利益や収穫、売れ行きなどが一番儲かる時期のことを「かきいれどき」と言います。日本では年末になるとよく使われる言葉です。
ただ、この場合に漢字で書くとどのような表記になるのかという問題があります。つまり、「書き入れ時」と書いて本当によいのかということです。
そこで本記事では、「かきいれどき」の意味や由来、使い方、言い換えなどを含め詳しく解説しました。
かきいれどきの漢字表記
「かきいれどき」の「かきいれ」は、「かきいれる(古典語では「かきいる」)」という動詞から出たものです。この「かきいれる」を漢字で書くとすると、以下の3つの表記が考えられます。
- 「掻き入れる」
- 「舁き入れる」
- 「書き入れる」
まず「掻き入れる」ですが、「掻き入れる」には「指や爪、または棒状の尖った先などで掻くようにして中へ入れる」という意味があります。「掻」という字は、「引っ掻く」の「掻く」と同じ漢字だと考える分かりやすいかと思われます。
また、この語は「掻き」を接頭語として、「入れる」「とりあえず入れる」「むぞうさに入れる」「力を加えて入れる」など古くから様々な意味としても用いられてきました。
以下の例文は、その意味での使い方に基づいたものです。
火取に火をかきいれて 出典:『紫式部日記』
ふところにかきいれて、わが身のならんやうもしらず、臥さまほしきこと限りなし 出典:『篁物語』
此の石を車に掻入て遣らせて 出典:『今昔物語集』
死に入りたりければ、物にかきいれて、になひもて行きけり 出典:『宇治拾遺物語』
本題の「かきいれどき」を「掻き入れ時」と書きたくなるのは、売れ行きが好調な際に「儲けを掻き集める時」という解釈が働くためであると考えられます。
ところが、これはいわゆる通俗語源(ある語の由来について言語学的な根拠がないもの)と呼ばれるものであり、正確な由来とは言えません。
したがって、「掻き入れ時」と表記するのは正しい解釈とは言えないことになります。
そして、二つ目の「舁き入れる」については元は「二人以上で物を担ぎ入れる」という意味の語です。「舁き入れる」も古くから使われており、以下は実際の用例となります。
程なくかごをかきいるればおさんはし迄出むかひ 出典:『大経師昔歴』 近松門左衛門
我に御まかせあれと申うちに、乗物長持かき入ける 出典:『西鶴諸国はなし(巻五)』 井原西鶴
この「舁き入れる」に関しては、本題の「利益があがる時」という意味とは全くつながりが考えられません。よって、「舁き入れ時」と表記するのも誤りであることが分かります。
書き入れ時は正しい表記か?
最後の「書き入れる」ですが、「書き入れる」は元々「すでにある文章の行間や余白などに文字や言葉、文章などを書き加える」という意味でした。また、単に「記入する」「書き込む」などの意でも用いられていました。
こちらも過去の用例を確認しておきます。
集(貫之集)に書き入れたる、ことはりなりかし 出典:『大鏡 巻三』 右大臣師輔
荒き言葉を書き入れ、思ひの外にいりほがなるぼんご・かん音などを載せたらんは、作者の僻事なり 出典:『風姿花伝 第六』 世阿弥
ところぐに書入れのしてある古く手擦れた革表紙の本だ。 出典:『桜の実の熟する時』 島崎藤村
そして、この「書き入れる」は中世から近世においては、次のような「借金の抵当物件としての家屋を証文に記す意味、抵当に入れる意味」としても用いられています。
質にかき入侯所帯、余人に談合せしめ、永代うり、かの借銭をすまし侯に付ては、是非にをよばず 出典:『塵茶集』九五条
呉服屋の手代請け込み、主人の金を百両持て来て、衣棚の家書入たる証文とって、小判わたして立帰れば 出典:『世間娘容気』巻4
葬札(とむらい)をかき入れ石塔を質に置いても、思ふ様にまはらざれば 出典:『根奈志具佐』巻三
為になる人まれなれば物入多く、此程は家内の雑作道具まで、書入たりし利付の金 出典:『春色辰巳園』巻十一
現在ではこれらの用例は見当たらないため、「かきいれどき」の意味とも結びつきにくいです。そのため、「かきいれ時」の「かきいれ」は本来の「書き加えること・記入すること」と関連があったと言うことができます。
