介します。

油断大敵(ゆだんたいてき)】⇒油断は失敗のもとであるから大敵である。「大敵」とは強敵や打ち破りにくい敵を表す。
好事魔多し(こうじまおおし)】⇒良いことにはとにかく邪魔が入りやすい。「好事」は喜ばしいこと、「魔」は人を迷わせ、良いことの妨げとなることを表す。
褌を締めてかかる(ふんどしをしめてかかる)】⇒十分に気持ちを引き締めて物事に取りかかる。「褌」とは日本の伝統的な下着のこと。
敵に勝ちて愈々戒しむ(てきにかちていよいよいましむ)】⇒敵に勝って、ますます気を引き締めること。「愈々」とは「とうとう・ますます」という意味。

この中でも一番よく使われるのが「油断大敵」です。「油断するとその後はロクな事が起きないものである」という教訓が込められた四字熟語です。

その他、「好事魔多し」も「油断大敵」ほどでないですが、比較的よく使われます。良い出来事の後は邪魔が入ってくることが多いので、有頂天になってはいけないという戒めの意味が込められています。

なお、「勝って兜の尾を締めよ」という言い方は誤用なので注意して下さい。語源の章でも説明した通り、「お」は「ひも」のことなので、「尾っぽ」を指しているわけではありません。

勝って兜の緒を締めよの対義語

 

逆に、「対義語」としては以下のような言葉があります。

泳ぎ上手は川で死ぬ(およぎじょうずはかわでしぬ)】⇒自分の力を過信すると、慣れたことや得意な事でも失敗してしまう。川に慣れて泳ぐのが得意な人は、油断して川で死ぬことがあるという意味から。 
才子才に倒れる(さいしさいにたおれる) 】⇒才能にすぐれた人は自分の才能を過信しすぎて、かえって失敗するものである。「才子」とはすぐれた才能を持つ人のことで、多く男性を指す。
驕る平家は久しからず(おごるへいけはひさしからず)】⇒思い上がった振る舞いをする者は、長く栄えずにいずれ滅びるというたとえ。「平氏」とは平清盛の一族のこと、そして「久しからず」とは長い時間は経過しないという意味。

「油断しない」という意味の言葉が類義語なので、反対語は「油断する・過信する」といった意味の言葉となります。

勝って兜の緒を締めよの英語訳

 

「勝って兜の緒を締めよ」は、英語だと次のように言います。

Don‘t halloo till you are out of the wood.(あなたが森から出るまで、大声を出してはいけない。)」

「Halloo」とは「注意を引くための大声」を表す言葉です。「しっ!・おーい!」とも訳します。続く「till」は「~まで(ずっと)」という意味です。「何時から何時まで」のような時間の継続を示します。

最後の「out of the wood」は「困難を乗り越える」という意味の言葉です。「the wood(森)」は、英語圏では「危険な場所」というイメージがあります。そうした場所から、「out」=「外に出る」という意味の言葉です。

これらの単語を合わせると、「危険な場所から抜け出すまでの間、あなたは大声を出してはいけない」という意味になります。言い換えれば、「安心できる状況になるまで、注意していなさい」ということです。

例文も紹介しておくと、以下のようになります。

My teacher told us. “Don‘t halloo till you are out of the wood.”(先生は私たちに教えてくれました。「危険を乗り越えるまで大声を出してはいけない」と。)

勝って兜の緒を締めよの使い方・例文

 

最後に、「勝って兜の緒を締めよ」の使い方を例文で紹介しておきます。

  1. 勝負はまだ続くんだから決して浮かれないように。「勝って兜の緒を締めよ」だよ。
  2. 彼は試合に勝っても「勝って兜の緒を締めよ」とばかりに練習している。さすがである。
  3. 売上一位を達成したが、油断してはいけない。「勝って兜の緒を締めよ」を心がけよう。
  4. 勝って兜の緒を締めよ」を意識しないと、すぐに営業成績を抜かれてしまう。注意しないと。
  5. テストはいい点数だったが、「勝って兜の緒を締めよ」と戒めて次も頑張るつもりです。
  6. プレゼンには成功したが、「勝って兜の緒を締めよ」だ。最後まで気を抜かずに行こう。

 

勝って兜の緒を締めよ」は「勝っている時も気を引き締めるように」と戒める意味を持つことわざです。そのため、基本は物事が上手くいっているような場面で使われます。

例えば、ビジネスが軌道に乗り始めた時や、スポーツで順調に試合に勝ち進んでいるような場面です。こういった調子が良い場面でも、自分自身や部下・仲間達に対して「油断しないように」と注意を促すような意味で使われます。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

勝って兜の緒を締めよ」=敵に勝っても油断せずに、心を引き締めることが大切である。

語源・由来」=勝っている時は、兜の紐を緩めずしっかり結びなさい。北条氏綱『五箇条の訓戒』の言葉から。

類義語」=「油断大敵」「好事魔多し」「褌を締めてかかる」「敵に勝ちて愈々戒しむ」

対義語」=「泳ぎ上手は川で死ぬ・才子才に倒れる・驕る平家は久しからず」

英語訳」=「Don‘t halloo till you are out of the wood.」

日々の仕事が順調な時ほど、実は落とし穴があるものです。今後の人生を有意義にするためにも「勝って兜の緒を締めよ」を意識してみてはいかがでしょうか。