「芋を引く(いもをひく)」という慣用句をご存知でしょうか?
ヤクザや極道の漫画の中でよく登場し、カタカナで「イモを引く」と書くこともあります。ただ、この言葉は具体的な由来やそもそも方言なのかどうかといった疑問があります。
そこで本記事では、「芋を引く」の意味や使い方、類義語などを含め詳しく解説しました。
芋を引くの意味・読み方
「芋を引く」は「いもをひく」と読みます。意味は「怖気づくこと・負けを怖がること・恐れで物事から手を引くこと」などを表したものです。
例えば、お化け屋敷や怪談話などが嫌いな人は「芋を引く性格」だと言えます。また、勝負事をするのを避け、負けを怖がるような人も「芋を引く人」だと言えます。
このように、「怖がること・ビビること・恐怖で尻込みすること」などを「芋を引く」と言うわけです。
実は「芋を引く」という表現は、辞書には載せられていません。そのため、現在使われている「芋を引く」は、ヤクザや極道の世界における専門用語だと言われています。
ヤクザの世界では、何かの事件を起こした際に警察に捕まるのではないかと怖れたり、他の組織との争い事に怖気づくような事はご法度です。なぜなら、彼らにとっては自分たちの負けを認めるような弱い一面を見せるのは「死」と同じを意味するからです。
ヤクザとして上に出世すればするほど、この傾向は強くなります。ゆえに、相手に弱みを見せるようなヤクザを、彼らは一種の隠語の意味も込めて「芋を引く」と言っているわけです。
芋を引くの語源・由来
「芋を引く」は、「さつまいもを引き抜く際に、体が後退すること」に由来した表現です。
一般にさつまいもは、つるを持って引っ張り、土の中から芋を一気に引き抜くことで収穫できます。しかしながら、実際に芋を引く際はそれなりの力が必要とされます。
そのため、いざ芋を引きずり出そうとすると体が後退するのが普通です。特に女性や子供などのか弱い人、肉体労働に慣れていない人などが行うと、へっぴり腰になり体が後ろに下がってしまいます。
この時の体が後退している様子が、第三者からすると「怖がっているさま」「臆病なさま」に似ているため、「怖気づくこと」を「芋を引く」と言うようになったわけです。
なお、「芋を引く」という言葉自体は方言が語源というわけではありません。ただ、先述したように辞書に載せられている言葉ではないので、公式な場、公的な文書などでは使うのは避けた方が無難と言えるでしょう。
芋を引くの類義語
「芋を引く」の類義語は以下の通りです。
- 怖気づく
- 怖がる
- ビビる
- たじろぐ
- 物怖じする
- 弱腰になる
- 縮み上がる
- 気後れする
- 怯む(ひるむ)
- 及び腰になる
- へっぴり腰になる
基本的にはどれも怖がったり引き下がったりすることを表す言葉です。他には、四字熟語だと「小心翼々」、慣用句だと「蚤の心臓」なども類義語に含まれます。
「小心翼々(しょうしんよくよく)」とは「気が小さく、びくびくしていること」を表した言葉です。「小心」は「気が小さいさま」、「翼々」は「びくびくしているさま」という意味です。
また、「蚤の心臓(のみのしんぞう)」とは「気が小さく、臆病であること」を表した言葉です。文字通り、ノミの心臓はとてつもなく小さい事に由来することわざとなります。
なお、「芋を引く」ではなく、「芋引く」のように略して言う事もあります。どちらを使っても意味自体は同じと考えて問題ありません。ここから転じて、臆病者のことを「芋引き」と言ったりもします。
芋を引くの英語訳
「芋を引く」は、英語だと次のように言います。
「be scared of~」(~を怖がる・~が怖い)
「be afraid of~」(~を恐れる・恐怖を感じる)
「scared」と「afraid」はどちらも「怖がる様子」を表す単語です。
ただ、「scared」は犬や音、お化けなど自分の外にあるものによって恐れを抱く時に使います。対して、「afraid」は自分の内なるもの(本能的あるいは性格的)によって恐れを抱くような時に使います。
英語で芋を表す単語は「potato」などがありますが、「芋を引く」だと間接的に怖がる様子を伝える表現となります。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
I am scared of dogs.(私は犬が怖い。)
Don’t be scared of making mistakes.(失敗することを恐れてはいけない。)
I am afraid of my mother.(私は母親を恐れている。)
Don’t be afraid of him.(彼を恐れないでください。)
芋を引くの使い方・例文
最後に、「芋を引く」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 大事な場面で芋を引くような彼は、ヤクザには心底向かない性格だ。
- 彼は芋を引く性格なので、上司が変わるたびに常におどおどしている。
- 彼女はすぐに芋を引くくせに、人前に立つとなぜか強がる傾向にある。
- ここまで来たんだから芋を引く必要などない。思い切っていきなさい。
- 昔から怖い話が苦手な私にとって、怪談話は芋を引くのが似合っている。
- バンジージャンプの会場には、芋を引くことを知らない猛者たちが多くいた。
- 幼少期から芋を引く性格だったので、現在も人に意見するようなことはない。
「芋を引く」は、主に怖気づいた本人が使う場合と怖気づいた相手や周囲の人間に使う場合に分かれます。
前者は自分の性格を半ば自虐的に紹介するようなシーンで使われます。一方で、後者は相手の臆病さを馬鹿にしたりするようなシーンで使われます。
どちらの場合も、その人が「怖気づくこと・弱腰になること」という意味では共通しています。状況に応じてうまく使い分けるようにして下さい。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「芋を引く」=怖気づくこと・負けを怖がること・恐れで物事から手を引くこと。
「語源・由来」=さつまいもを引き抜く際に、体が後退してしまう弱腰な姿から。
「類義語」=「怖気づく・怖がる・ビビる・たじろぐ・弱腰になる・気後れする・及び腰になる・へっぴり腰になる」など。
「英語訳」=「be scared of~」「be afraid of~」
人はイモを掘る際に力を入れて腰を引きます。その時の姿が腰が引けているので、「逃げ腰」⇒「怖がる」という意味になったのが「芋を引く」です。ぜひ正しい由来を覚えて使って頂ければと思います。