『カブトムシから考える里山と物質循環』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、実際に文章を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、本文のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『カブトムシから考える里山と物質循環』のあらすじ
本文は、6つの段落から構成されています。以下に、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①なぜカブトムシは商品として売られるようになったのか。この問いに答えるのが、目的である。
②我々の歴史は、自然を社会化してきた歴史と言える。これまでに我々は生活の中に自然を取り込んできた。自然を社会化するというのは、大きく二つに分けることができる。一つは、労働による自然の社会化である。農耕牧畜において、我々は労働を通して自然を社会化してきた。二つ目は、文化による自然の社会化である。我々はさまざまな風土の中での生活を通じて、文化を形成してきた。カブトムシの話に戻れば、カブトムシを商品として捉えるようになったことは、自然の社会化の視点が欠かせない。文化による自然の社会化から言えば、我々はカブトムシをいつしか里の昆虫ではなく、売り買いする商品として捉えるようになった。そして、労働による自然の社会化から言えば、我々が里の生活を手放し、都市の労働を通して自然を社会化していたことの結果と考えることができる。
③我々の生活は、里の生活から都市の生活へと移ってきた。狩猟採集から農耕牧畜への移行では、我々は徐々に自然と距離を取り始めた。産業革命後は、人間が自然を支配するようになり、我々にとっての環境としての自然が大きく拡大した。都市の生活とは、商品に囲まれた生活を指す。そこでは、「労働力商品」として、我々自身が商品となる。都市の生活に移る前の生活は、里の生活であった。里の生活の最大の特徴は、人間と自然の物質循環を取り結ぶ<農>が営まれている点である。
④カブトムシは里山の昆虫である。カブトムシがいるということは、里山があるということであり、<農>が営まれているということである。<農>を営むためには、里山を適切に管理しなければならない。その里山は、里に住むみんなの土地という意味でコモンズと呼ばれる。カブトムシがいなくなったことは、コモンズとしての里山がなくなったことを象徴している。
⑤里、里山、奥山は一つの物質循環の単位だった。人間も一つの物質循環の単位である。人間と自然の物質循環を取り結んでいたのが<農>だった。しかし、都市の生活は、<農>が結んでいた人間と自然の物質循環を断ち切った。物質循環の仕組みがないところでは、里山はコモンズとして管理されず荒廃していく。その結果が、カブトムシの商品化である。カブトムシが商品として売られていることは、人間と自然の物質循環を媒介する里の労働から、商品を生み出す都市の労働へと変化したことを示している。
⑥カブトムシが商品として売られるようになったのは、直接的には里山の破壊、そしてその背景には、自然を商品として見るようになったことがある。カブトムシの商品化は、人間と自然の持続可能な物質循環に亀裂が入っていることの象徴である。この亀裂を修復するには、都市の生活や文化をふまえた新しい物質循環の単位を考える必要がある。ポイントは、人間と自然の脱商品化である。人間と自然を商品として扱わない、人間と自然を商品とは見ない見方を基礎とした、生活や文化の実践を積み上げていくことが肝要なのである。
『カブトムシから考える里山と物質循環』の要約&本文解説
この文章は、「なぜカブトムシは商品として売られるようになったのか」という問いを出発点にしています。単に「昆虫だから売られた」という話ではなく、もっと大きな歴史や社会の変化と結び付けて考えているのが特徴です。
1. 自然を「社会化」してきた人間の歴史
筆者はまず、人間の歴史は「自然を社会に取り込んできた歴史」だと説明します。
- 農業や牧畜を通じて自然を労働に結びつけた(労働による社会化)。
- 風土や生活を通じて文化を作り上げてきた(文化による社会化)。
この視点から、カブトムシもかつては「里山にいる昆虫」だったのに、次第に「商品」として扱われるようになった、と位置づけています。
2. 里の生活から都市の生活へ
昔の「里の生活」では、人間と自然は農業を通じて物質の循環を保っていました。里山はコモンズ(みんなの共有財産)として管理され、カブトムシの存在もその循環の一部でした。
しかし、産業革命以降、人々は都市で商品に囲まれて暮らすようになり、自然との物質循環が断ち切られました。その結果、里山は荒れ、カブトムシは「自然の一部」ではなく「商品」として扱われるようになったのです。
3. カブトムシ商品化の意味
カブトムシが売られていることは、単なる「昆虫ブーム」や「需要があるから」という話ではなく、
- 里山の崩壊
- 自然と人間のつながりの断絶
- 都市生活による自然の商品化
を象徴している、と筆者は考えています。
4. 筆者の結論
最後に筆者は、「人間と自然を商品として扱わない新しい関係性を築く必要がある」と述べます。つまり、
- 自然や人間を「商品」とみなさない
- 持続可能な物質循環を取り戻す
- 都市の文化や生活に合った新しい仕組みを作る
これが今後の課題だ、というのが筆者の主張です。
要するに、カブトムシが商品として売られるようになったのは、「里山と人間のつながりが失われ、自然が商品として扱われるようになったから」である。そして、「人間と自然を商品化しない新しい関係を築くことが必要である」ということを筆者は訴えているのです。
『カブトムシから考える里山と物質循環』の意味調べノート
【生け垣(いけがき)】⇒ 庭や道を区切るために植えられた樹木の列。
【違和感(いわかん)】⇒ しっくり合わない感じ。不自然さ。
【狩猟採集(しゅりょうさいしゅう)】⇒ 野生の動物を狩り、植物を採って生活する営み。
【農耕牧畜(のうこうぼくちく)】⇒ 穀物を育て、家畜を飼うことで生活を営むこと。
【規定(きてい)】⇒ 事柄を一定の形に定めること。また、その決まり。
【秩序(ちつじょ)】⇒ 物事が正しく整った状態や、その仕組み。
【即座(そくざ)】⇒ すぐその場で。ためらわず瞬時に。
【四季折々(しきおりおり)】⇒ 春夏秋冬それぞれの季節ごとに。
【依存(いぞん)】⇒ 他に頼って成り立つこと。
【グローバル】⇒ 世界的・国際的であるさま。
【よそよそしい】⇒ 他人行儀で親しみがないようす。
【象徴(しょうちょう)】⇒ 抽象的なものを具体的な形で表すこと。また、その表れ。
【里(さと)】⇒ 人が集まって住む地域。村。
【里山(さとやま)】⇒ 里の近くにある山で、人々が利用しながら守ってきた自然。
【奥山(おくやま)】⇒ 人里から遠く離れた山。深い山奥。
【荒廃(こうはい)】⇒ 荒れて衰えること。
【媒介(ばいかい)】⇒ 両者の間を取り持つこと。仲立ち。
【亀裂(きれつ)】⇒ 不和や対立。ほころび。
【肝要(かんよう)】⇒ とても大切であること。重要であること。
『カブトムシから考える里山と物質循環』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①シュリョウで得た肉を分ける。
②ホソウした道路を歩く。
③ジュンカン型社会を目指す。
④蚊が病気をバイカイする。
⑤仲間との関係にキレツが入った。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)カブトムシの商品化は、昆虫採集ブームの結果にすぎず、人間の生活や社会の変化とは無関係である。
(イ)都市生活が拡大しても、人間と自然の物質循環は保たれ、里山はコモンズとして維持されている。
(ウ)カブトムシの商品化は、里山の荒廃と人間と自然の物質循環の断絶を象徴しており、脱商品化による新しい循環の構築が求められている。
(エ)人間が自然を商品として捉えるようになったのは近年ではなく、狩猟採集時代から一貫して続いている。
まとめ
今回は、『カブトムシから考える里山と物質循環』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。