「百鬼夜行」という四字熟語をご存知でしょうか?
「鬼」や「夜」と書くので、怖そうなイメージを持つ人も多いかも知れません。ただ、具体的な由来までは知らないという人がほとんどだと思われます。
そこで本記事では、「百鬼夜行」の意味や語源、類語、英語などを含め詳しく解説しました。
百鬼夜行の読み方
「百鬼夜行」は、「ひゃっきやこう」もしくは「ひゃっきやぎょう」と読みます。どちらの読み方でも可能ですが、一般には「ひゃっきやこう」と読むことの方が多いです。
これは辞書や辞典の表記に従っているものだと思われます。複数の辞書を比較してみても、「やぎょう」ではなく「やこう」と記しているものの方が多いです。そのため、通常は「ひゃっきやこう」と読むということです。
ただ、まれに小説などの作中でふりがなを振って「百鬼夜行」が使われる場合もあります。
例⇒「ひゃくきやこう」「ひやつきやぎやう」など。
この場合は、本の中で使われている読み方なので、その通りに読むことになります。
百鬼夜行の意味とは
次に、「百鬼夜行」の意味を辞書で引いてみます。
【百鬼夜行(ひゃっきやこう)】
⇒悪人どもが時を得て、勝手に振る舞うこと。また、多くの人が怪しく醜い行為をすること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「百鬼夜行」とは「多くの悪人たちが、時を得て勝手に振る舞うこと」「多くの人が怪しく醜い行為をすること」などを表したものです。
「時を得る」とは「機会やタイミングを上手く利用すること」だと考えて下さい。
例えば、治安の悪化している国では、夜になると街で強盗が発生したりします。これは、昼よりも夜の方が犯罪をするタイミングに適しているためです。そして、実際に辺りが暗くなると多くの悪人が勝手気ままに犯罪を行ったりします。
このような光景は、まさに「百鬼夜行」だと言えます。
他には、悪徳政治家たちが夜に料亭で集まり、怪しい会話をしている様子なども「百鬼夜行」だと言えます。
つまり、「百鬼夜行」とは、多くの悪人達が機会を上手く利用し、好き勝手に行動する様子を表した四字熟語ということです。
百鬼夜行の語源・由来
「百鬼夜行」の「百鬼」は、「様々な多くの妖怪」を表します。実際に100匹妖怪がいるというわけではなく、それくらい妖怪の数が多いという意味です。
そして、「夜行」とは「夜の闇を列をなして歩き回ること」です。「夜に行う」と書くように、人が寝静まった静かな夜にぞろぞろと歩きまわることを表します。
この事から、「多くの悪人が、悪い行いを好き放題する」という意味になったわけです。
元々、「百鬼夜行」という四字熟語は平安時代頃からはすでに使われていました。平安時代の説話である『今昔物語(こんじゃくものがたり)』や『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』には「百鬼夜行」という言葉が登場しているのです。
そして、はっきりと世に出始めたのが室町時代からです。室町時代では土佐光信が描いたとされる絵巻があり、これが『百鬼夜行絵巻』と呼ばれています。
『百鬼夜行絵巻』の中には、様々な動物、人間の姿をした妖怪や「付喪神(つくもがみ)」と呼ばれる道具や楽器の姿をした妖怪が多く描かれています。
当時、人間が使用していた様々な道具は、99年経つと魂を持ち妖怪になると言われていました。この妖怪たちが多数集まり、人間に襲い掛かるというお話です。
さらに、江戸時代になると『画図百鬼夜行』という妖怪全集のようなものが登場するようになります。『画図百鬼夜行』とは、鳥山石燕という画家が描いた妖怪の画集です。
そこには、河童や天狗・猫又・狸・狐といった私たちになじみのある妖怪が多数描かれています。他には、ろくろ首やぬらりひょん、山姥などの妖怪も描かれています。
これらの妖怪を描いた作品を由来としているのが、現在使われている「百鬼夜行」ということです。
百鬼夜行の類義語
続いて、「百鬼夜行」の「類義語」を紹介します。
「類義語」は、人に危害を加える化け物や妖怪などを表した言葉となります。