すなわち、「商売が忙しくて利益が多い時は、帳面に記入することが多い」という解釈です。
その証拠に、現在の辞書や国語辞典などでも「書き入れ時」の語源解釈として以下のような文面を記しているものが多いです。
「帳簿の記入に忙しい時の意から」 出典:岩波国語辞典(第四版)
「つぎつぎに帳簿に記入する時期の意から」 出典:学研国語大辞典(第二版)
よって、「かきいれどき」の正しい漢字表記は「書き入れ時」であることが分かります。
かきいれどきの正しい語源・由来
ただ、戦前に刊行された国語辞典の「書き入れ」の項を見ると、現在の一般の国語辞典とは少し意味合いの異なる記載があります。
次にあげた辞典は、いずれも(一)に記入の意、(二)に抵当の意、そして(三)に次のような記述がされています。
(三)是れと予期すること。「其の日を書入にして待つ」「かきいれて所望する」 出典:大日本国語辞典
(三)売行、利益の期待。(確定の事として帳簿に書入れおく意) 出典:大言海
(三)未来の事をそれと目当てにして書くこと。柳楢「旅迎これ書入の一つなり」 出典:大辞典
~どき[書入時](名)書入れとした時。目的の時期。
~び[書入日](名)そのことがあるだろうと予期した日。 出典:辞苑
つまり、「忙しい時」とか「儲かる時」というよりも、「期待する時」「目あての時」「予期する日」という意味合いの方が強かったということです。
この意味での用例は、次のように小説文などにおいても確認されています。
あさくさのをくやまへやとはれて、よるのないしょくをかきいれに、やすだちまへで、十字ごろからをしろいこてく、~ 出典:『安愚楽鍋』
京さんは折角の書き入れ日をふいにされた事に対して云はうやうもなく業を煮やしたのであるが 出典:『新橋夜話』
前者は明治五年刊行のものですが、「夜の内職を目当てにする」という意味です。そして、後者の方は「約束した日」「あてにした日」という意味のものです。
以上の事から考えますと、「かきいれどき」という語は元々は「書き加える・記入する」という意味であったことは間違いありませんが、その後「目当てにする時期」「期待する時期」などの意味で使われていたことが分かります。
そして、この意味からさらに派生して、現在使われている「忙しい時期」「儲かる時期」などの意味に移っていったというわけです。
時系列で表すと、次のような形です。
したがって、「かきいれどき」の正しい語源・由来は「書き入れ時」であると言えます。そして、正しい漢字表記に関してもやはり本来の語源である「書き入れ時」であるということが分かります。
かきいれどきの類義語・言い換え
なお、必ずしも「かきいれどき」という言葉を使わなくてはいけないわけではありません。すなわち、別の言葉によって言い換えても構わないということです。
以下は、「かきいれどき」の「類義語」をまとめたものです。
- 繁忙期
- 繁盛期
- 忙しい時期
- 儲け時
- 稼ぎ時
- 全盛期
- 最盛期
- 働き盛り
- 刈り入れ時
- 旬
この中でも比較的よく使われるのが、「繁忙期」です。「繁忙期」は、文字通り「繁盛していて忙しい時期」を表した言葉となります。
「書き入れ時」は、利益が上がる時、利益が多い時などを表す言葉ですが、「繁忙期」は利益よりも忙しさを強調した言葉となります。その他、「儲け時」「稼ぎ時」などは「書き入れ時」と同様に、「利益の多さ」を強調した言葉です。
「類義語」は複数ありますが、「忙しさ」と「利益」のどちらを強調するかを考え、場面によってうまく使い分けるのが賢明だと言えるでしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「かきいれどき」=商店などで売れ行きがよく、最も利益の上がる時。利益の多い時。
「漢字表記」=「書き入れ時」と書く。「掻き入れ時」「舁き入れ時」などはNG。
「語源・由来」=商売が忙しい時期に帳簿へ「書き加えること・記入すること」から。
「かきいれどき」の漢字表記はいくつかありますが、正しくは「書き入れ時」です。元々は、書き加える時期の意から、目当てとする時期、儲かる時期と意味が移っていったのが「かきいれどき」だと覚えておきましょう。