「家書万金に抵る」ということわざがあります。
杜甫の『春望』を由来とするセリフだと言われています。ただ、そもそもなぜこのような言い方をするのか気になる人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「家書万金に抵る」の意味や由来、語源、類語などを詳しく解説しました。
家書万金に抵るの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【家書万金に抵る(かしょばんきんにあたる)】
⇒旅先で受け取る家族からの手紙は万金の値うちがあるほど貴重である。
出典:三省堂 大辞林
「家書万金に抵る」は、「かしょばんきんにあたる」と読みます。
「抵(あた)る」という読み方は聞き慣れませんが、「抵」という字は「抵触」「抵抗」などの熟語があります。そのため、ぶつかったり触れあったりという意味で「あたる」と読むのが「抵」という字です。
そして意味ですが、「家書万金に抵る」とは「旅先で受け取る家族からの手紙は、大変貴重である」という内容を表したものです。
例えば、仕事で海外へ行っていて、しばらくずっと家族に会えなかったとしましょう。そんな時に、母親から無事を確認するような手紙が来て、本人は大変喜んだとします。
このような場面では、「母親からの家書万金に抵る手紙を受け取った」などのように言うことができます。つまりこのことわざは、「家族からの手紙は何よりも嬉しいものである」という先人の教訓を示したものとなります。
家書万金に抵るの語源・由来
「家書万金に抵る」ということわざは、中国唐代の詩人である杜甫(とほ)の『春望(しゅんぼう)』に由来します。以下、『春望』の中の一文です。
国破れて山河在り。
城春にして草木深し。
時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ、別れを恨んでは鳥にも心を驚かす。
烽火(ほうか)三月(さんげつ)に連なり。
家書万金に抵(あた)る。
白頭掻けば更に短く
渾(す)べて簪(しん)に勝(た)へざらんと欲す
簡単に要約すると、「家族からの手紙は万金に値する」となります。
「家書」とは文字通り「家族からの書き物(手紙)」を意味し、「万金」とは「万単位の金」=「大金」を指します。すなわち、「家族からの手紙は大金と同じくらい価値がある」ということです。
当時の唐は、755年から763年にかけて「安禄山の乱」と言い、まさに戦乱が起こっていました。そんな戦乱の中、杜甫は敵に軟禁されており家族とも会えない状態が続きます。
命が尽きるまで母国に帰ることはできないというまさに絶望的な状態です。そんな絶望的な状態の杜甫にとって、生き別れになっている家族からの手紙はどんなに大金を積んでも代えられないほど貴重なものでした。
「家書万金に抵る」は、そのような当時の杜甫の気持ちが強く表れたセリフを由来とすることわざとなります。
家書万金に抵るの英語訳
「家書万金に抵る」は、英語だと次のように言います。
「A letter from family have a value of ten thousand pieces of gold.」
直訳すると「家族からの手紙は万単位の金と同じ価値がある」という意味です。「letter」は「手紙」、「family」は「家族」を意味することから、「A letter from family」で「家族からの手紙」と訳すことができます。
また、「thousand」は数字の「千」を意味します。これに「ten(10)」をつけることで、「10×1000」=「万」となり数字の「万」と訳すことができます。
「pieces」は「断片・破片」などを意味する単語ですが、ここでは一つの単位として使われていると考えて下さい。
家書万金に抵るの使い方・例文
最後に、「家書万金に抵る」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 単身赴任で仕事に悩んでいる時に、妻から一通のLINEが届いた。まさに私にとっては家書万金でした。
- 私がホームステイ先で苦労している時に、父は家書万金に抵る手紙をくれました。本当に感謝しています。
- 地元に住んでいる祖母からもらった家書万金の手紙。それは今でも私にとって心の支えとなっています。
- 「家書万金に抵る」と言うけどこのことわざは本当だね。先ほど実家にいる母親から久々にメールが来たよ。
- 新天地で一人思い悩んでいる時に、家書万金の手紙が届いていました。本当に家族の支えには感謝しています。
- 海外留学中に母親から励ましのメールが届きました。「家書万金に抵る」とはこのことだとしみじみ感じています。
「家書万金に抵る」は、「家族からの手紙は大変貴重である」という意味のことわざでした。ただ、実際の用例としては、必ずしも手紙に限定されるわけではありません。
現代ではメールやLINEなど様々な連絡手段がありますので、手紙を使うことは少なくなってきました。そのため、状況によっては、手紙以外の用途にも使われているようです。
また、「家書万金に抵る」とは言わずに、「家書万金」と略して使う場合もあります。この言葉自体で一つの四字熟語として意味が通じますので、文脈によっては「家書万金」とだけ記してもよいでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「家書万金に抵る」=旅先で受け取る家族からの手紙は、大変貴重である。
「語源・由来」=唐代の詩人、杜甫の『春望』の中の一文から。
「英語訳」=「A letter from family have a value of ten thousand pieces of gold.」
「家書万金に抵る」ということわざは非常に古くからあるものなので、一見とっつきにくい印象を与えてしまうかもしれません。しかし、現代でも使うことができる言葉ですのでこれを機にぜひ使ってみてはどうでしょうか?