この中で、最もよく使われる四字熟語が「魑魅魍魎」です。「魑魅」は山林の気から生じる山の化け物を指し、「魍魎」は山川の気から生じる水の化け物を指します。
両者を合わせることで、「人に害を与える化け物」や「悪だくみをする人」を表すことになります。
「百鬼夜行」と「魑魅魍魎」の大きな違いは、「妖怪や悪だくみをする人の数」です。「百鬼夜行」は、列をなすほどの多数の妖怪や人に対して使います。
一方で「魑魅魍魎」も大きな数を対象とすることができますが、どちらかと言うと一体だけの妖怪や一人だけの悪人に対して使います。
百鬼夜行の対義語
「百鬼夜行」の「対義語」と呼べるものは特にありません。
しいて挙げるならば、「善人」や「無私無欲」などが挙げられます。
「百鬼夜行」は、悪さをする人すなわち「悪人」を表す言葉なので、その反対に当たるのは「善人」です。また、悪さを働く者は基本的に欲や我が強い人なので、欲や我がない様子を表す「無視無欲」が反対語となります。
その他、妖怪や化け物を「得体のしれないもの」と定義するならば、「人間」や「生物」なども対義語に含まれる可能性もあります。ただ、現代では妖怪のような悪意の強い人間も実際にいますので、現実的には対義語とは呼べません。
百鬼夜行の英語訳
「百鬼夜行」は、英語だと次のように言います。
「Night Parade by Hundred of Specters」
「Night Parade of One Hundred Demons」
「night」は「夜」、「parade」は「行進」、「specters」は「妖怪・お化け」などの意味を持つ単語です。また、「hundred of」は「何百の」という意味の熟語です。合わせることで、前者は「何百もの妖怪による夜の行進」と訳すことができます。
また、後者の「Demons」は「悪魔・鬼・悪鬼」などの意味です。こちらは「百匹の鬼による夜の行進」と訳すことができます。その他、間接的な表現であれば「pandemonium(混乱・大混乱)」などの単語を使う方法もあります。
百鬼夜行の使い方・例文
最後に、「百鬼夜行」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 怪談やホラー映画が好きな彼は、百鬼夜行に大変興味がある。
- 部屋いっぱいに飾られていたのは、百鬼夜行の絵巻であった。
- 何やら怖そうな人たちが夜にぞろぞろと歩いてる。まるで百鬼夜行のようだ。
- 百鬼夜行と呼ばれる治安の悪い場所だから、夜は特に気を付けた方がいいぞ。
- ここは法などの規制がない無法地帯と言われている。まさに百鬼夜行である。
- 彼が務めている業界は百鬼夜行だから、簡単に相手の話を信じてはいけない。
- 悪徳詐欺師たちが夜に集まって何やら話しているらしい。現代版の百鬼夜行だね。
「百鬼夜行」は、「妖怪」に使う場合と「人」に使う場合に分かれます。
例文だと、1~3は「妖怪」、4~7は「人」に対して使われたものです。どちらの意味でも使えますが、一般には「人」に対して使われることが多いです。
実際の用例としては、「人目の付かないところで悪人達がはびこる」というニュアンスで用いられます。
「百鬼夜行」は、「夜の中」「闇の中」という意味が元になっているため、人目に付くような悪事に対して使われるものではありません。そうではなく、目立たない場所、人目に付かないような悪事を働く人達を対象とする四字熟語です。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「百鬼夜行」=多くの悪人たちが、時を得て勝手に振る舞うこと。多くの人が怪しく醜い行為をすること。
「語源・由来」=様々な多くの妖怪が、夜の闇を列をなして歩き回ることから。『百鬼夜行絵巻』
「類義語」=「魑魅魍魎・妖怪変化・神出鬼没・悪鬼羅刹」
「英語訳」=「Night Parade by Hundred of Specters」「Night Parade of One Hundred Demons」
「百鬼夜行」は日本に古くからある四字熟語です。由来を理解したからには、ぜひ正しい場面で使って頂ければと思います。