「学校に行く」「会社に行く」などと言う時に、「いく」と「ゆく」のどちらを使えばよいのかという問題があります。同じ「行く」を表すこの二つの表記ですが、実際にどのように使い分ければよいのでしょうか?
この記事では、「いく」と「ゆく」の違いや使い分けを分かりやすく解説していきます。どちらを使うべきか迷ったときの参考にしてみてください。
「いく」と「ゆく」はどっちが正しい?
結論から言いますと、「いく」と「ゆく」のどちらを使っても正しいです。つまり、どちらが正解でどちらが間違いなどの基準はないということです。
現在の常用漢字表には、「行く」の読み方に「いく」も「ゆく」もあります。ですので、「学校にいく」でも「学校にゆく」でも、どちらでも正しい言い方となります。
しかし、普段の生活では「学校にいく」と言う人の方が圧倒的に多いと思われます。逆に、「行く末」「行く年来る年」「去り行く」などは「ゆく」と言う人が多いです。
そのため、なぜこのような違いが生まれるのかという理由の部分を説明していきたいと思います。
「いく」と「ゆく」の違いを知る
「いく」も「ゆく」もその由来は古く、奈良時代の万葉集の時代から使われていたと言われています。
しかし、室町時代を過ぎる頃までは「ゆく」の方が優勢でした。当時は、和歌や書簡などに「ゆく」が多く使われていたのです。
そのため、今でも詩的な文脈や文語的な表現には「ゆく」が使われることが多いです。
先ほどの「行く末」や「行く年くる年」などの慣用的な表現に「ゆく」が使われているのは、この当時の名残りがあるためです。
その後、明治以降の教科書では「ゆく」に代わって「いく」が主流となりました。
そして現在では、日常的、普段の生活では「いく」を使うことが多く、文語的、慣用的な表現だと「ゆく」を使うことが多くなっています。
このような流れもあり、現在では「いく」と「ゆく」の両方が使われています。
ですので、両者の違いを簡潔に述べるなら、「いく」は口語的な表現、「ゆく」は文語的な表現ということになります。
「いく」と「ゆく」の使い分け
日常的な会話や文章では、「いく」が一般的に使われます。
日常的には「いく」を使う
「いく」は、日常会話や実用的な文章で頻繁に使われます。たとえば、「学校へいく」「買い物にいく」といった自然な表現では「いく」が適切です。
例文
- 明日、友達と映画を見にいく。
- 家族で温泉旅行にいく予定だ。
- 今からスーパーにいくけど、何か必要なものある?
- 先生の家に宿題を届けにいく。
- 新しいお店にみんなでいくつもりだ。
文学的には「ゆく」を使う
一方、「ゆく」は詩や小説などの文学的な表現で好まれます。感情や時の流れを美しく表現したいときに使われることが多く、情緒的な響きがあるのが特徴です。
例文
- 秋の風が吹き、紅葉が散りゆく。
- 旅人は静かに山道をゆく。
- 季節がゆくごとに、風景が変わる。
- 彼女の姿が遠くへゆくのが見えた。
- 月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。(松尾芭蕉の「奥の細道」より)
「いく」と「ゆく」のどちらも使える場合
「行く」は、「いく」と「ゆく」のどちらを使っても通じる場面があります。ただし、細かいニュアンスの違いを理解することで、より的確な表現が可能になります。
1. 日常的な移動を表す場合
実際の移動や行動を示す場合、「いく」と「ゆく」はどちらも正解です。一般的には「いく」が自然ですが、「ゆく」を使うことで文章や会話に少し詩的な響きを加えることができます。
例文
- 「明日、友達と東京にいく。」(日常的で軽いニュアンス)
- 「明日、友達と東京にゆく。」(やや文学的な響き)
2. 時間の変化を表す場合
具体的な移動だけでなく、時間や状態の変化を表現する場合もどちらでも通じます。
例文
- 「時がいくのは早いね。」(日常的・会話調)
- 「時がゆくのを見つめていると、不思議な気持ちになる。」(感傷的・文学的)
「ゆく」の方が、感情や雰囲気を強調したい場面で使われやすいです。
3. 慣用句として使う場合
多くの慣用表現では、「いく」と「ゆく」の両方が使われます。この場合も、微妙に意味合いが異なってきます。
例文
- 「彼は新たな道へいくようだ。」(直接的で現実的な描写)
- 「彼は新たな道をゆくようだ。」(感情や覚悟を含む描写)
具体例
- 「風がいく」「風がゆく」→ どちらも使えるが、「ゆく」の方が詩的。
- 「旅立っていく」「旅立ってゆく」→ 両方使えるが、「ゆく」は叙情的。
4. 音や響きとして使う場合
リズムや響きの好みで選ばれることもあります。特に詩や歌詞では、柔らかさや情緒を感じさせる「ゆく」が選ばれることが多いです。
例文
- 「新しい世界へいこう!」(カジュアルで親しみやすい)
- 「新しい世界へゆこう!」(少しロマンチックな響き)
5. 文学や詩として使う場面
文学や詩ではどちらも使えますが、「ゆく」の使用が目立ちます。時間や人生の移ろいなど、抽象的なテーマとマッチするためです。
例文
- 「春がいくにつれて、花が咲き始めた。」(現実的な描写)
- 「春がゆく、その短い命を惜しむように花が咲く。」(詩的な描写)
このように、場面によって両者を使い分けることで、細かいニュアンスの違いを表現することができます。
まとめ
「いく」と「ゆく」は、どちらを使っても間違いではありません。ただ、場面や文章の目的によって使い分けることで、日本語の表現力が高まります。
特に、詩的な響きを持つ「ゆく」は、感情を込めたいときや文学的な雰囲気を出したいときに適しています。迷ったときは「いく」を選べば間違いはありませんが、意図的に「ゆく」を使うことで文章が一段と豊かになるでしょう。